きょういくじん会議
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文庫本に特化した文芸誌―おしゃれな『yom yom』が人気
kyoikujin #93
2008/3/13 掲載
yom yom (ヨムヨム) 2008年 03月号 [雑誌]

 出版界の不況が続く昨今、雑誌の売上低迷にはどの出版社でも頭を悩ませているところ。その中でも特に行く末が危ぶまれているメディアが文芸誌です。優れた作品と作家を輩出してきた伝統のある文芸誌でさえも、赤字を出しているのが現状だとか。

 かつては文芸誌を熱心に購読する文学少年・少女たちも多かったのでしょうが、時が経ち、彼らがそのまま中高年にスライドしても、新たな読者層を開拓できないまま時代に取り残されてしまったようです。確かに今の若い世代には「難しい! 堅い! 地味!」といったような取っ付きにくいイメージを持たれがち…。みなさんも、ほとんど購入したことがない、もしくは「●●賞受賞作品!」という謳い文句で話題作を掲載している号しか買わない、という方が大半では?

 しかし今、往来の概念を見事に打ち破り、新しい視点から創られた文芸誌が人気を集めています。

yom yom (ヨムヨム) 2007年 12月号 [雑誌]

 新潮文庫から発刊されている『yom yom(ヨムヨム)』。初めてこの本を目にして、文芸誌だと思う方はどれほどいるでしょう? ピンクオレンジといったビビッドカラーの表紙に、人気イラストレーター100%ORANGEが描く魅力的な挿絵たち。見出しなどは一切なく、オシャレなイラスト集や絵本といったようなデザイン。それなのに「yom yom」という誌名が、「読む」という行為をワクワクと想像させてくれるのです。
 この斬新さはビジュアル面においてだけではありません。まず書店での置き場所。最近ではすっかり隅に追いやられている文芸誌コーナーではなく、文庫本コーナーで文庫と共に平積みされています。なので大きさもちょうど文庫本2冊分。そして最大の特徴は、新潮文庫から本を出している作家の書き下ろし作品しか掲載していないことです。

 yom yomのホームページには、創刊にあたって編集長から以下のような言葉が述べられています。

 新潮文庫に親しんでいる若い読者のみなさまに、好きな作家の一番新しい作品を届け、またこれまで読んだことのなかった作家の一編をきっかけに、その作家の本を手にとってもらいたい―

 文庫本をよく買う中高生や若い女性たちこそが文芸誌の「穴」でしたから、その読者層を掴んで、なおかつ文庫本の売上にも繋げようというのが狙いなんですね。「新潮社」ではなく、敢えて「新潮文庫」からの創刊と銘打っているところからもyom yomのコンセプトが伺えます。もちろん、執筆陣(毎号ビックリするぐらい豪華!)の紹介ページには新潮文庫からの著作が必ず紹介されています。

 そして、その狙いは見事に的中した様子。yom yomの1〜5号までの合計発行部数は、平均で約7万5千部(4号までは全て増刷)。70年以上の歴史があり、今まで文芸誌の発行部数トップであった『オール讀物』の約7万3千部をいとも簡単に抜き去っています。
 さらに先月27日に発売された第6号。中高生向けに書かれたファンタジー小説でありながら、大人にも絶大な支持を得ている『十二国記』の新作が6年半ぶりに登場! ということで発売前から話題になったこともあり、初版は通常よりも多い7万8千部を用意。結局は発売初日に2万2千部の増刷が決定し、なんと計10万部の発行数となっています。これは文芸誌では異例の売れ行きとのこと!

 yom yomのヒットで、斜陽となっていた文芸誌の流れは変わり始めています。どんな本を読んでいいかわからなかった子が、こういった文芸誌で多くの作品に触れ、お気に入りの作家を見つけていく…そんな読書の仕方が今後は若い世代の間で増えていくかもしれませんね。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2008/3/13 18:19:50
    発売後数日で売り切れている書店も多かったようですね。さすが小野不由美。
    • 2
    • 名無しさん
    • 2008/3/14 15:50:45
    私も、梨木香歩の「家守奇譚」の新作目当てで買ったことがあります。
    確かに作家陣は旬を揃えてるなと思いました。
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