「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(5)
「1人1台端末」を活用した個別最適な学び
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2021/10/25 掲載

 今回は、GIGAスクール構想によって実現された、「1人1台端末(タブレット)」を活用することで実現できる、「個別最適な学び」について述べていきます。
 1人1台端末で最も効果的なのは、共有のための手段として使うことです。今まで授業で共有しようとすると、どうしても一斉授業の形態をとらざるをえませんでした。ペアやグループで話したとしても、それを全員で確認する手段はなかったわけです。一方、1人1台端末ならば、プラットフォームと呼ばれるアプリのグループチャットを使えば、各々の解き方や考え方を投稿することが容易にでき、共有することができるのです。

タブレットの使用は学習目標達成のため

 各学校にタブレットやノートPCなど、「1人1台端末」が整備されました。各自治体、各学校の考え方があり、使用方法については、一概に「これが正しい」とは言いきれません。だから、「使う」「使わない」という二者択一ではなく、「こんな使い方をしたら、効果的だった」ということを試行錯誤していけばよいと思います。使ってみて、効果的だと思うことは続ければよいし、そうでないことはやめればよいでしょう。
 では、効果的かどうかは何を基準に判断すればよいかというと、それはもちろん「学習目標」(授業のねらい)の達成です。

キーワードは「共有」

 学習目標を考えたら、次に、具体的な授業場面を想定して、どのようにタブレットを使うかを考えます。
 タブレットを使うのは、学習目標を達成するためなので、今までできたことをタブレットを使ってやるだけならば、タブレットを使うことが目的になってしまいます。ですから、「今までできなかったことを、タブレットでできるようにする」と考えていくと、効果的な使い方がみえてきます。
 例えば、算数の問題をタブレットで解くか、ノートで解くか、という問題があります。個人的には、ノートで解いた方がよいと考えています。なぜなら、算数は図をかいたり、考え方をメモしたり、試行錯誤しながら問題を解きます。その場合、鉛筆と紙の方が小学生には適していると考えるからです。ノートで試行錯誤した後に、そのノートを撮影し、それを共有するときにタブレットを使う方が、学習目標を達成させるには効果的だと思います。
 算数授業でタブレットを使うとき、一番効果的なのは、子どもの解き方や考え方を共有する場面だと考えています。他にも多様な使い方があると思いますが、まずは「共有するために使う」ということを念頭に置いておくだけで、一気に使いやすくなります。

タブレットを使った共有の実践

 解き方や考え方を共有をする際、あると便利なのは、プラットフォームと呼ばれるアプリです。私が勤務する学校では、マイクロソフトの「Microsoft Teams」(以下Teams)というプラットフォームを使用しています。そのTeamsの中のチャネル機能(グループチャット)を使えば、解き方や考え方、写真、時には動画も投稿でき、簡単に解き方や考え方を共有することができるのです。

@グループチャットで解き方や考え方を投稿する
 グループチャットは、学級全員が投稿でき、見ることができます。自分で解いたり、まわりの人と考え方を共有したりした後に、解き方や考え方をグループチャットに投稿するのです。
 下の画面は、6年「拡大図・縮図」の導入の一斉授業のときのものです。授業の導入で、「アとエは、大きさが違うのに、形が同じに見えるのはなぜ?」という課題を共有し、その課題を私が投稿しました。その課題に対して、子どもが、どのように考えたのか、解き方や大事な考え方を投稿したものです。

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Aグループチャットで共有することの効果
 グループチャットで解き方や考え方を共有すると、様々な効果があります。特に、次のような点で効果的だと考えています。
・自分やまわりの人以外も同じ考え方をしていることがわかると、自信がつく。
・自分やまわりの人とは違う考え方をしている人がいることがわかると、他の考え方で見直すことができる。
・解けずに困っている子どものヒントになる。

B投稿を実況中継する
 子どもはたくさんの投稿をします。それを見ると、共通する大切な考え方もみえてきますし、問題を発展させたものもあり、とてもおもしろいです。しかし、30名のクラスであれば、30投稿されるわけで、それらの投稿を子どもがすべて見ることは困難です。
 子どもは自分で問題を解いて、まわりの人とも話し合っています。そのうえで、グループチャットに投稿された何十という解き方や考え方の共通点や大切な考え方に気づくのは至難の業でしょう。だから、グループチャットに解き方や考え方が投稿されたからといって、全員が理解できていると考えることは危険です。投稿された内容の共通点や他とは違う点などに着目させる教師からの声かけが必要になります。
 そのために、私は「投稿を実況中継する」ということをしています。「〇〇さんと△△さんは同じような考え方をしているねぇ」「◇◇さんは、また違った考え方をしているよ」「□□さんは、問題を発展させて、おもしろいこと始めたよ」といった感じです。ずっと実況中継をする必要はありませんが、教師が実況中継をすることで、「こういう視点でみればいいんだ」ということが子どもに伝わっていきます。

