教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(2)
先に望ましい行動を示す
京都文教大学准教授大前 暁政
2013/5/31 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

50m走の記録を測ったのに、走り終えた子は応援をしようともしない。まったく最近の子は応援もできないんですよ。

ノートをたくさん書こうとしない。まじめに授業を受ける気がないのかしら。

 ついつい、教え子のことで、愚痴を言ってしまう。
 そんな会話に注意したいものです。

 教師のタブーの一つに、「教え子の悪口を言う」があります。
 これは、やってはいけません。
 なぜなら、悪口を言ったら、そこで指導がストップしてしまうことがあるからです。
 指導がうまくいかないのを、教え子の質のせいにしてしまうからです。

『教え子の質に文句を言わない。』これは、プロとしての心得です。

 さて、この場面、教師の何が問題なのでしょうか。
 まず、50m走の場面。
 「走り終えた子が、応援しようとしない」という話でした。
 この場合、「先に望ましい行動を示す」ことをしなかったのが、だめなのです。
 授業の前に言っておくべきだったのです。

「走り終えた人は、応援をしてあげてね。」

 こう説明するだけで、子どもの意識の中に、教師の考える「望ましい行動」が入ります。

「応援することも知らない」子どもが悪いのではありません。「こういうときは応援をするんだよ」と教えない教師が悪いのです。

 さらに言えば、「応援」といっても、具体的に、どのような応援を、どの程度すればいいのかが分かりません。
 そこで、お手本を見せたり、説明したりといったことが必要になります。

「50m走はね、後半だんだん苦しくなってくるから。40mぐらいのところで並んで座って。がんばれー!って、手をたたきながら応援してあげてね。(やってみせる。)」

 そのあと、できている子をほめていきます。
 ほめることで、望ましい行動が子どもに定着していくのです。

 2番目の例「ノートをたくさん書こうとしない。」も同じです。
 ノートをあまり書かない集団を受けもったとしましょう。
 授業の開始、次のように望ましい行動を示します。

「ノートをしっかり書くと、書く力もつくし、頭も賢くなります。今日は、自分の考えを書くときに、3行を目標に書いてごらん。」

 あえて、3行という「ちょっと頑張ればできそうなゴール」を示します。
 すると、今までノートをあまりとらなかった子も、少し頑張ろうとします。
 いつもは、1行ぐらいの子が、3行ぐらい書くのです。
 教師から見ると微々たる差に思えますが、その子なりに、教師の「望ましい行動」の話を聞いて、頑張ったのです。
 いつも1行。でも今日は3行。
 こういった「教師から見ると微々たる差に思える頑張り」を見つけて、ほめます。

「よく頑張ったね。ノートをたくさん書くのはとても良いことなんだよ。」

 望ましい行動を先に示すことで、必ず頑張る子がいます。
 その子をしっかりとほめると、望ましい行動が定着し、広がっていきます。

『先に望ましい行動を示す』

『望ましい行動をする子が現れる』

『教師がほめる』

『望ましい行動が広がっていく』

このような、良いサイクルができれば、学級に望ましい行動がだんだんと広がっていくのです。

 教師が愚痴を言う必要はなくなります。

 子どもの質に愚痴をいう前に、自問すべきです。

「望ましい行動を、先に子どもに示していただろうか?」
「その望ましい行動をとった子を、見つけてほめていただろうか?」

 子どもの質に納得いかないなら、どういう方向で伸ばしたいかを、先に子どもに示すべきなのです。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)
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