著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
1から始める「特別の教科 道徳」授業づくり!
上越教育大学副学長林 泰成
2015/11/19 掲載

林 泰成はやし やすなり

上越教育大学副学長

小学校では平成30年度から「特別の教科 道徳」がスタートすることになりました。いったい何が変わるのでしょうか?

 「特別の教科」になりましたので、検定済みの教科書が使用されます。これまでの副読本とは違って、教科書には法的な使用義務があります。授業方法に関しては、心情重視から、考える道徳、議論する道徳へと転換が図られます。とはいえ、心情に焦点化した授業スタイルではダメだというわけではありません。それも一つの方法であり、加えて、問題解決的な学習や、道徳的行為に関する体験的な学習等が求められるということなのです。
 まだ教科書は出ていませんが、今回の私たちの書物では、できるだけ、定番資料を使うように心がけました。

「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度」の意味をそれぞれ教えてください。

 改訂された学習指導要領の解説が文科省のHPですでに公開されていますが、それによれば、道徳的判断力とは、「それぞれの場面において善悪を判断する能力」であり、道徳的心情「道徳的価値の大切さを感じ取り、善を行うことを喜び、悪を憎む感情」であり、道徳的実践意欲と態度とは「道徳的心情や道徳的判断力によって価値があるとされた行動をとろうとする傾向性」を意味しています。それぞれの内容は、これまでと変わるものではありません。
 今回大きく変わったのは、これらの表記の順番です。これまで心情が一番初めに表記されていましたが、今回の学習指導要領では、判断力が最初になっています。前述の「考え、議論する道徳」への転換と連動しているととらえることができます。

低・中・高、それぞれの学年における道徳授業の特色はなんでしょうか?

 発達に応じた道徳授業を計画すれば、当然、低学年では、心情的な部分に焦点化した授業が多くなるでしょうし、学年が上がるにつれて、徐々に、子どもたち自身で考えるという授業が増えて行くことでしょう。また、低学年のうちは、一人の登場人物の気持ちを追いかけることが多いと思いますが、高学年になれば、視点を移動させて、それぞれの登場人物の気持ちを推測することが可能になります。
 各学年段階でどうするかというよりも、目の前の一人ひとりの子どもたちがどんな状態にあるかを見極めて、授業方法に工夫を加えていただきたいと思います。

本書には「ねらい」「板書」「学習指導案」「評価」と様々なポイントが掲載されていますが、特に、授業においてどのように評価したらよいのか戸惑っている先生も多いと思います。評価のポイントを教えてください。

 評価については、学習指導要領で「数値などによる評価は行わない」ことになっています。が、現時点で、まだ文科省において有識者による審議が続いています。27年度中には、この報告書がまとめられると聞いています。その段階で、学習指導要領解説も書き換えられることになりそうです。
 道徳性の数値による評価は望ましくないとしても、道徳教育においても評価はとても大切です。子どもたちがどういう状況にあるのか評価できなければ、子どもたちにとって適切な授業を計画することができません。授業が適切であったかどうかの評価は、子どもたちの道徳性がどう伸びたかということと関連しているのです。授業評価もそういった視点でとらえていただきたいと思います。

最後に読者の先生方へメッセージをお願いします。

 今回の教科化は、教育再生実行会議におけるいじめ対応の議論から出発しました。したがって、行為につながることが期待されているととらえられます。「決められている回数だけは教科書を使ってきちんと授業をしましたよ」ということだけでは済まないのだと私は考えています。道徳の教科化は、平成30年度からということで告示されたわけですが、それが本当の意味で成功するかどうかは、現場の先生方の創意工夫に係っていると思います。これまで一生懸命に道徳教育に取り組まれてきた先生方には、これまで同様に情熱を傾けていただきたいと思いますし、これまであまり力を入れて来なかったという先生方や新任の先生方には、チャレンジ精神で道徳授業に挑戦していただきたいと思います。
 私たちの書物は、そのお手伝いができるように、授業の基本形を示しているものとお考えください。

(構成:佐藤)

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