ICT機器の発達は急速な勢いで進んでいる。今まで困難だったことが容易になり、10年前には考えもしなかったことが実現できるようになってきている。その中で、授業を「楽」にするための活用法ではなく、子どもの学びを深めていくための活用法を我々教員は考え、実践していく必要がある。
ほんの10年前、学校においてICT機器は専門的な知識をもった教員のみが使える高度なものであった。しかし、現在では使えること自体への意味は薄れ、どう活用していくかに焦点が置かれている。
1 ICTを取り入れるメリットとその活かし方
ICTを取り入れるメリットは数々の文献や実践の中で示されてきている。その中で私が特にメリットと感じる部分は「同時性」、「思考の見える化」の2点である。
■同時性
思考を深める第一歩は言わずもがな個人で考えをもつことである。授業において、課題に対して自らの考えをもつ時間を確保することは言うまでもなく重要なことである。しかし、その後、他者と共有し、さらに考えを深めていく場面を授業内で適切な時に適切なだけもつことが非常に難しかったように思う。それは教室という環境の問題でもあるし、時間的な問題でもあった。その部分においてICTの活用は革命的な変化をもたらしていると考える。座席に座りながら、別の場所にいる人物の意見に即座にアクセスできる。また、それに対しアクションを起こしたり、リアクションを受けることもできる。そして何よりもそれがリアルタイムで同時に行えるという部分に大きなメリットがある。
■思考の見える化
ICTを用いることで、今まで頭の中だけで考えていたこと、メモに書いて捨ててしまっていたものを学びの変遷として残しておけるというメリットがある。考えがまとまっていないアイデア、雑多なメモなどは生徒たちにとってなかなか価値を見いだせないものであり、多くの場合、ゴミとなり、ただ消えていったりするものであるが、教員の側からするそれらの集積は宝の山である。どのように学びが生まれ、どこで変化をしたのかという「思考の跡」を見取ることのできるものだからである。ICTを効果的に用いることで、それらを保存し、簡単にアクセスすることができるようになるだけでなく、現在どのような思考をしているのかをその時々にチェックすることができる。このことは教員側からのメリットだけでなく、生徒自身も自らの学びがどのように移り変わったのか、何がきっかけであったのかを分析し、ふりかえる材料となる。
図1 教員用ページ
2 導入事例
以上に述べた2点(ICT活用のメリット「同時性」、「思考の見える化」)を意識して行った事例を以下に挙げる。
現在、国語科の授業の中で伝統的な言語文化への取り組みとして、本校がある大阪の地で育まれてきた「上方落語」を題材とした授業を行っている。1年から3年までの3年間かけて、様々な視点から上方落語という伝統的な言語文化にアプローチするという計画(詳しくは割愛する)の中で昨年度(2年)において、学びを一枚ポートフォリオ(OPP:One Page Portfolio)にまとめるという取り組みを行った。使用した機器はiPadとスタイラスペン。アプリケーションとしてMetaMoji Classroomを用いた。生徒は休み時間の間に機器を受け取り、筆箱に入ったQRコードを出し、各自のページにログインをはじめる。これらの機器は生徒たちにとってもの珍しいものではなく、日常生活にある文具となっている。
まず、フレームのみのOPPシートを生徒に配信する。そこには単元の構成、授業の流れが示されており、生徒はこのシートを完成させることで単元の学びを俯瞰することができるようになっている。生徒は各時間に別ページにおいて毎時の課題に挑み、それらを編集することでシートを完成させていく。この時、成果物としてまとめる0PPシートとそれらを生み出すための別シートが個人ページに保存されていくところにICTの効果があると考える。また、生徒の学びは席に座った状態で、個人→他者との共有→個人という流れで進み、知りたい時に知りたい情報へアクセスし、また、他者との意見交換を行うことが可能になっている。それぞれに考えを持った上で、多くの人の意見を交流できるということは、国語科の授業としては非常に重要な部分であると考える。
図2 OPPシート
図3 生徒ページ
図4 OPPシート完成版(生徒作成)
ICTは他者と関わることで生まれる新しい考えに気づくことができる環境を与えてくれる。しかし、結局のところ、発想し、修正を重ね、考えを深めていくのは生徒自身である。生徒の学びに働く効果的な活用法を今後も考え続けていかなければならないと考える。

「子どもの学びを深めていく」ためにICTを利用するという記述もあるが、「読むこと」領域の授業に限って言えば、「子どもの学びを深める」基本は、教師の良質な発問であり、教師の豊かな読み(教材の解釈)である。「○○の段落は必要ないんじゃない?」「○○の言葉は△△で置き換えられないかな?」等の発問は、生徒の読みをより深い、高次の読みに到達させることができるものである。ここにおいて、ICTは全く不必要である。
教科や領域の特質、各教科の指導事項を無視したICTの活用は無意味である。