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こどもたちにお話をする時に時々、本当はお話の中身って何でもいいんじゃないのかなって……、そう感じることがあるんです。こどもは、お話の内容ではなく、お話してくれること、そこに安らぎや保育者の愛情を感じて、ほっとしてるんじゃないかなって思うんですね。それは、日常的な普段の会話とは少し違う、なんだか温かなコミュニケーション。こどもにとってのお話。それは「先生からのラブレター」のようなものだと僕は思っています。だから、思わずうれしくなったり、にっこりしたり、安心したり、甘えてみたくなったり……。きっと「自分は愛されているんだ」とこどもたちは感じているんじゃないか、そう思っています。
当初は、僕がいつもこどもたちにお話している内容を文章として表現してみようと思っていました。そんな中、東日本大震災がおこって、日本中がとても大きな悲しみを抱えてみんなから笑顔が消えてしまったんですね。大人もこどもも、みんな……。しばらくして、沢山の人たちが、みんなを元気にするために今の自分にできることをはじめました。僕は、被災地のこどもたちだけでなく、日本中のこどもたちが元気になるために、今の自分に何ができるだろう、そう考えました。そこで、今回たくさんのメッセージを込めて、この50本のお話を新しく書くことにしました。この50本のお話のテーマは、「希望」であり「笑顔」です。
絵本もお話も、こどもたちを楽しませ、そしてワクワクさせる、「こころを育てる」という点では同じものです。でも、この二つは育てるものが少しだけ違います。大切な二つの能力の基礎です。それは「イメージ力」と「コミュニケーション力」です。絵本は、その絵とお話を通して、その世界感にふれていきます。そして、目の前のキャラクターや登場人物たちがありありと想像の世界でかけまわりはじめます。一方お話は、話し手の表情や口の動き、そして声のトーンを通して、その人の気持ちをつかむ、そうした能力を育てているんです。僕は今、小学校にも入って、学童期のこどもたちとも接していますが、そこで感じるのは、保育園や幼稚園の時期のお話や読み聞かせがこんなところで活きているんだ、ということ。そうした場面を沢山目にしています。お話と絵本の読み聞かせの効果は、きっと学童期に現われてくるんですね。
人生の体験は、その人だけのもの。それぞれの人生は、「オリジナルなお話」です。是非先生方には、ご自身の経験を通して得た様々な知恵やうれしかったことを物語にして欲しいと思っています。僕も自分自身の人生の恥ずかしい話や失敗談を様々なキャラクターを通じて表現し、こどもたちに「僕のような失敗しないでね」、そんな思いを伝えています。お話を通してぜひ、先生方の素晴らしい体験やちょっと恥ずかしかったことも表現してみてはいかがですか? 先生の思いのこもった作品は、きっとこどもたちのこころに届くと思います。
この本の50本のお話を通して先生方にお伝えしたいことがあります。それは、こどもたちは絵本やお話を読んで欲しいのではなく、先生にも一緒に楽しんで欲しい、そう思っているということです。その世界に一緒に入って、一緒に走ったり、感じたり笑ったり、その体験を共有したいのです。一緒に笑顔で楽しむこと。これがこどもたちの思いなのです。この本の50本のお話は、僕がこどもたちと一緒に遊び、暮らしている僕とこどもたちの共有できる世界です。是非、先生方には、新しい世界を作りだして欲しいと思っています。そう、先生が作り出す、こどもたちと先生だけの「お話の世界」です。きっと、こどもたちはその世界を思う存分、安心して楽しんでくれるはずです。なぜなら、それは大好きな先生が自分たちのために作ってくれた世界だからです。是非、こどもたちと一緒に、いやこどもたち以上に「お話の世界」を楽しんでみてください。