10日の産経新聞の記事によると、近年、若者の漢字読解力や黙読スピードの低下により、映画関係者が苦慮しているということが紹介されています。また、「ナチス」「ソ連」といった言葉の意味を知らないという、中学生の社会科で学ぶ知識が身についていない例も挙げられています。
海外では吹き替え版が主流
筆者は10年ほど前に、EUで最も識字率が低いと言われているポルトガルでハリウッド映画を観たことがありますが、英語をポルトガル語に吹き替えたものが標準的だったことに驚いたことがあります。現地の学生によると、ポルトガルに限らず欧米諸国では全体的に字幕版が少なく、吹き替え版が主流ということでしたが、背景には教育制度の不備、人種の混在などによる識字率の問題が関係しているようです。
吹き替え版が増えた理由
日本では長らく「洋画は字幕がよい」という共通認識がありました。外国人俳優の生の声を聞くことが「映画通」であり、吹き替えは子供向けの映画用のものとして軽んずる傾向が多かったように思います。
ですが近年、吹き替え版を見直す動きがでてきていることも事実であり、それには産経新聞の記事にあるような「知的レベル」の問題以外の理由もあるようです。
まずは、字幕の精度の問題です。人間が1秒間に読み取れる文字数は4字程度といわれています。これは1秒間に話す言葉の文字数よりも少ないため、原語の内容を全て盛り込んで訳すことは不可能であり、字幕と情報量の劣化とは切っても切れないものでした。文字量を切り詰めたことで、内容が分かりにくくなる場合も少なくありませんでした。また、映画字幕の「誤訳」がファンたちにより指摘されることもしばしば起こるようになり、字幕の内容そのものに対する不信感を持つ人も増えてきたように思います。
さらには、字幕を目で追わなければ映像にだけ集中できて、より映画に没入できるという理由から吹き替え版を好む人も増えてきました。
字幕の衰退は「知性の低下」か?
そのような点を考慮すると、吹き替え版が増えている理由としては、一概に「知的レベルの低下」だけとは言いにくいようです。
しかし、今回の産経新聞の記事が、字幕を楽しむために最低限必要な「識字能力」「一般教養」の低下傾向を示していることは確かです。「字幕を読めるが、吹き替えのほうが好きだ」と「字幕が読めないので、吹き替えのほうが好きだ」とでは雲泥の差があります。
日本人の識字率は100%と言われていますが、識字率の数字に現れないところで「国語力」の低下が起きていると言えそうです。
- 世界子供白書2007 識字率の比較(PDF)(日本ユニセフ協会)
http://www.unicef.or.jp/library/toukei_2007/m_dat5.pdf - ポルトガルの識字率(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%88%E3%82%AC%E3%83%AB#.E6....
話はちょっと違いますが、吹き替えでも字幕でも、各国の言い回し(特にジョークの類)は訳者も大変な苦労をされているんでしょうね。かなり強引で笑えないものも多いです。
小3から英語なんて話もあるみたいですし、ね。