教育オピニオン
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教育エッセイ(第9回)
コンピュータを使えば喜ぶけれど
早稲田大学理工学術院兼任講師柳谷 晃
2010/12/24 掲載

 最近は電子書籍という言葉がはやっています。教育界でも、少し前からコンピュータを使った教育が注目を浴びているようです。教科書もデジタル教科書の開発が盛んになってきています。新聞にも、コンピュータを使って小学生に授業をすると、授業時間の最後まで興味を持って子どもが参加する、という記事がありました。コンピュータを使った授業は、子どもたちの興味を持続できるということをよく聞きます。

挿絵
 でも、これはちょっとおかしくないでしょうか。授業で出された問題を、ゲーム感覚でコンピュータの端末を使って答える。市販のゲーム機を使っているように、面白がって子どもは授業を聞く。それでよいのだろうかと疑問を持ってしまいます。算数は自分の手を動かして筆算を繰り返さなければ力はつきません。国語は自分の手を動かして、漢字を何度も書く練習をしなければならないでしょう。

 コンピュータは、勉強をする上での道具です。一番大切なのは、デジタル化された教材で教えた後に、今度はどのようにして自分の手を動かして勉強ができるような力をつけていくのか、ということ。この部分が抜けているような気がするのです。コンピュータの端末を離れたときに、子どもは集中して自分の手を動かすことができるでしょうか。それには、「授業時間の間は席に座っている」という基本的な躾が大切なはずです。これは家庭の教育も大切になってくるでしょう。

 私自身、一定時間座って何かをするという習慣が身についたのは、習字を習っていたことが大きかった気がします。そろばん教室に通って集中力がついたという友達もいました。本来、ある時間座っていなければならないということは、家庭の食事などでも躾けられることです。小学校の低学年の子どもは、家庭で30分毎日机に向かうという癖をつけるだけで、かなり勉強する力がつきます。今の子は、習字やそろばんに興味を示さないから仕方がない。それですませてしまっては、子どもの悪い癖を認めてしまうことにはならないか、ということが心配になります。子どもの性質は、全てがよいものではないのです。悪い癖は小さいうちに摘んでおかなければなりません。

 コンピュータでの授業は、先生の教材準備が大変なはずです。それを助けるソフトはできるでしょう。しかし、本当の目的は勉強の力をつけるということです。いやなことでも我慢して座って作業をする。ここに、コンピュータを使った授業をつなげなければなりません。子どもが集中している間に、画面から離れて自然に手を動かす行動に移ることができるように、教材を工夫する必要があります。この工夫をソフトはしてくれません。教材を作る努力をこの点に集中しなければ意味がないのです。

柳谷 晃やなぎや あきら

1953年東京生まれ。1975年早稲田大学理工学部数学科卒業、同大学院博士課程修了。現在、早稲田大学理工学術院兼任講師、同大学高等学院数学科教論。小学生から社会人まで幅広い講演活動をしている。主な著書『算数嫌いをひと目で解決!“つまずき”サインチェックシート』(明治図書)、『そこが知りたい!数学の不思議』(かんき出版)、『忘れてしまった高校の数学を復習する本』(中経出版)、『そうだったのか算数』(毎日新聞)。

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