著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「学んで良かった」と感じる世界史授業づくりへのアプローチ
共立女子大学教授田尻 信壹
2012/7/17 掲載

田尻 信壹たじり しんいち

1955年生まれ。埼玉県公立高校・国立附属高校教諭、富山大学人間発達科学部教授を経て、現在共立女子大学教授。文部科学省初等中等教育局教科調査官(平成20年度〜平成23年度)。

―世界史学習を考える際に、避けては通れない事件が2006年秋の「世界史未履修問題」ですが、この事件の意味と、本書のねらいについて教えて下さい。

◇学びたい、学んで良かったと感じる世界史授業の創造◇
 「世界史未履修問題」は、大学受験の関わりの中で、世界史という科目は今日の高校生にとってどうあるべきなのかという問題を突きつけたものでした。しかし、この問題は大学受験と言う枠組みの中に留まるものではありません。私たち執筆者は世界史を「地歴科の総合科目」として位置付けるとともに、高校生が学びたい、学んで良かったと感じる世界史授業を創造し、提案したいと考えています。

―本書のT章ではそれぞれの分野の研究者から「世界史にはこのようなとらえ方がある」「このような切り口で教えると面白くなる」と言った世界史の見方・考え方、世界史学習への提案がまとめられています。そのねらいと読み方について教えて下さい。

◇「地球社会の道標」としての活用を期待◇ 
 地球社会の到来の中で、現代は世界各地の文化や民族など多様な要素が地球規模で一体化していく動きと、ナショナリズムや宗教に起因する紛争が頻発する動きが同時に進行しています。世界史研究では、本書のT章で紹介しておりますように、グローバル・ヒストリー、海域史、ESD、環境史など従前の国民国家史観を越えた多様なアプローチが提案されています。しかし、世界史の授業において、そのような最新の研究成果が十分に取り入れられているとは言い難いものがあります。本書では、これらの分野の第一人者の研究者から具体的事例をあげて説明いただきました。読者の先生方には、この小書を参考にして素晴らしい実践を行っていただくことを期待致します。

―本書のU章では、「生徒と共に創る世界史授業デザイン」ということで、授業づくりのポイントと、世界史A、Bの各単元ごとに、「資料」と「問い」を中心にした具体的な授業モデルがまとめられています。このねらい・活用の方法について教えて下さい。

◇「知識基盤社会」に対応した探究型学習の実践◇ 
 学習指導要領の今次改訂では、21世紀の「知識基盤社会」に対応した学習が求められています。従前のような暗記中心の知識獲得型授業では対応できません。思考力・判断力・表現力を問う読解力や知識・技能を活用する力が不可欠です。私たち執筆者はこのような授業づくりを探究型学習として位置付け、「資料」の活用と「問い」を重視しております。とくに「資料」においては、一次資料(一次史料)の活用を大切にしたいと思います。また、その際には絵画、風刺画、写真などの図像資料を積極的に取り入れることに致しました。本書のU章では、「資料」と「問い」に工夫を凝らした独創的な授業プランを提案しておりますので、是非お楽しみ下さい。

―本書のV章では、カリキュラム研究や歴史教育の研究者の方から、学習指導要領に基づく授業研究の進め方や取り組み方法など、これからの世界史授業づくりでの留意点がまとめられています。このポイントについて教えて下さい。

◇中高の接続や科目間の連携、博物館を活用した授業づくり◇  
 学習指導要領の今次改訂において、世界史は引き続き地歴科の必履修科目となりました。世界史授業を構想するに当たって、学習指導要領の位置付けは以前にも増して重要性が高まったと言えます。しかし、高校現場においては、小・中に比べて学習指導要領の趣旨や内容をベースにしての授業の内容や方法に関する研究はわずかです。今次改訂では、中高の接続や地歴科内の科目間の連携、思考力・判断力・表現力の育成の手立てとしての博物館活用など、注目すべき改善点が提案されています。新教育課程の下では、これらの提案に基づく授業研究の推進や改善が課題だと言えます。本書のV章を参考にして、これらの点についてご検討いただけたら幸いです。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

◇「世界史は世界とのつきあい方を学ぶ学問」◇  
世界史の授業は、とかく、抽象的な語句や概念で説明する場合が多いです。そのことが生徒の世界史嫌い、世界史離れをもたらしているのかもしれません。「世界史は世界とのつきあい方を学ぶ学問」と言う名言(現代史研究者、荒井信一氏の言葉)を思い出します。世界の多様な文化の存在を知り、驚きと共感をもって接していくことこそが、世界史を学ぶ意義の一つと言ってもよいでしょう。私たち執筆者は、このような気持ちで本書をつくりました。読者の先生方が、この小書をこれからの世界史授業づくりに活用していただけることを切に希望致します。

(構成:及川)

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