- 著者インタビュー
- 算数・数学
生徒の能力や興味関心の差、塾等で既習かどうかの差を越えて、全員が参加できる授業をしようと工夫したことが、そもそものきっかけです。
多様な解法が考えられる課題を提示したり、個に応じたコース学習を考えたり、ICTを生徒に操作させたりして、すべての生徒にとって発見のある授業にしようと試みたのですが、結果として生徒の個人差には対応できず、かえって差が拡大する授業になってしまいました。特に、課題を工夫した授業では、導入はおもしろくても、最終的に理解できない(ゴールまでたどり着けない)生徒が必ずいることが気になりました。
課題や教具の工夫だけでは、数学が苦手な生徒にとってやりがいのある授業にはならないと思い、思い切って生徒同士の学び合いを積極的に取り入れることを意識し始めました。
生徒が全員席を立って、その場で相手を自由に決めて小グループをつくり、互いに説明し合う学習形態です。
例えば、ある生徒が発問に対して授業のキーとなる発言をし、その発言を全員で理解しておきたいと感じたときに行います。「あぁ、そうか!」という声が上がった場合でも、そのことを全員がわかっているわけではありません。そこで、「今の○○さんの意見、わかったかな? それでは全員立って(自由に相手を決めて)この意見を自分なりに説明してみよう」と声をかけ、スタンドアップ方式による学び合いをスタートします。
これにより、多くの生徒が説明する側に回ります。説明を聞く側も、わからなければ何度も聞き返すことができるので、主体的に学ぶ空気が教室に充満します。
話し合いによって、生徒同士の人間関係がどう形成されていくのかが大きなポイントになります。ですから、男子同士、女子同士だけの話し合いにならないように、座席配置にも気を配りたいものです。
おすすめなのが、下のように男女が市松模様に並び、さらに机をT字型にする配置です。こうすると、AとBの生徒が話し合っているとき、CやDの生徒も視界に入るので、話し合いに参加しやすくなります。
多くの中学校では、基本的な学習内容を習得させるために、多くの時間を割いています。普通の授業をどうしたらよいのかで私たち教師たちは日夜悩み、格闘しています。この問題を解決しなければ、発展的な課題を思い切って扱うことはできません。
そこで本書では、いわゆる研究授業のような「数学的に考え、探究する授業」だけでなく、普段よく行われている計算に習熟させるような「何でもない授業」において、どのように学び合いを取り入れれば効果的なのかについて書かせていただきました。
学び合いを取り入れることは、数学が苦手な生徒を含め、教室にいる生徒全員と教師の持ち味を生かし、伸ばすことに他なりません。そんな授業が日本のどこでも当たり前のように展開されることを期待して止みません。