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「言葉による見方・考え方」は「小学校学習指導要領解説国語編」では『児童が学習の中で,対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めることであると考えられる』と説明されています。このことが示されたことは、これまでともすれば内容偏重、活動偏重になりがちな面もあった国語科の授業を、内容の獲得と共に、次に使える視点や思考法を自覚し、伸ばしていく授業に変えていくための重要な示唆だと思います。
例えば、「一つの花」。「戦争に行くお父さんは、どんな気持ちでゆみ子に一輪の花を渡したのだろうか」という学習課題を設定し「お父さんがゆみ子にあげたものを比べてみる」という「見方・考え方」を設定したとします。この「見方・考え方」では、お父さんがゆみ子にあげた「おにぎり」と「一輪の花」という言葉の意味に着目するという「見方」を使い、それらの関係を「比べて」問い直すということが「考え方」に当たります。子どもたちは二つのものを比較していくことで、「一つの花」の解釈を深めていきます。
文学的文章を解釈するために、登場人物の持ち物などの反復表現に着目し、比較するということはとても大切な力なのですが、これまで、解釈をしていくための具体的な考え方の共有はなされていませんでした。
「言葉による見方・考え方」が前面に出てきたことにより、この授業で子どもがどんな見方・考え方を働かせるのかを、教師にとっても子どもにとっても明確にして課題解決していくよう授業改善を図ります。そして、授業で解決した課題と同様なことに直面したときに、その授業で働かせた見方・考え方を用いて解決していくという活用の力が付いていくようになります。
本時で働かせ、育てていく「言葉による見方・考え方」が定まったら、それを踏まえた授業づくりが必要になります。本書ではそのために必要なことを、授業の展開に沿って7の原則として示しました。
原則1 何を目指すのかをはっきりさせる(主体的な学びのために)
原則2 学習過程・見通しを示す(主体的な学びのために)
原則3 個で取り組む機会を設ける(主体的な学びのために)
原則4 対話のはたらきを使い分ける(対話的な学びのために)
原則5 推敲・精査する(深い学びのために)
原則6 三つのポイントで振り返る(深い学びのために)
原則7 活用のために呼びかけを繰り返す(深い学びのために)
学習内容の獲得、見方・考え方の育成を図るためのこれらの原則は、平成29年度版学習指導要領で授業づくりのために大切にされている「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」とも合致しており、極めて今日的な授業づくりといえます。
授業をしていて、「しまった!」と思うときは数多くありますが、その一つが、「発問・指示のブレ」です。最初に行った発問・指示に対して、子どもたちがポカンとした表情を浮かべている、発問・指示がよくなかったと思い言い換える――そうこうするうちにはじめに示した発問・指示とはかけ離れたようなことを子どもたちに伝えてしまい、授業が混乱する、ということです。本書では、そういったことにならないよう、ここで示した発問・指示をおおむね確実に行うことにより、子どもたちが適切な反応をして、見方・考え方を働かせたり、確かな力を付けたりすることを願いました。
発問・指示は子どもたちの主体性と共に、授業を貫く大切な軸です。学級の実態により、表現内容に工夫は必要ですが、本書で示した発問・指示を活用し、子どもたちが迷いなく、楽しく学習を進めてほしいと思います。発問・指示に対する子どもの反応例等も示しましたので、それを参考に発問・指示の意図を定めてください。
発問・指示を投げかけるタイミングとして大切にしていることは「全員の準備ができた状態で」投げかけるということです。全員の準備ができているというのは三つの準備として「学習に取り組む気持ちの準備」、「学習レベルの準備」、「視線・姿勢の準備」が整っているということです。
また、実際の発問時には、「一人ひとりの目を見て」、「張りのある声で」、「短い言葉で端的に」、「言い換えをしない」ことがポイントです。迷いながらの発問・指示は子どもに見抜かれます。
どの教科の目標の筆頭にも「見方・考え方」が示されました。本時できるようになりたいこと、あるいは分かるようになりたいことをはっきりとさせ、そのためにどんな見方・考え方を働かせるのかを、導入場面で子どもが自覚して取り組む授業づくりを大切にしましょう。そうすることで、授業で追究した内容の獲得と、解決方法の獲得の一石二鳥の授業ができます。
さらに、最初に焦点的な見通しがしっかりと示されることで、どの子もわかる授業の実現にもつながります。