- マスターしたい指導技術集
- 教師力・仕事術
ヒドゥンカリキュラムとは、子どもが暗黙に学ぶ教育内容のことです。
例えば、授業中のおしゃべりをほうっておくとします。
すると、子どもたちは、「おしゃべりをしていいのだ」と学びます。そして、「授業中のおしゃべりはOK」という暗黙のルールができてしまいます。しばらくすると、そのルールが固定化されていきます。後から教師は、「意図せずに、悪い習慣を育ててしまった」ことに気付くというわけです。
しかし、「無意図的に」、子どもの行動に「悪い」影響を与える状況をつくってしまえるのであれば、その反対もできるはずです。
つまり、
「意図的に」、子どもの行動に「良い」影響を与える状況をつくればよいのです。
例えば、ある子が発表したとします。
その子が発表した後で、一番遠くの子に尋ねます。
「今の発表は聞こえましたか」
そして、「はい、聞こえました」と答えたとしましょう。教師は、「じゃあ、次の発表に移ります」と次の人を指名していきます。
このとき、どういうヒドゥンカリキュラムが生まれているのでしょうか。
発表者にとっては、「一番遠くの人に聞こえる声で発表しなさい」という暗黙の指導になっています。次から、一番遠くの人に気を付けるようになります。
聞き手にとってみれば、教師が復唱をしてくれませんでした。
聞き逃した子は、「しまった」と思うはずです。「発表を聞いておかないと、分からなくなるよ」という暗黙の指導になっているのです。
発表者にとっても、聞き手にとっても,望ましい習慣を身につけるきっかけになっています。つまり,子どもたちは知らず知らずのうちに,望ましい習慣を身につける方向へと自分の意思で進むことができるのです。
このような状況を、「意図的に」つくれるかどうかがポイントなのです。
子どもの自立を促したいときにも、ヒドゥンカリキュラムを意図的に活用すると、効果を発揮します。
例えば、係活動の際に子どもが助けを求めに来たとします。
「先生、これってどうすればよいですか?」
このとき、どのような対応をしているでしょうか。
「これは◯◯をすればよいのですよ。」と直ちに的確な指示を出すこともあるでしょう。「どうすればよいかなあ?」と子どもと一緒に考えることもあるでしょう。「君はどうしたいの?」と問い返すこともあるでしょう。
自立を促したいのであれば、「君はどうしたい?」と尋ねるのが効果を発揮します。毎回、助けを求めにくる子に対して、「あなたはどうしたいのか?」を尋ねるのです。そうすることで、次のことを教えていることになります。
@自分の意見を考えた上で、相談にこよう。
A自分はどうしたいのか、自分主体でやりたいことを考えよう。
反対に、いつも的確な指示を出していれば、どういうことを教えたことになるのでしょうか?
例えば、次のようなことを、知らず知らずのうちに教えていることになります。
@先生に尋ねれば、すぐに解決できる。
A自分で考えていなくても、先生が助けてくれる。
長い目で見ると、これはまずいことになります。
子どもが「受け身」になってしまうからです。
このように、教師の対応一つで、子どもに伝えていることが違ってくるわけです。
「どうも望ましくない行動が習慣化しているな」
そう感じたら、自分の言動から、悪いヒドゥンカリキュラムが生まれていないかどうかをチェックします。そして、よいヒドゥンカリキュラムを学べるよう、意図的に教師の言動を変化させればよいのです。
そして、「どういった言動をしたら、どのような教育効果が生まれるか?」、「どういった状況を生み出せば、よい影響を与えられるか。」を考え、意図的に教師の言動を変えていけばよいのです。
悪い習慣が子どもに生まれつつあるのに、教師自身の言動や学級の状況を改善しないのは、大変にまずいことなのです。