- 著者インタビュー
- 算数・数学
数学的活動とは、対象に働きかけるとそこから数学的な内容が跳ね返ってくる波が存在する活動ではないかと考えます。本書に収録されている学習具を操作することで、生徒それぞれが数学をとらえられるようになります。それは、生徒個々の活動や思考の自由を保障することであり、ぜひ生徒一人ひとりが学習具を使う場面をつくっていただきたいと思います。数学的活動の楽しさを、目や手によって実感できるはずです。学習において獲得したものが自分のものであるという自覚は、新たな課題へ向かうエネルギーになります。また、第1章に掲載している現物実験のプロセスを意識して授業を構築すれば、学習具はより大きな力を発揮するはずです。
「ライト学習具」は手軽に扱えますが、数学的概念・原理・法則のイメージをしっかりととらえる手助けになります。中にはノートにはり付けることができるものもあり、思考の過程がわかる生きたノートをつくり上げます。復習や宿題をする際に、授業を再生できる利点もあり、ライト学習具による動く記録は、自分で導く力の形成に役立つと考えます。準備は簡単にできますが、ソフトウェア(数学的内容)、ハードウェア(ライト学習具)、ユースウェア(学習具の使い方や授業の展開)の3つが有機的に働くことが大切ですので、授業前に先生が実際に操作してみることをおすすめします。
もちろん、数学にかかわる書物やインターネットからヒントを得ることはありますが、直接数学には関係のない書物から得られることの方が多いです。着眼点は、知的なおもしろ味や不思議さを感じ取れる生活素材や自然現象、他の教科で扱われている内容です。これらを数学の授業に適用させることを考えます。また、板書計画をつくる際に、図を利用して説明することがあります。その図に動的な要素が含まれる場合は、学習具に変換できます。それは、生徒自身の手によって数学を見つけさせたいという願いの表れでもあります。本書に収録されている学習具が全国で活躍するとともに、先生方の教材、教具、学習具づくりのヒントになればうれしいです。
本書に収録されている学習具は、数学が苦手な生徒を意識してつくられています。「教具」ではなく「学習具」という言葉を使っているのは、主体的な活動によって、どの生徒にも「わかった」「自分で考えた」「楽しい」「うまくいった」という経験をさせたいからです。また、学習具の操作や処理の状況によって、生徒の活動や思考の状況を把握でき、遅れがちな生徒には、学習具を媒介にして指導することができます。また、ゲームやパズルなども、どの生徒も同じ土俵で行うことができ、自分の努力の成果を試すことができるため、有効な方法と言えます。
授業が“わかる、楽しい”ものになっているかどうかは、生徒の表情を見ればわかります。まずは、授業をする先生自身がおもしろいと感じることも大切です。私は多くの学習具を開発してきましたが、それが自分の授業スタイルをつくっています。生徒の個性を生かす教育が重視されるようになって久しいですが、授業で私たち教師の個性を生かすことが、“わかる、楽しい”授業をつくることにつながると感じています。「わかる、たのしい」をシャッフルすると「わたし、いるのか」になります。ぜひ、生徒も先生も自分の存在を実感できる授業を構築してください!