算数科の「探究的な学習」をデザインする
算数という教科における探究的な学びのデザインの仕方を、理論と実践の両面から考えていきます。
算数科の「探究的な学習」をデザインする(1)
算数科における「探究的な学習」の捉え
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2024/6/25 掲載

 今、「探究」という言葉が教育の世界に溢れています。子どもが興味・関心をもった学習を進めることには大賛成です。しかし、果たしてそれだけでよいのか。そもそも自分で興味・関心がもてなかった子どもは探究ができないのか。そんな疑問が私の中でわいてきました。こういった疑問を少しでも解決したいと考え、本連載を始めることにしました。
 算数科は教科です。算数科の学習をするのは、国語科や社会科の学習をするのとは別の価値があるからです。ですから、算数科における「探究的な学習」というのは、「算数科ならではの『探究的な学習』」があると考えています。
 「算数科における『探究的な学習』はどう捉えればいいの?」「そのためには、何をすればいいの?」といったことを、実践を紹介しながら、1年間の連載を通して少しずつ明らかにできればと思います。

本連載の目的

 「探究的な学習」というと、子どもが自分で興味・関心をもった学習を進めることをイメージされると思います。内発的動機づけがあるので、取り組む学習内容が自分事になりやすく、楽しんで学習をする姿が想像できるでしょう。これが教科教育の中で実現できたなら、きっとその教科を好きになる子どもは増え、楽しく学習する子どもも多くなることでしょう。
 しかし、子どもが興味・関心をもった学習内容であれば、何でもよいのでしょうか。このことに私は疑問をもちました。同様の疑問をもたれている方も多いのではないでしょうか。本連載を通して、この疑問を少しでも解決できればと考えています。
 ただ、おそらく連載が終わっても、この疑問を明確に解決することはできていないと思っています。むしろ、悩みが深まるのではないかとも予想しています。しかし、この連載を通して、「算数科における『探究的な学習』で目指すべきもの」が少しでも見えてくればと考えています。
 ぜひ、皆様と一緒に考えながら実践し、連載を続けていきたいと思います。

算数科における「探究的な学習」の捉え

 算数授業で、子どもが興味・関心をもって計算練習をやっていたら、それは「探究的な学習」なのでしょうか。「計算をもっと速く正確にできるようになりたい!」と思ってやっているのであれば、価値のある学習ではあると思います。しかし、それを「探究的な学習」と呼ぶことには、少し違和感があります。
 また、教師がおもしろい問題を提示して、その問題に熱心に取り組んでいる場合はどうでしょうか。確かに、子どもは熱心に問題に取り組んでいますが、それだけでは、結局教師が提示した問題を解いているだけではないでしょうか。できれば、解決した先に「だったら…」とさらに問題を発展して考えていく姿を期待したいものです。
 「学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」(2017)には、以下のように述べられています。

 算数科の学習においては、「数学的な見方・考え方」を働かせながら、知識及び技能を習得したり、習得した知識及び技能を活用して探究したりすることにより、生きて働く知識となり、技能の習熟・熟達にもつながるとともに、より広い領域や複雑な事象について思考・判断・表現できる力が育成され、このような学習を通じて、「数学的な見方・考え方」が更に豊かで確かなものとなっていくと考えられる。(下線は筆者加筆)

 下線部を読むとわかりますが、算数科における「探究的な学習」は、「『数学的な見方・考え方』を働かせながら、習得した知識及び技能を活用」することが必要です。ここで注目すべきは、「数学的な見方・考え方」を働かせるという点です。算数科における「探究的な学習」では、子どもが興味・関心に基づいて学習するだけでなく、「数学的な見方・考え方」を働かせることが重要なのです。
 また、西村他(2024)は、中学校数学科において、数学的に考える態度の育成や生徒が「問題発見・解決の過程」を自立的に遂行できるようにするための学びを「探究的な学び」とし、「生徒が、数学内外の事象について問いを見いだし、自分や他者との対話による思考を繰り返し問題解決を進め、解決の結果や過程を振り返って得たことを整理し、新たな問いをもつことを重視する学び」(下線は筆者加筆)としています。この「探究的な学び」の捉え方は、算数科における「探究的な学習」でも十分参考になるものです。特に下線部の「問いを見いだし、新たな問いをもつことを重視する学び」が大切だと考えます。教師から与えられた問題と、子ども自身がもった問いでは、学びへのモチベーションの違いは明らかでしょう。
 以上のことを踏まえて、算数科における「探究的な学習」を「子どもが『数学的な見方・考え方』を働かせながら、習得した知識及び技能を活用することを通して、新たな問いをもつ学び」と、暫定的に捉えることにします。
 答えが出た後に「先生、次は何をすればいいんですか?」と問う子どもではなく、「この問題ができたのであれば、次はこんなことができるんじゃないかな?」と、自ら学習を進めていく子どもの姿を期待するということです。
 この連載が終わるとき、個の捉えがどのように変わっているのか、私自身楽しみです。

