- 著者インタビュー
- 特別支援教育
アメリカで音楽療法を始めた頃のことです。言葉をもたない自閉症のある男の子がセッションの途中で急にパニックを起こし、辛そうに泣き叫んでいるのに、何もできなかったことがありました。また重度の自閉症のある女の子は、楽器を見せても歌を歌っても何にも反応せず、ただただセッションルームをぐるぐると歩き回るだけでした。全ての行動には何らかの意味があると思うのですが、それが何なのかさっぱり分からなくて困っていたところ、当時の先生から感覚統合を紹介していただき、「これだ!」と思いました。
どれもおススメですが、子どもたちの反応が良くて、大人にも受ける活動は「太鼓がなったら」です。本書では太鼓の音を聴いて手を動かしてもらっていますが、太鼓がなければ手を叩くだけでも十分ですし、大勢の人々が楽器なしで一緒に楽しめるところが特徴です。しかも対象者のレベルに合わせて難易度を変えれば、子どもにでも大人にでも使えます。さらに大きな音を待つ間の緊張感は誰もが同じように感じているので、グループに一体感が出ますし、指示を出す側にも楽しく気持ちのいい活動です。
音楽療法は音楽以外の目的のためにあります。例えば誰もが知っている「幸せなら手をたたこう」の歌詞を、体のあちこちを叩く動作に変えれば、ボディイメージを高めるのに役立ちますし、「大きな太鼓」は元々の歌詞に大小の音が入っていますので、力の入れ具合を調節するためにも使えます。さらに遊び歌に、このような音楽以外の目的を加えても、歌の楽しさが維持できていれば、それは課題遂行への動機づけとなります。このように子どもの歌には、療法的な意味合いをもったものが意外と多くあるのです。
対象者や療法の目的によって楽器の選び方は違ってきますので、一つだけ選ぶということはできませんが、お子さんに楽器を渡して自由に遊んでもらう場合は、カバサ(金属の数珠を回して音を出す楽器)がおススメです。これは安価ですし、感覚刺激を求めるお子さんは興味を示すかもしれません。またトーンチャイムという音階楽器は、高価ですが、振るだけで美しい響きの音がしますし、メロディ音や和音など様々な使い方ができますので、グル―プで音楽を楽しむには最適です。
あることを深く理解するためには、それを外側から客観的に見てみることが必要です。私がアメリカで音楽療法を勉強し始めた頃、それまで住んでいた日本文化のすばらしさを痛感しました。同様に、音楽療法も外側から見てみることでその特徴が浮き彫りにされます。そうして分かった音楽療法の一番の特徴とは、言葉を使わずに心に直接メッセージを送ることができることです。ですから重度の障害があっても音楽は楽しめますし、演奏し終えた時の達成感を通して自分の可能性を実感できます。このように、音楽療法は障害の陰に隠れた対象者のすぐれた面を、対象者自身が感じる機会を提供します。