算数科の「探究的な学習」をデザインする
算数という教科における探究的な学びのデザインの仕方を、理論と実践の両面から考えていきます。
算数科の「探究的な学習」をデザインする(10)
算数科における「中核的な概念」について考える
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2025/3/25 掲載

 今回は、連載最終回です。過去9回にわたって、算数科における「探究的な学習」の理論や実践をまとめてきました。そこで重要になるのが「数学的な見方・考え方」だということを何度も述べてきました。現在、中教審の教育課程企画特別部会が立ち上がり、「中核的な概念」について活発に議論されています。算数科における「探究的な学習」においては、この「中核的な概念」について考えることが不可欠だと考えられます。そこで最終回では、議論中の「中核的な概念」を踏まえて、算数科において大切なことをまとめます。
 ただし、「中核的な概念」については、議論中のため、その定義を明らかにすることはできないことを、あらかじめご了承ください。

算数科における「中核的な概念」の捉えと算数科で大切にしたいこと

 令和6年12月25日に出された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」(いわゆる大臣諮問)には、主な審議事項として、以下の図1の4つが示されました。(文部科学省、2025a)

図1

図1 諮問で示された主な審議事項(文部科学省、2025a)

 主な審議事項の中の「@質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方」には、日々の授業に直結する内容がたくさん書かれています。その1つ目の○の最後に「各教科等の中核的な概念等を中心に、目標・内容を一層構造化」という文言があります。
 「中核的な概念」については、「核となるコンピテンシーや概念等を指す『中核的な概念』」(文部科学省、2025b)と述べられており、本連載で使用してきた「数学的な見方・考え方」の捉え方に近いものだと考えています。奈須(2025)も、「中核的な概念」について、「それはまったく新しいものなどではなく、すでに『見方・考え方』というアイディアで出してあり、中核的な概念による構造化に当たるものは、例えば、理科の『粒子』や『エネルギー』として示してきたものなのです」と述べています。
 ただし、現時点で「中核的な概念」という言葉の定義が定まっているわけではないですし、各教科等の特質に応じた見方・考え方(以下、「見方・考え方」)も捉え方が様々な現状を加味すると、「中核的な概念」=「見方・考え方」と言いきることは難しいかもしれません。そこは、今後の議論に委ねつつ、自分でも考え続けたいと思います。
 1つ言えることは、子ども自身で新しい知識や技能を発見する過程で、共通する「中核的な概念」や「見方・考え方」に気づき、さらに新しい問題を発見し、解決していく過程を大切にしていくことは、これからも重要であるということです。例えば、本連載の最初で、算数科における「探究的な学習」を「子どもが『数学的な見方・考え方』を働かせながら、習得した知識及び技能を活用することを通して、新たな問いをもつ学習」と、暫定的に捉えました。この「数学的な見方・考え方」を「算数科における中核的な概念」という言葉に置き換えられることはあるにしろ、現時点では、この捉え方を変更する必要はないと考えています。

「中核的な概念」は、子どもと一緒に見つけていくもの

 「数学的な見方・考え方」についても、いろいろな捉え方があります。学習指導要領では定義されているものの、その定義をどのように解釈するのかは、読み手によって異なります。きっと、「中核的な概念」の捉え方も、これから様々な解釈が行われていくことが予想されます。
 図2(文部科学省、2025c)の赤四角枠(筆者加筆)部分が「中核的な概念」と言われるものです。この資料は、中学校の数学科を例に作成されています。ですから、中学校の数学科の先生方にはイメージがしやすいかもしれません。しかし、他校種や他教科の先生方にとっては、イメージしにくいかもしれません。

図2

図2 各教科等の主要な概念の深い理解との関係(「タテ」の関係)と、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の相互の関係(「ヨコ」の関係)を表した図