算数科の「探究的な学習」における「数学的な見方・考え方」の重要性

 下のノートは、6年「対称な図形」の第3時に子どもが書いたものです。第1時では対称な図形の意味、第2時では対称な図形の性質を一斉授業で学習し、第3時において、線対称な図形の作図を個別学習で行った際のノートです。

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 ノートの左側は、教師から提示した問題です。そして、ノートの右側は、子どもが自分でつくった問題です。このノートを書いた子どもは、左側で線対称な図形の作図をしたので、右側では点対称な図形の作図をしてみようと考えたわけです。
 ここで注目すべきは、左側ページ下部の丸囲みの部分です。「『対応する辺の長さ』『対応する角の大きさ』『対応する頂点』(を)くみ合わせる」と「対称のじく(軸)と垂直を使って」と書いてあるのがわかるでしょうか。そこから矢印をかいた先に「同じ着目ポイント、点対称でも使えた!!」と書かれています。これは、線対称で働かせた「数学的な見方」(私が担任するクラスでは、「数学的な見方」を「着目ポイント」と呼んでいます)を、点対称でも同じように働かせることができたことが書いてあるのです。
 線対称な図形の作図の後に、点対称な図形の作図をしていた子どもはたくさんいました。しかし、「線対称で働かせた『数学的な見方』を、点対称でも同じように働かせることができるかな?」と新たな問いを考えながら、点対称な図形の作図をしていた子どもばかりではありませんでした。  
 算数科における「探究的な学習」を行うためには、「数学的な見方・考え方」を働かせることが不可欠です。学習したことの共通点を見つけたり、解決した問題を発展的に考えたりすることで、学習のつながりを意識できるだけでなく、新たな問いをもつことができるからです。算数科における「探究的な学習」の原動力は「数学的な見方・考え方」なのです。ですから、日常的に「数学的な見方・考え方」を働かせる経験を積み重ねていくことが重要なのです。

算数科における「探究的な学習」の位置づけ

 算数科における「探究的な学習」の位置づけを考える際、避けては通れないのが数学的活動です。学習指導要領の算数科の目標の最初に「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す」と書かれている通り、算数科の目標を達成するためには、「数学的な見方・考え方」を働かせ、数学的活動を行うことが必要です。
 「数学的な見方・考え方」を働かせることと、数学的活動は切り分けられるものではなく、「数学的な見方・考え方」を働かせることによって、数学的活動が行われるようになっていくと捉えた方がよいでしょう。
 数学的活動とは、学習指導要領の解説に示されている次の図のような学習過程です。

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 算数科における「探究的な学習」というのは、解決した問題と過去に学習したことを統合的に考えて「○○ということが同じだった」と考え、「だったら、△△もできるかもしれない!」と発展的に考えることで新たな問いに取り組むのです。そして、この学習過程が続いていくことにより、「数学的な見方・考え方」をさらに豊かで確かなものにしていくのです。算数科における「探究的な学習」を行っている子どもの姿とは、子どもが自ら数学的活動のサイクルを回す姿だと言えるでしょう。

算数科における「探究的な学習」は日々の積み重ねの先に

 数学的活動は日々の学習において行われるものです。ですから、算数科における「探究的な学習」も日々行われるべきものだと考えています。
 「探究的な学習」というと、何時間か特別な時間を設けて行ったり、単元末にまとめて行ったりすることをイメージする方が多いのではないでしょうか。もちろん、そういった時間を設けて、どっぷりと子どもが興味・関心をもったことに取り組むことも時には必要です。しかし、そういったことをいきなりやろうとすると、子どもは「何をすればいいの?」となってしまいます。そういった「探究的な学習」をするためには、普段から「前の学習との共通点を探そう」と統合的に考えたり、「だったら、どんなことができそうかな?」と発展的に考えたりする経験を積み重ねていくことが重要です。つまり、日々の小さな「探究的な学習」の積み重ねによって、特別な時間を設けたり、単元末に行ったりする「探究的な学習」が可能になるのです。毎日の算数科の授業の中で、「数学的な見方・考え方」を働かせ、数学的活動を意識した学習を続け、算数科における「学び方」を身につけていくことが、算数科における「探究的な学習」を可能にしていくと考えています。
 やや矛盾した言い方になるかもしれませんが、「『探究的な学習』を通して、『探究的な学習』の『学び方』を学ぶ」ということなのです。少なくとも、知識・技能を伝達し、習熟ばかりを繰り返す授業を続けていては、「探究的な学習」を実現することは難しいでしょう。

 次回は、算数科における「日々の『探究的な学習』」の実践を紹介します。

【参考引用文献】
・文部科学省(2017)「学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」pp.7-8、21
・西村圭一・佐藤寿仁・成田 慎之介(2024)「中学校・高等学校数学科における『授業研究コミュニティ』の形成・拡大に関する研究―アプローチとリサーチクエスチョン―」(第12回春期研究大会論文集、pp.37-40)

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2022年に日本数学教育学会学会賞(実践研究部門)を受賞。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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