著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
生徒のノートをイメージしながら、構造的な板書を目指そう
東京学芸大学附属世田谷中学校教諭宮内 卓也
2015/8/28 掲載
 今回は宮内卓也先生に、新刊『中学校理科 授業を変える板書の工夫45』について伺いました。

宮内 卓也みやうち たくや

東京学芸大学附属世田谷中学校主幹教諭
1966年,東京都生まれ。1989年,東京学芸大学教育学部卒業。2011年,同大学大学院修士課程修了。八王子市立横山中学校教諭,八王子市立加住中学校教諭,東京学芸大学教育学部附属世田谷中学校教諭を経て2015年より現職。
専門は理科教育。特に化学領域の教材を中心に研究。
中学校学習指導要領解説理科編(平成20年9月)作成協力者。中学校理科教科書編集委員(啓林館),日本理科教育学会会員,日本化学会教育会員。

―理科授業の板書では、観察、実験で確かめたことをどのようにまとめるかということが1つのポイントになると思います。結果や考察をまとめる際、注意すべきことを教えてください。

 実験から得られた結果(事実)と考察(結論と根拠)を分けて書かせることを徹底しています。結果と考察を混同している生徒が少なくないからです。また、考察で結論を述べる場合は、実験の目的を意識させ、実験の目的と考察の結論とが対応していることに注目させます。
 一方、結果と考察以外の生徒が気づいたことの中に有益な情報が含まれる場合もあります。ですから、結果と考察以外にも様々な情報を発信できる記述スペースを設けることも大切です。

―新出用語などのキーワードをまとめる際、ポイントになるのはどんなことでしょうか。

 重要な用語を暗記していても、適切に使用することができない生徒が少なくありません。キーワードをまとめる場合は、その内容、定義を具体的に示し、正確な理解をはかりたいものです。中和と中性、放射能と放射線など、生徒が混同する言葉はたくさんあります。
 また、関連する複数のキーワードがある場合は、その関係性を示す必要があります。例えば、火成岩、火山岩、深成岩、花こう岩、安山岩はいずれも火山の岩石にかかわる名称ですが、それぞれの関係は単純に並立するものではないので、関係性を構造化して伝えたいところです。

―本書の板書でも随所に見られますが、中学校の理科の先生は、自然現象や生物の様子を図示することが多いと思います。こういった図をわかりやすくかくコツがあれば教えてください。

 図示するものが、構造や原理の理解をはかることを主たる目的とする場合は、実際の自然現象や生物の様子から余計な要素を取り払い、いかに必要な要素を残すかという点に注意し、元のイメージをこわさない範囲で模式化します。
 一方、ある程度リアルな図が欲しいときもあります。その場合は、元になる図を拡大コピーをして黒板に示すとともに、生徒にも補助資料として図を配布し、ノートに貼らせています。観察などにおける精密なスケッチは大切ですが、板書の時間をできるだけ節約したいからです。

―授業のまとめは形式的なものになりがちですが、生徒に思考させながらまとめられるような板書のアイデアがあれば教えてください。

 時間が迫ってくると、つい一部の生徒の模範的な意見を集め、それを総括したものを教師が板書し、生徒がノートに写す、というまとめになりがちです。
 ですから、まずはじっくりと生徒に考えさせるために、個々の生徒が自分の考えをノートに書く時間を保障します(板書でも、自分の考えを書くスペースや、グループで相談した考えを書くスペースを示しておきます)。
 そのうえで、重要な用語や語句に(  )を用いてあえて空欄にしたり、時には板書事項を教師が口頭で説明し、それを聞き取ってノートに書かせるなどの工夫をするとよいでしょう。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

 本書では、板書を通して、授業づくりにおいて大切にしたいことや工夫したいことにも踏み込んでみました。
 教科の学習内容は学習指導要領による制約を受けます。それでも、どのように導入し、いかに問いをもたせ、どのように実験を行い、どのように思考させるかなど、教師の裁量の幅は決して小さくはありません。
 授業づくりは創造的な営みであり、それがやりがいにもつながります。多くの授業実践に触れながら、よりよい授業づくりを繰り返すことが大切だと考えます。この本がそうした一助になれば幸いです。

(構成:矢口)
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