 結局、「中核的な概念」というのは、様々な具体例があって、はじめて明らかになるものです。これは、「見方・考え方」も同じでしょう。ですから、「見方・考え方」や「中核的な概念」というのは、子どもと一緒に見つけていくものなのです。次期学習指導要領において、各教科等で「中核的な概念」が明示されたとしても、それを子どもに最初から伝えても、あまり意味はないでしょう。
 例えば、たし算・ひき算であれば、「同じ単位どうしならたし算・ひき算ができる」という「中核的な概念」(これを「中核的な概念」と言ってよいかはわかりませんが)を子どもに最初から提示しても、何のために教わったのかわかりません。しかし、単元をまたぎ、学年をまたいで、たし算・ひき算の学習を振り返ることで「桁数が増えても、小数や分数になっても、結局は『同じ単位どうしならたし算・ひき算ができる』というのは同じだ」ということに気づけば、5年生で「1/2+1/3は、なぜそのままではたし算ができないのだろうか?」という疑問をもつことができますし、「どうやって単位(分数)をそろえればよいのか?」という解法を考えるための着眼点をもつこともできます。学習する意味や、問題解決のための着眼点がもてるということです。そして、「だったら、異分母分数のひき算でも同じようにできるかな?」と、問題を発展させるための視点にもなります。
 最近、「単元の導入で、『見方・考え方』をセットする」という言葉をよく聞きます。単元の導入で、その単元で働かせる「見方・考え方」を共有することは重要だと考えますが、教師から一方的に「こういう『見方・考え方』を働かせなさい」と言われても、子どもは「何のために?」と思うだけでしょう。

子どもが「中核的な概念」を使えるようにするために教師に求められること

 「『中核的な概念』とは何か?」という議論は、これから活発に行われていくと思います。「中核的な概念」の定義が定まったとしても、各教科等の学習内容に落とし込んだ際には、少しずつ解釈が異なることも予想されます。
 また、どのレベルで「中核的な概念」を抽象化していくかによっても、捉え方が異なることでしょう。抽象度が高過ぎても子どもは理解できないですし、抽象度が低過ぎても、いろいろな知識をつなげて構造化することができなくなります。
 ただし、子どもが意識し、使えるものでなければ、「中核的な概念」も絵にかいた餅になってしまいます。そうならないために必要なことは、一人ひとりの教師の教材研究です。1単位時間の教材研究ではなく、少なくとも単元全体を見通した教材研究です。できれば、学年をまたいだ系統性を意識した教材研究ができればよりよいでしょう。
 2年生で、たし算・ひき算の筆算を学習しますが、「位をそろえましょう」という指導をすることが多いと思います。しかし、位をそろえるのは形式です。なぜ、位をそろえなくてはいけないのでしょうか。それは、位をそろえると、単位がそろうからです。十の位は10を単位にして表記されます。一の位は1を単位にして表記されます。だから、位をそろえると、たし算・ひき算ができるのです。こういうことを教師が知っていると、「同じ単位どうしならたし算・ひき算ができる」という「中核的な概念」がたし算・ひき算の筆算でも使われていることを、子どもに気づかせることができます。
 算数科における「探究的な学習」は、日々の学習において行われるべきです。日々の算数科の学習で「探究的な学習」が行われるためには、子どもが前の学習との共通点を考えて統合的な考察をし、共通点を基に新しい問題を見つけて発展的な考察をすることが大切です。統合的・発展的な考察をするためには、そのための着眼点が必要です。それが「数学的な見方・考え方」であり、「中核的な概念」と呼ばれるものでしょう。算数科における教師の授業前の役割として重要なのは、「数学的な見方・考え方」や「中核的な概念」を明らかにし、自分の中にもっておくことなのです。

【参考引用文献】
・文部科学省(2025a)中央教育審議会 初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)概要p.2
https://www.mext.go.jp/content/20241226-mxt_kyoiku01-000039494_02.pdf
・文部科学省(2025b)中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 教育課程企画特別部会(第2回)配付資料【参考資料1-1】、p.6
https://www.mext.go.jp/content/20250217-mext_kyoiku01-000040050_06.pdf
・奈須正裕(2025)「中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領『改訂への道』#04」(『みんなの教育技術』小学館)
https://kyoiku.sho.jp/366151
・文部科学省(2025c)中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 教育課程企画特別部会(第3回)配付資料【資料1-1】、p.3
https://www.mext.go.jp/content/20250228-mext_kyoiku01-000040050_02.pdf

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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