柴原:「特別の教科 道徳」の授業づくりへの準備に加え、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」の意識を学校全体として醸成し、「特別の教科 道徳」を要として学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育を実効性あるものにするための具体的な準備が不可欠です。道徳教育の全体計画やその別葉等の諸計画の策定はもとより、それらの日常的可視化や評価メモの適時記述といった実効的な活用、35時間の授業確保へ向けた「第○○回」の板書等々、道徳教育の真の実質化へ向けた具体的体制づくりを心掛けたいものです。
柴原:先生方は、これまでも道徳教育に係る評価をされてこられました。それは、生徒の日常でみられる道徳的行為(責任を果たすなど)に対し、認め励ます言葉掛けであり、道徳の時間での発言への受け止めやワークシート等の記述内容への朱書きといったものです。これからもあまり肩肘張ることなく、学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握しつつ、生徒一人一人の人間としての成長を温かく見守り、その努力を認め励まし勇気付けられる評価を大切にされることです。
荊木:私は、「ねらいは願いである」と考えています。授業のねらいには、生徒一人一人の、学級や学年や学校の、保護者や地域等の願いが反映されているわけですが、何よりもまずもって、生徒の実態をもっとも深く正確に理解している担任の先生が、どのような切実な願いを詰め込んでいるかが大切だろうと思います。生徒の具体的な喜びや悩みを視界に捉えておくことで、授業者の願いも具体性を帯び、焦点化され、一人の人間として心と心を真剣にぶつけ合い、通わせ合うといった授業の実現に向けて、熱意をもって取り組むことができるのだろうと思います。
荊木:本書では、先生方が柔軟な発想で「考え、議論する道徳」に臨んでいただけるよう、基礎的・基本的側面を重視し強調しました。謂わば、授業づくりの土壌を提供したに過ぎず、どのような花を咲かせるのかは先生方お一人お一人の手に委ねられています。ぜひ、共に考え、語り、歩んでいくという「倶学倶進」を大切にされ、個々の既成観念を突き抜けた見方や考え方が自由に飛び交う学級風土を紡いで、刺激溢れる新しい道徳観や人生観に驚き、感心し、胸熱くするという、道徳授業の魅力と醍醐味を個性的に創造して下さい。
これまで、日々の忙しさから、どちらかと言うと「ハウツー本」を探し、その真似をすることもあった私なのですが、本書は、柴原先生の理論にせよ、荊木先生の実践にせよ、道徳の授業づくりの基本とすべき考え方が全面に滲み出ています。本書の中身をそのまま追試することもできるのですが、むしろ、独自の工夫をそれらに加えて、自分なりの授業を創り出してみたくなる中身となっています。
今夏、本書の1ページ1ページを、もう一度、腰を据えて読み直し、自分なりにより深く解釈していきたいと思わせる充実の内容です。また、これからの道徳授業で躓いたときには、該当ページを開けば、何らかのヒントが得られそうです。
これまで私が手に取った明治図書の道徳本としては、最も「硬質」の読み応えある異色のもので、若手からベテランまで、それぞれの立場・経験を踏まえつつ、深く考えていくための切り口が満載だと思います。私も、たまたま見つけた本書との出会いによって、そろそろ「ハウツー本」から卒業する時期なのかも知れない、と思っています。