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30代に体育主任をしました。子どもが知的な動きをする指導の言葉には、共通項があることに気づきました。「させたいこと=A」をそのまま言うのではなく、子どもが「えっ?」と思うような「意外な言葉=B」を投げかけていることです。よい行進をさせたいとき、「前方の緑のけやきの木を見て歩きなさい」の一言で、一瞬にして、知的で美しい行進が生まれました。つまりは、「AさせたいならBと言え」なのです。この原則は、生活の場、授業の場でも、活用できることがわかりました。その当時の私のチャレンジを記したのが1988年版です。今回は、だれでもBの言葉づくりができるように、イラストを入れていただきながら書き直しました。イラストが分かりやすいとの声をいただいています。
この令和の時代に、教師をやりぬいていくための一冊となることを祈っています。
「どの列がいいかな。この列かな。はいっ、見ています。見ています。……」はお薦めです。
「まなざしの共有」の中で、子どもは安心して学習に参加できます。30名以上の子に、一時間中、まなざしを向け続けることはできません。そんなとき、ある一つの列について、前の子から一人ずつ、まなざしを傾けます。「見ています」のひとことで、その子とつながります。わずか5秒で、列全員の子とまなざしを共有できます。
そこで生じた心地よさは、クラス全員に同期します。物理的には見ていないのに、「クラス全員とのまなざし共有」が生まれます。知的な教室空間が生まれます。
この50年間で、教師と子ども・保護者との関係が劇的に変わりました。学校や教師の「指さし」を全部受け止めさせ、学習させていくスタイルは危うくなっています。「私はできないのではありません。やらないのです」と言いそうな気配さえ感じます。加えて、コロナ禍とそれに伴うマスクの着用。授業に欠かせない「まなざしの共有」ができにくい状況です。教師の言葉かけが、ますます重要になっています。
今回は、この時代に必要な言葉かけを考えてみました。知的欲求を満たすことを根底におきながら、特に、今の子どもたちの存在欲求、承認欲求を満たすことを意識し、Bの言葉づくりに努めました。
私は、毎日、子どもが喜び知的な表情になる言葉かけを考えています。パワーポイントのスライドを2枚使います。1枚目に、「させたいことA」、2枚目に、Bの言葉を書きます。「ゆれのないもの:物、人、場所、数、音、色」を念頭におきます。
新年度の4月。数日前にまとめたものです。
A 授業でまとめた小見出しがノートに書けていないので、書けるようにさせたい―A1
『今度の先生は、親切だ』と思ってもらいたい―A2
B 青えんぴつで小見出しを書いてやる。(「なぞってください」と言う。)
とてもうまくいったので、記録したA、Bを、岩下塾の仲間に紹介するつもりです。このように、学びを相互発信し、共有する場が何より必要ですね。
私が[解説編]と[活用編]で紹介したBの言葉かけの中で、自分のスタイルと響きあうもの、今の教室でできそうと思うものを選択してください。まずは、そのまま試してみてください。
例えば、「はいっ。拍手の準備です。」のひとことで発言者も聞き手も意欲が沸きます。その良さを味わってください。言葉かけのタイミングの大切さも味わってください。
だれがその技を考えたかより、目の前の子どもたちに喜びと知が生まれることを最優先にしたいです。私の紹介したBの言葉も、大半は、誰かから学んだものを組み合わせたものです。一つの言葉に、多くの先輩教師たちの知恵が詰まっています。
ささやかなひとことで、知の回路がつながり、今咲いたばかりの花のような子が生まれる。こんな世界を共に創っていきましょう。この令和の時代の中で。