著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
教科書の背景にある“本当は”大切なこと
京都教育大学教授黒田 恭史
2017/2/1 掲載
 今回は黒田恭史先生に、新刊『本当は大切だけど,誰も教えてくれない算数授業50のこと』について伺いました。

黒田 恭史くろだ やすふみ

大阪教育大学大学院修士課程修了、大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。大阪府内の公立小学校教員として8年間勤務し、その後、佛教大学講師、助教授、准教授、教授の後、現在、京都教育大学教授。小学校教員、中・高等学校数学教員養成に従事。
小学校教員時代に、クラスで豚を飼う実践を3年間行い、その記録は『豚のPちゃんと32人の小学生』(ミネルヴァ書房)として出版し、妻夫木聡氏主演の映画『ブタがいた教室』(2008年)として全国に公開された。

―本書の中に、「子どもは『できる』が先で『わかる』が後」という項目があります。これは、具体的にどういうことなのでしょうか。

 幼児は、よく、大人の前で楽しそうに流行の歌を歌ったりしますが、歌詞の内容を正確に理解しているわけではないことが少なくありません。見よう見まねで言葉を音として記憶して発する(できる)のが先で、その後、時間が経ってから歌詞の意味を理解する(わかる)ことが多いのです。
 算数の学習もこれと同じで、とりわけ低学年では、励まし、褒めながら、まずは「できる」ようにして、その後「わかる」につなげていくというのが、発達段階を踏まえた指導過程であると言えます。もちろん、「できる」の段階で満足してしまうのは好ましいことではありません。

―「答えの見積もりは4年生からでは遅い」のはなぜでしょうか。

 四則計算の中で子どもが一番しっくりこないのが、あまりのあるわり算です。答えにたどりついても、あまりが出るので正しいかどうか不安になり、モヤっとした感じが残るからです。
 実は、この感覚こそが、見積もりの「およそ」という感覚につながるものです。算数という一見厳密な教科にも、「およそ」というモヤっとした感覚があることを、低学年の段階から意識づけておくと、他の様々な算数の単元でも役立ちます。そして、4年生の概数の学習は、切り上げ、切り捨て、四捨五入など、数学的に正しい見積もりの技能を身につけさせる単元と位置づけるとよいと思います。

―本書では、苦手な子どもが多い「速さ」の指導についても取り上げられています。速さの指導で“本当は”大切なことを教えてください。

 以下の3点を意識して指導することです。
@子どもの速さに対するイメージからスタートする。
A瞬間の速さと平均の速さの違いを理解させる。
B速さの公式を理解して使えるようにする。
 「速い・遅い」という感覚は、幼児の段階からすでにもっているので、それを小学校全学年を通して数学的に正しい理解へと導いていきます。したがって、速さの公式だけを記憶させるのではなく、瞬間の速さと平均の速さの違いなども議論しながら、速さという概念の理解を深めていきます。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 若手の先生からベテランの先生まで、日々各教科の準備、学校行事、保護者の方への対応など、本当にお忙しくされていると思います。本書に書かれていることは、そうした中にあっても、少し気をつければ365日実践することが可能で、効果が期待できることばかりです。ご興味のある話題からお読みいただければ幸いです。

(構成:矢口)
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