- 著者インタビュー
- 学校経営
従来からも教育改革については、言われ続けてきたし、その度にいろいろな新しい手立ても講じられてきました。しかし、どうもそれは木を見て森を見ない対症療法的というか、その時その時に持ち上がった課題や問題点をどう克服していくかという視点に、力点が置かれがちでした。そういうことも大事ですが、もっと日本の学校教育の在り方そのものを根底から、あるいは根本から見直してみる必要もあるのではないかということです。要するに戦後六十年たって、今までのわが国の特に義務教育学校のあり方といったものをこれからの社会の変化の在り方といったものと関連させながら、考えていく必要があるだろうということです。戦後の反省と、これからの社会、といった未来を創造していける学校教育のあり方、過去と未来の両方を視野に入れた改革をしていかなければならないということが問題意識と言えます。
よく「学校改革」と言うけれども、学校の何を改革するのかということをしっかりと整理することが必要でしょう。例えば、教育の内容であるとか、方法であるとか、学校の組織であるとか、あるいは教員の意識であるとか、管理職の経営能力であるとか、そのすべてが「学校改革」という枠組みに入ります。ですから、「学校改革」と一口に言ってもいろいろな切り口があります。そこで、品川の場合には、まずは管理職の学校経営に関するナレッジ、あるいは、これからの社会のあり方を見据えたマネージメントセンスなどが必要であり大切であると考えました。すべての管理職の経営能力を研ぎ澄ますという目的に対して、学校選択制や外部評価や小中一貫教育や市民科はすべてそのための手段でもあると認識していくことが大切です。ここで大事なことは何が目的でありそのために手段として何を採用していくかということをいつも整理しておかないと、ただ現場が忙しくなったり、振り回されたりすることが起こるということです。ここを注意しなければならないでしょう。
学校現場のとらえ方も様々ありますが、まず管理職にはどんな変化が出てきたかというと、従来は、ただ単に横並び意識で学校を経営していこうといった事なかれ主義、妙な競争などによって自らにあるいは先生たちにプレッシャーを与えないで和気あいあいでやっていこうという暗黙の意識がありました。それが、子どもたちの学力だとか人間形成といったものに対して一定の成果をある期間の中できちんと出していこう、それを世間にわかりやすく発信していこうというような、社会に向けて打って出るような意識に変わったことが大きな変化と言えます。
また、保護者の変化というのは難しいですが、保護者は学校を選ぶことができる環境に置かれたことによって、今まで以上に学校教育に対して、自分なりの視点、基準、そういったものを持つようになってきました。これは、好ましい変化であると同時に学校に対する要求あるいは要請が多様化してしまったという結果も招いています。しかし、こうした経験を通して社会や保護者が教育といったものや自分の子どもというものを考えるきっかけが生まれてきたことは大きな変化だと考えています。
最初に指摘できることは、学校の義務教育学校における役割、あるいは義務教育学校が負うべき使命というようなものが最近非常にあいまいになってきているということです。あいまいになってきているというよりも、何でも教育という名の下に、学校にその要求が押し寄せてきています。ここに大きな課題があって、もう一度、日本の義務教育学校の使命といったようなものを広く議論して、ある一定の国民的なコンセンサスを得ることが必要ではないだろうかと思います。そこでいろいろな要求があれば、教育環境の整備として、教員の定数の増といったようなものが当然出てくるだろうと思います。しかし、学校の使命がもっとスリム化されれば教員定数の改善というのはまた別の問題になってくるのかもしれません。
品川区の今までの取り組み、あるいはこれからの品川区の流れを考えたときに、今、品川では外部評価者制度を取り入れていますが、やがて、各学校が地域の人や有識者を入れた運営委員会のようなものを基にして学校が経営されていくようになることが私は望ましいと思っています。そこには、場合によっては一定の予算とかいったようなものも付与することが当然必要であって、そういう中で活動をするということを将来の目標の一つにおいておくとするならば、さっき言ったように学校教育の使命というもののある意味ではスリム化というものを図っておく必要もあると思います。外部評価者制度を導入したり、専門外部評価制度を導入したりしていることは、来るべき学校運営委員会の時代を見据えて今、そのトレーニングをしているとも言えます。
各自治体に言いたいことは、まず、国や都・県の教育委員会を頼りにし過ぎないで欲しいということです。地方分権と言われていたり、その地域にあった学校づくりが今求められたりしているにもかかわらず、旧態依然とした体質やものの考え方を温存している自治体がほとんどです。そして、問題が起こると、国のあるいは県の規制や決まりがあるからと言って、自らの無作為を県や国のせいにするといったある意味では非常にずるい発想があります。
しかし、品川の実践のように小さな自治体でもあるいはその中の学校でも、ここまでの改革ができるということをよく見てもらって、それぞれの地域の自治体の子どもの幸せを本当に願うならば、それぞれの自治体や学校が自らの意志と知恵でその地域にあった学校を創り上げていくという意欲をもって欲しいと思います。そのヒントがこの本の中にはあふれるほど書いてあります。