著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
すべての先生が知っておきたい、「特別支援教育」をゼロから学ぼう
ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授青山新吾ほか
2016/9/1 掲載
 今回は青山新吾先生と長瀬拓也先生に、新刊『ゼロから学べる特別支援教育』について伺いました。

青山 新吾あおやま しんご

1966年兵庫県生まれ。ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授。岡山県内公立小学校教諭,岡山県教育庁指導課,特別支援教育課指導主事を経て現職。臨床心理士,臨床発達心理士。

長瀬 拓也ながせ たくや

1981年岐阜県生まれ。横浜市立小学校教諭,岐阜県公立小,中学校教諭を務め,現在、京都市内の私立小学校教諭。高校生の時,社会科中学校教員だった父親が白血病で他界し,教職の世界へ。

―この春、障害者差別解消法が施行され、「合理的配慮」や「基礎的環境整備」などといった言葉を、通常の学級の先生方もすでに研修等で耳にされるようになっているかと思います。簡単に、特別支援教育がいまどのような状況を迎えているのか、教えていただけませんか。

青山先生:特別支援教育は、特別な場における教育ではなくて、通常の学級を含むどこでも行われるものだという考え方が、確実に広がってきました。「特別支援の先生」とそれ以外の先生という考え方もまだまだ根深くあるように思いますが、時代は「すべての先生が学ぶ素養としての特別支援教育」にシフトしています。次期学習指導要領では、すべての教科に「特別支援教育の視点」が盛り込まれるという情報があります。このような動きが、すべての先生にとっての特別支援教育という時代を象徴的に示していると思います。
 

―本作はゼロシリーズ、第5弾です(教科別シリーズを除く)。本書で「特別支援教育」をテーマとされたのはなぜですか。

長瀬先生:僕は特別支援教育の専門家ではありません。優れた実践者でもありません。でも、依頼をうけ、この本を「作ろう」と決めたのは、「だれでも特別支援に関われる、関わる」ことの大切さを伝えたいと思ったからです。特別支援教育は特定の人だけではなくすべての人が専門家。それぐらいの気持ちをみなが持って、みなが受け入れていかないと、これからの学校教育や社会は変わらないと思います。
 今や、クラスの中の気になる子、支援が必要な子は、どの先生にとっても必ず向き合うこととなっています。高度専門職と言われるようなプロの先生の実践も確かに必要です。でも、特別支援教育で今、何よりも大切なことは「誰でも関係がある」という気持ちを一人一人が持つことだと思っています。
 教員になって数年目、クラスの子との関わりでとても苦労していたとき、アドバイスをしてくださったのが青山新吾先生でした。青山先生のご著書も読ませていただきました。ご著書を読んでいて気付いたことは、ハウツーを探すのではなく、子ども達といかに向き合っていくかだと思いました。青山先生の指導をいただきながらできたのが本書です。

―とはいっても、『特別支援教育ってなんだか難しそう…』と思われる先生もまだまだいらっしゃるかと思います。ゼロから学べる…ということで、そのような先生にもお読みいただけるようにどんな工夫をされたのでしょうか。

長瀬先生:冒頭の1章で、支援を要する子も包み込む通常の学級のクラスづくりについて考えています。多くの先生にとって馴染みの深い通常の学級から考えることで、本書全体のイントロダクションとしました。これから初めて特別支援教育を学ぼうとする先生にとっても、日常とのつながりがあり具体的にイメージできることと思います。
 また、この章は、これから学校の先生になる方や初任者や若い先生を特に意識して書いています。特別支援を難しく考えるのではなく「だれでも関係がある」と思うこと、そして子ども達と「つながっていこう」と思うことが特別支援教育を理解する第一歩だからです。

―専門家としてのお立場から、初めて特別支援教育を学ぼうとお考えの先生が本書を手に取ってくださったとき、留意いただきたいポイントがあれば教えてください。

青山先生:本書は、とにかく、基礎の基礎ともいえる内容を、できる限り分かりやすい筆致で綴ろうとしたものです。つまり、これは入り口、きっかけに過ぎないということです。ですから、「まずはここから学ぼう」という1冊としてお勧めします。と同時に、この1冊でわかったつもりにならず、これをきっかけにして、さらに必要な書を手にされたり、研修会等で学ばれたりすることを期待します。

―最後に、本書の読者の先生方に向けて、メッセージをお願いいたします!

青山先生:大きな書店に赴くと、特別支援教育関連の書籍が溢れるように並んでいる時代です。次々に刊行される関連書は、特別支援教育の重要さが、世に広く認識され始めたことを表しているのだと思います。「障害児教育」の時代と比べれば、まさに隔世の感があります。
 しかし、これだけ関連情報が溢れると、初学者がまずは何から情報を得てよいのかが難しくなります。また、情報といっても、「共感」を伴って伝わっていく情報が重要な意味を持ちます。読み手の、その先の学びを誘っていくことにつながると考えられるからです。
 本書が、読者の皆様の学びへの誘いにつながれば幸いです。

長瀬先生:教員になって子ども達と向き合って一生懸命学んできたのが「通常教室の中の特別支援教育」でした。本書を含むこのシリーズは、「すごい先生の実践ではなく、同世代の先生の取り組みから若い読者が共感できるものにしたい」という思いで書いてきました。深い実践を積み上げたものではありませんが、「できるだけ平易な言葉で書こう」「難しい言葉は使わずわかりやすく」「職員室で話すように」「失敗や苦労を混ぜながら」といった視点でつくった、他にはあまりない入門書ができました。
 若い先生には、あきらめないで、どんどんチャレンジしてほしいと思っています。新しい実践、新しい主張、提案を失敗してもいいのでどんどん続けてください。みなさんの味方はきっといます。僕もまだ途上の人間です。教室で子ども達と一緒にレベルアップします。本の世界で一緒につながれたこと、心から感謝しています。今後もシリーズは続いていくと思いますが、長い間読んでいただき、感謝しています。またどこかでお会いしましょう 。

(構成:林)

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