著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
ICTの「普段使い」とは、子どもが「選んで使える」こと!
1人1台端末を教室の当たり前にしよう
関西大学初等部東口 貴彰
2022/1/28 掲載
 今回は東口貴彰先生に、新刊『学級づくり×ICT 1人1台端末の普段使いアイデア55』について伺いました。

東口 貴彰とぐち たかあき

1986年生まれ。
関西大学初等部教諭。元大阪教育大学附属平野小学校教諭。
世界に2,947人いるApple Distinguished Educatorの1人。
著書に,『小学校英語×ICT 「楽しい!」を引き出す活動アイデア60』(明治図書),共著に『ICT×学級経営 GIGAスクールに対応した教室アップデート』『未来を「そうぞう」する子どもを育てる授業づくりとカリキュラム・マネジメント』(いずれも明治図書),『iPadを使った小学校プログラミング実践事例集』(Apple Books)等がある。

―GIGAスクール2年目に入り、ICTや1人1台端末の「普段使い」ができる学級づくりが少しずつ求められてきています。「普段使い」ができる学級をつくるために先生が心がけていることはどんなことでしょうか。

 私は、子どもたちが目的や場面に応じて、ICTを使用するかどうかという段階から自分で判断できるようになってほしいと考えて学級づくりをしています。
 どういった場面でICTを使うのが効果的かを知るためには、子どもたち自身が色んな場面でICTを使う経験をし、その長所を体感することが大切です。
 そこでまず、私はICTというものにとにかく「壁」をつくらず、自分自身で楽しく使いながら日々可能性を模索しています。すると使っているうちに、「こんな機能があるんだったら、こんな授業ができるんじゃないかな?」のように、色んなアイデアが浮かんできます。そこで原点に立ち返り、それが子どもたちの学びにとって有効であるか、または他により良い手段はないかということを考えます。
 そのような経験がなければ、新しいアイデアは浮かびません。教師である私自身が試行錯誤をしながら、子どもたちとともにICTを使う経験をすることで、私だけでなく学級の子どもたちも、「この場面では、紙に書いた方が速いな」「ここでは、ICTを使った方が効率的に作業を進めることができるな」「これは、ICTを活用しないと表現できないものだな」と多くのことがわかってくるようになるのです。

 また、ICTを使う中で生まれる不具合に直面したときも、可能な限り子どもたちの前で試行錯誤する場面を見せるようにしています。そうすることで、子どもたちは、私と同時にその問題を解決する方法を知ったり、自然と友だち同士で教え合ったりするようになってくるのです。
 何でもかんでもICTを使うといった、ICT使用の目的化(「活用」ではなく「乱用」)は、学びの本質から逸れてしまうことになります。しかし、ICTという新しいツールが増えれば実現できることは格段に増えます。
 教師がICTの活用に「壁」をつくってしまうと、ICTはどんどん子どもたちにとって「物珍しい特別なもの」になってしまい、それによるトラブルも多く起こってしまいます。教師である私自身が、楽しみながらICTを使うことをたくさん経験し、時に子どもたちと使い方を考えたり共有したりすることで、子どもたちはICTをノートや鉛筆のように、当たり前に活用するようになるのです。

―子どもたちが「ICTや1人1台端末を使いたい」と思える「必要感」をもたせるためのポイントは何でしょうか。

 まず、課題や活動に対して子どもたちが「学ぶ必然性」や「目的意識」を抱いているということが大前提です。この点がなければ、それはただ漠然と「面白そうだからICTを使いたい」と子どもが思っているに過ぎません。
 そういった前提がある上で、子どもにICT活用そのものに「必要感」をもたせるためには、先ほどの話と重なりますが、子どもたちの経験が鍵となります。
 
