著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
発達障害のある子にライフスキル教育を!
宇都宮大学教育学部教授梅永 雄二
2014/2/1 掲載
今回は梅永雄二先生に、新刊 自立をかなえる!<特別支援教育>ライフスキルトレーニング実践ブックについて伺いました。

梅永 雄二うめなが ゆうじ

宇都宮大学教育学部教授
既刊書籍に、 『LD・ADHD・アスペルガー症候群児の進路とサポート』 『夢をかなえる! 特別支援学校の進路指導』(ともに明治図書)ほか多数がある。

―本書は発達障害のある子に学んでほしい「ライフスキル教育」の指導実践をおまとめくださったものですが、発達障害の方に、なぜ「ライフスキル教育」が求められているのでしょうか?

学校教育では主に国語や算数、理科などアカデミックスキルというものの指導が中心でした。また、LD、ADHD、ASD(自閉症スペクトラム障害)の人たちの中には多動、衝動性、不注意、対人関係、コミュニケーションなどに課題を抱えている子どもが多いため、アカデミックスキルだけではなく対人関係などのソーシャルスキルを指導する必要だといわれていますが、対人関係に課題を抱えるASD児には限界があります。しかしながら、大人になって行わなければならない活動は避けて通ることができません。このような活動は対人関係だけではなく、移動や買い物、余暇など生きていく術(すべ)で、いわゆるライフスキルといってもよいものでしょう。
このようなスキルを指導しておくことが将来、大人になってから大いに役に立つのです。

―先生が出会われた発達障害のある方で、ライフスキルが身についていないことで、困っている方はいらっしゃいますか?それはどんな点に困っていらっしゃいますでしょうか?

 学歴が高い人でもライフスキルが身についていないために、就職ができない、あるいは就職しても仕事以外の面でトラブルを生じて離職してしまうといった例が多々みられました。とりわけ、毎日遅刻をしてしまう、服装がだらしない、休憩時間に勝手な行動をしてしまうなどの問題がありました。ですから、規則正しい生活や身辺整理、余暇を楽しむなどのライフスキルが身についていないと社会に参加できないことが多いことがわかったのです。

―ライフスキルの視点から、ちゃんとした大人になるために、学校現場で求められる指導はどのようなものでしょうか?

 児童生徒の個々のライフスキルをチェックし、それに基づいて個別にライフスキルの指導計画(ILSP: Individualized Life Skills Plan)を立てるべきだと考えます。その際に、現在身に付いているライフスキル、指導すれば獲得できるライフスキル、現段階では身につけることが難しいライフスキルに3分し、指導すれば獲得できるライフスキルを個別の指導目標にすべきです。そして、獲得が難しいスキルは他者の援助を受けてもいいといった指導も必要だと考えます。

―本書は「実践ブック」ということですが、具体的にどんな実践が書かれているのでしょうか?

 従来の読み書き・計算の指導であるアカデミックスキル、対人関係を中心とするソーシャルスキルとは異なった視点で、買い物スキルや交通機関の利用、余暇の使い方など、大人になって行う必要がある活動の中で現在身についていないスキルを確認し、どのように指導すればそのような様々なライフスキルを身につけることができるかについて具体的にわかりやすく書かれています。
 我々教師の役割は部分的な知識を身につけさせるだけではなく、発達障害といわれる子どもたちが「大人になって幸せに」なるために必要なスキルを指導するという意味では実践的な指導事例が多数報告されています。

―最後に、学校現場で頑張る先生にメッセージをお願いします。

 発達障害のある子どもたちは、それぞれ個性が強く、能力にバラツキがあります。よって、学科の勉強もとても大切ですが、学科の能力だけが身についたとしても大人になってからは、それだけでは通用しないことが多々あります。発達障害の子どもたちが大人になって、その地域で幸せに暮らしていくために早期から何が必要かということを常に意識して教育支援をしていただけることを切に願います。

(構成:佐藤)
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