タブレットを使ったその他の実践

 タブレットは、グループチャットで解き方や考え方を投稿する以外にも、いろいろな使い方があります。

@ノートの見本を提示する
 今まで、見本となるノートを見せる場合は、コピーを配付するか、電子黒板等に映し出すしかありませんでした。しかし、Teamsならノートの写真をチャットに投稿するだけで、すぐに共有できます。そして、子どもも見本となるノートを手元に置きながら、目の前の授業のノートを書いていくことができるのです。

A探究に使う
 個別学習の授業後半で行う「学習の個性化」において、タブレットは大活躍します。特に、自分が気になったことを調べる際は効果抜群です。
 6年「対称な図形」で点対称について学習していた際、ある子どもが隣の人と一緒に「点対称は180度回転したときにぴったり重なる形だけれど、120度のときはどうなるのか?」という疑問をもちました。そこで、インターネットを使って調べてみると、「回転対称」という言葉にたどり着いたのです。

B過去と将来の学習とのつながりを意識するために使う
 学習履歴を残すのは「過去と将来の学習とのつながりを意識する」ためで、学習履歴を残すこと自体に意味はありません。また、学習履歴を残すことはノートでもできますが、タブレットを使えば、板書を撮影するという形で、それがずっと楽にできます。
 私のクラスでは、授業が終わると板書の写真を撮る子どもがいます。その写真をフォルダに入れてクラウドに保存することで、学習履歴を残しているのです。ただし、板書の写真を残しただけでは学びは深まりません。結局は、授業中にしっかりと、「どうしてそうなるのか」「どんなときに使えるのか」ということを考えたうえで、家庭等で板書の写真を振り返ることで、過去と将来の学習とのつながりがはじめて意識できるのです。

使い方の視点を与えつつ、使い方を縛らない

 「どんなときにタブレットを使うと便利で、どんなときにノートを使うと効果的か」といった使い方の視点を教師が示してあげることは必要です。ただし、最終的に何を使うかを選択するのは子どもです。個別最適な学びとは、子どもを主語にした学びです。したがって、タブレットorノートの選択を子どもがすること自体に価値があります。
 使い方を縛らなければ、子どもは多様な使い方を模索します。例えば、私のクラスであれば、下の写真のように、テスト前に学習をまとめたノートの写真を投稿していました。写真以外にも、学習をパワーポイントでまとめたものをPDFにして投稿している子どももいました。お互いに学習したことを共有することで、効率よくテスト勉強をすることができます。なかなかたくましい姿で頭が下がります。

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 堀田龍也先生は、こんなことを言っています。
 「使わないときにどうするか、使う必要性はどこで判断するか、使っているうちに姿勢が悪くなったときどうするか、といった問題は、1人1台環境になれば、どこでも当然発生します。それへの理想的な対応策は、地域や学校、クラスごとに異なるでしょう。ですからこの問題は、子どもたち自身が決めることが大切です。自立した学習者を育成することにもつながります」
 今まで使っていなかったタブレットを使えば、今までにない問題が起きることは当然ですし、間違った使い方もして当然です。教師から具体的な使い方や使い方の視点は提示しつつ、最終的には子ども自身が決めることが大切なのであり、それこそが、個別最適な学びをする子どもの姿の1つなのです。

【参考・引用文献】
・堀田龍也(2020)『PC1人1台時代の 間違えない学校ICT』(小学館)p.18

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 山田悦司
    • 2021/11/30 8:41:16
    一人一台端末の活用の仕方について、具体的であり、かつICTの活用の方向性について的を射ているご指導を見ました。勉強になりました。佐藤学先生もICTを、先生の代わりとして用いるよりは、児童生徒の思考、表現、探求の道具として活用し、ノートや消しゴムのような文房具として用いるとよいという趣旨の話をされていましたが、その実践と受け止めました。

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