 例えば、国語科の授業で、Keynoteなどのプレゼンテーションアプリを活用して話すという経験があれば、子どもたちはそれを日常的に活用するようになります。それは、「話す」力に加え、スライドの構成やスライドを切り替えるタイミングなどが洗練されてくると、より自分の思いがより相手に伝わりやすくなるという経験をするからです。さらに、理科の学習などで同じKeynoteの中の「リンク機能」を活用してデジタル図鑑を作る活動をすれば、それを応用して、クイズを作ったり、くじ引きを作ったりといったことを子どもたちからするようになってきます。
 つまり、教師が意図的に授業や学級活動の中でICTを活用する場面を設定し、それが子どもの学びにつながる活用方法であった場合、子どもはそのメリットを活かし、今度は子どもたち自身がICTを活用したいろいろなアイデアを生み出すようになるのです。
 ICTを活用する経験とメリットと感じた事が多ければ多いほど、それが課題への探究心と結びつき、子どもたちの創造性はより豊かなものになります。子どもたちに多くの経験をさせ、ICTを使うことによる「価値」を体感させることで、自然と「ICTを使いたい」と思うようになり、積極的に活用する姿へと結びついていくのです。

―ICTや1人1台端末を学級づくりや学級経営に組み込むことによって、子どもたちにどんな影響や効果があるのでしょうか。

 最も大きな効果は、子どもたちの学びの幅が広がったことだと思います。「学校でプレゼンの練習をしたいので、プレゼンは友だちと家でつくってきます!なので、プレゼンファイルを友だちと共同編集できるようにしてください!」といった声もよくあがります。学びはもはや45分という時間や教室という場所の枠を飛び越えて、学びたいときに学ぶというスタイルが子どもたちの中に確立してきています。
 また、「となりのクラスの調べ学習のデータが気になります!」と子どもたちが言うと、それを即座に授業内で共有することができるため、時に学級の枠をこえた学びに発展することもあります。既存の学習方法ではなかなか実現させることが難しかったことが実現可能となり、学び方そのものが変化してきたことで、意欲も格段に向上したのではないでしょうか。
 さらに、最初の質問への回答の冒頭でも触れましたが、ICTを導入した当初から比べると、子どもたちは目的や場面に応じて自分たちでICTを活用することそのものを取捨選択するようになってきました。どういった場面においてICTを使うことが効果的かを自分自身の経験から考えられるようになってきたということです。
 先日もみんなの意見を共有するとき、「画用紙と付箋とマジック貸してください!」という子がいました。ICTを活用することができる環境であっても、子どもたちは「これは、iPadよりも絶対画用紙にまとめた方が速いって!」「確かに!」と言いながら、自分たちなりの最善の学びの手段を選択する力が身についてきています。

―最後に、GIGAスクール構想のもと、効果的なICTや1人1台端末の活用方法を模索している読者の先生方へ、メッセージをお願いします。

 子どもたちのICT活用を促すためには、まず教師自身がICTに「壁」をつくらず、授業や普段の学級のなかで積極的に使用してみる経験をすることが必要不可欠なことです。
 とはいえ、私自身もそうでしたが、実際に子どもたちにデバイスを使わせてみるまで、本当にうまく活用させることができるのか、自分自身がうまくデバイスを使いこなせるか等といった多くの不安がありました。そこで本書では、まずICTをどのように使えばよいかといった不安や悩みを少しでも軽減し、ICTを学級や授業で活用する第一歩を踏み出していただくために、実際に私がICTを活用して実践してきたものの中からいくつかをピックアップして、ご紹介させていただきました。
 ぜひそれらの実践アイデアから、先生方の普段の学級指導や授業の中で、活かせそうなものを1つでも見つけていただき、色々とアレンジして活用していただければ幸いです。

 また、特定の教科内だけで子どもたちのICTを活用する技能を高めるのは非常に難しいことだと思います。以前に執筆させていただいた『小学校英語×ICT 「楽しい! 」を引き出す活動アイデア60』でご紹介させていただいたような授業実践をするにあたり、私が普段からどのような場面でICTを活用しているのか、また、どのようなことに気を付けているのかといった点についてもご紹介させていただいております。授業で子どもたちがICTを使って、より創造的に活動できるようにするには、普段からどのような活用をさせておけばいいのか、ぜひ参考にしていただければと思います。

(構成:新井)

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