きょういくじん会議
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生殖補助医療で生まれてきた子―「出自を知る権利」
kyoikujin
2007/12/22 掲載

 8日の時事通信によると、厚生労働省研究班が、生殖補助医療の技術で生まれた子への告知に悩む親や、これから治療を受けようとする夫婦のためのガイドブックを作成したとのこと。

 生殖補助医療で利用が多いAIDは、一般的に提供精子による人工授精のことを指す。最近では、提供精子、卵子や胚による体外受精も増えてきたため、それらを含めてDC(提供をともなう妊娠)と呼ぶこともある。
 DI研究会によれば、日本のAIDは、1948年が始まりだそうで、約60年の歴史がある。また、産婦人科学会の報告では、年間平均1,608組前後の夫婦がAIDを受け、164名の赤ちゃんが出生しているとのこと。AIDで生まれた子どもは1万人以上とされている。

 しかし、倫理的、物理的な問題も多い。その中でも、アイデンティティーに関わる「出自」は注目すべき点だ。厚生労働省でも審議を重ね、生殖補助医療制度の整備を行っている。「出自を知る権利」として報告書に記されていることは以下である。

  • …(略)…15歳以上の者は、精子・卵子・胚の提供者に関する情報のうち、開示を受けたい情報について、氏名、住所等、提供者を特定できる内容を含め、その開示を請求をすることができる。
  • 開示請求に当たり、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずること…(略)…特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は特段の配慮を行う。

 なお、提供者もこれらを承知して提供することになる。

 厚労省が子どもの出自を知る権利を明確に認めたとはいえ、実際は告知への抵抗感は大きいようだ。しかし、例えば遺伝子検査で父親と遺伝子が異なることが分かったなど、期せぬ事態で事実を知ることも少なくないらしい。AIDで生まれた方たちからのメッセージ(DI研究会)には、ショックを受けた体験も記されている。

 このような状況を受けて、「話してやってください あなたの子どもの大事な物語を」というガイドブックが作成された。執筆した家庭養護促進協会の岩崎美枝子理事は「事実よりも、お前が生まれてうれしい、幸せだという『真実』が大事。子どもが小さいうちに伝えてほしい」と話しているそうだ。

 「家族」にも様々な形がある。父子(母子)家庭でも、里親でも、愛情をいっぱい注がれた子どもは、精一杯生きようとするだろうし、愛情を注がれたことに気づかない子どもは、肉親ですら自らの手で殺害してしまうこともあるかもしれない…。
 生殖補助医療の技術の進歩に比べ、起こりうる事態への対策が後手になってしまった現状は否めない。しかし、「生まれてきてくれてよかった」「生まれてよかった」というメッセージもある。ガイドブックは、生殖補助医療の技術で生まれた子どもやその親から、不安を取り除きたいという願いが込められているはずだ。ともすれば、「出自を知る権利」を巡り悩む子どもが増え、子どもと深く関わる可能性が高い教育現場で、知識がより必要になるかもしれない。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2008/1/6 8:53:00
    知らない方がいいこともある気がします。
    • 2
    • 名無しさん
    • 2008/1/6 22:41:05
    >1
    ずっと「そうかもしれない」と悩み続けることもあるかもしれません。
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