著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
発達障害のある子が幸せな人生を送るために…
宇都宮大学教育学部教授梅永 雄二
2014/11/21 掲載

―本書は「スタートブック」とタイトルがついていますが、前著の「<特別支援教育>ライフスキルトレーニング実践ブック」との違いは何ですか?

前著では、さまざまな学校で実施されているライフスキル実践的教育を紹介しましたが、今回はライフスキルとはそもそもどのようなもので、どのように考えていったらいいのかという視点でまとめました。
その結果、ライフスキルとは国語や算数、理科、社会などのアカデミックスキルに対し、その地域で大人になってから自立して生きていくために必要なスキルと考えてもよいのだと思います。ただ、ソーシャルスキルとの関係についてはASDの子どもたちに対人関係を教えるというよりも、できないことは援助を得てもいいという発想にやや違いがあるかもしれません。

―大人になって幸せに地域で生活するためには、どんなスキルが必要なのでしょうか?

その地域で大人が日常的に行っている活動を考えてみましょう。たとえば定型発達の人たちでは、親元を離れて一人暮らしになったら自分で起きて、顔を洗い、朝食を取り、歯を磨くなどの活動を行っているのではないでしょうか。ただライフスキルは、発達障害のある人の能力や居住する地域、また支援体制などによって獲得すべきスキルは異なるでしょう。
よって、その人と地域との相互作用の中で考えていくべきだと思います。そのためには、適切なアセスメントが必要となります。

―先生は、できないことは、支援を受けながらの援助つき自立があってもよいのではないか、とお考えですが、援助つき自立をされている方はたとえばどんな援助を受けながら生活されているのでしょうか?

たとえば、アパートで一人暮らしをしたいと申し出のあったアスペルガー症候群の方がいらっしゃいました。しかし、この方は人とのやりとりが得意ではないため、新聞屋さんの勧誘に対し言われるがまま契約してしまいました。その結果、日ごろ新聞を読まないのに、新聞を6紙も取るようになってしまったのです。
この方には新聞屋さんとのやりとりである対人関係スキルを教えるのではなく、新聞屋さんには「僕はわからないので日曜日の1時に来てください。」と伝え、その時間帯に支援者に来てもらって対応してもらいました。現在は新聞を1紙も取っていません。このようにできないところをできるように強要するのではなく、できないところは援助を受けて自立していくということがあっても決しておかしなことではありません。

―発達障害のある人が、ライフスキルを身につけ、それでも難しいところは支援を受けながら幸せに生活するために、学校ではどんな教育が求められるのでしょうか?

ライフスキルの中には、学校の中だけでは指導できないスキルも数多くあります。お風呂での身体や髪の毛の洗い方などがその一つです。よって学校と家庭と協力して指導していく必要があるでしょう。家庭で必要なライフスキルにおいても朝や夜寝る前の歯磨きは学校での給食の後に教えることができます。身だしなみのチェックも朝登校してきたときに学校で行えるでしょう。身体を洗うことは指導できなくても、体育の時間などに着替えの指導はできるものと思われます。
もちろんその児童生徒が身につけているライフスキル、身につけることが困難なライフスキル、そして指導すれば身につけることができるライフスキルをきちんと把握(アセスメント)して、できることから指導目標を作って指導していくことが望まれます。

―最後に、学校現場で頑張る先生にメッセージをお願いします。

学校というところは学習指導要領に従って指導しなければならないものも多いため、アカデミックスキル以外にライフスキルも教えなければならないと考えると負担が増えると考えられる先生も多いと思います。児童生徒の能力にもよりますが、漢字を教える場合、「薔薇」という漢字を教えるのではなく、もしかしたら大人になって働く可能性のある職場に「危険」や「立入禁止」という標識がかかれていたら、その場では必要なライフスキルとアカデミックスキルの漢字読みスキルは重なります。また、算数数学の指導もライフスキルの一つである「買い物スキル」と関連させて教えると子どものモチベーションも上がるかもしれません。
ぜひ小さい時から「大人になってから幸せになるために」必要なスキルを考えて指導していただければと心から願っています。

(構成:佐藤)

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