はじめに
「教師の働き方改革」などが大きく取り上げられ、各自治体は時間管理を中心として施策に取り組んでいるが、改革の道には依然として厳しいものがあり、その状況は教員志願者の倍率にも表れている。特に、公表された自治体では、新潟県小学校1.2倍、東京都小学校も3倍を切る状況になっている。
本稿では、この教員採用選考の危機的状況を分析・判断することで、今後の志願者増の道筋を論じたい。
1 教員採用選考の倍率低下をどう判断するか
(1)若手教員の育成の停滞
東京都を含めて全国的な大量退職、大量採用時代にあたり、私は管理職を中心にした全校体制での初任者研修等を年間200日実践してきた。この成果は、東京都教育委員会の初任者研修のカリキュラムにもモデルとなってあらわれている(釼持勉著『若手教員育成プログラム42』明治図書)。しかし、各学校においてはOJTの名の下に一定の成果はあるものの「若手が若手を育成する」状況にまでは至っていない。年度によっては50名を越える初任者が教職を辞退する状況も見られる。この状況はさらに加速化しているようだ。
(2)大学の出口論、教育委員会・学校現場の入口論の課題
「授業の力量がついていない」と採用されたばかりの教師が悩むのは当然であるが、授業以外にも「着任しても学級経営が分からない」「学級運営について理解できていない」「人権教育について理解がほとんどない」「教師としての言語感覚の意識が足りないと感じる」と様々な悩みの声が上がる。
現在、中学校でも着任後すぐに学級担任として校務にかかわる新任は多いのに対し、大学で学級経営の授業を受講しているものはそう多くはない。小学校においても「学級経営の講座は受けたが、4月からの学級運営は分からない」「4月をどう切り抜ければよいか分からない」という率直な意見を聞くこともある。教育委員会は合格者に事前の研修は位置付けていても、4月からの学級経営、学級運営を指導する機会はほとんど実施していない。学校現場は、新任の教師も学級経営について「分かっているはず」という認識で、4月からの学級担任としての力量があるものと判断している。
私は、平成18年から10年間に渡り、東京学芸大学の学生に対して「教職実践セミナー」という講座を開講してきた。そこでは合格者の学生、期限付きの学生、講師としてのスタートする学生に対して4月からの教壇に立つために、次のような出口論の確立を図ってきた。すなわち、4月からの学級経営、生徒指導の基本、学習指導の基本、人権教育の推進、初任者の体験談、保護者対応などのカリキュラムを作成して、安定した4月が迎えられるよう取り組んできた(この記録はジアース教育新社にて30回に渡り連載)。
(3)教師の働き方改革の推進状況に変わりはない
「教師の働き方改革」いわゆる「教職のブラック化」の指摘によって、各自治体は時間管理を中心として多忙感の解消に舵を切っている。しかし、本来業務としての事務量や様々な対応はいっこうに変わりなく、教師の単なる時間管理だけでは「働き方改革」には至っていないのが現状であろう。私自身、勤務時間内に何をすればよいのか、ゴールをどう設定すればよいのか、優先順位を立てながら校務処理をしてきた経験をもっている。人材育成が最優先し、一人一人の教師の人生の青写真に関わることで一体感のある学校運営をしていた。それにより必然的に時間管理ができるようになっていた。
2 教員採用選考の志願増に向けての取り組み
(1)人材育成に待ったなし
教師として、特に4月に安定的な学級運営ができるようにし、また着任する学校で地域の理解も図るために、各大学ではどのようなビジョンをもって学生をを輩出するのかという出口論の徹底が必要となる。そして、教育委員会・学校は、地域の特色や4月の学級運営などをどの程度理解していればよいかの入口論の徹底が欠かせないこととなる。この段階が機能しない限り、若手教員の力量を上げることにはならない。
(2)「教師の働き方改革」は時間管理からのマネジメント管理に転換
教職のブラック化を払拭するのはもちろんであるが、時間管理の面から、事務量軽減、会議の在り方、保護者対応の在り方、生徒指導の在り方の円滑化などが不可欠となる。そして、何よりも管理職のマネジメント力を高める研修によって、学校全体の働き方改革に主体的に取り組む学校力が求められる。
(3) 教師の魅力を熱く語ること
教師自身「教師は大変」「信じられないほど毎日が忙しい」「家と学校の往復で自由がない」などの発言を「児童・生徒から得られる財産」「児童・生徒の成長が実感できる」「人を育てる仕事は生き甲斐がある」という発言に転換して、教職という仕事に対して熱く語れることが重要となる。教師一人一人が仕事の楽しさやよさを話すことができる力量をもつこと、その連続と継続が次世代の人材を確保することになる。
おわりに
教員採用選考の倍率低下は「働き方改革」が必要な環境であることだけが要因ではない。これまでの人材育成において、大学・教育委員会・学校がしなければならないことを怠ってきたことの延長線上にあり、「教職のブラック化」がそれに拍車をかけて、倍率低下につながっていると判断している。「人材育成に待ったなし」の精神で、教師一人一人が教職の魅力を語り合う姿が日常化し、学びの文化を継承していく姿を明確にして教育実践に専心してもらいたい。
誰しも土台があって自信がわいてくるものです。
多くの初任教師は、意欲があっても「方法」がわからない場合があるのだろうと思います。
素晴らしい職業だと思うので、悩みの末、退職を選択する方が多いのはもったいないです。教職採用の倍率の低下の要因には、そういった退職者の増加や教職のブラック化がひとつの大きな原因だという内容が書かれていました。
だからこそ、大学機関と採用地域での両方の人材育成が必要なのだなとわかりました。それらによって横のつながり、縦のつながりといったサポートしあう環境も生まれやすくなると思います。
私にとって教師は尊敬し、憧れの存在です。情熱をもって指導してくれた学生時代の思い出は私の財産となっています。
その情熱よりも大変さのほうが勝ってしまう現実もある事には寂しさを感じます。
「仕事量は減らないのに、人材不足と時間削減」の現実には、より優先的なことを選択する判断で切り抜けるしかないと思うので、その為にも土台作りが必要なのだと改めて感じました。
[若手が若手を育成する]ためにも、子供とかかわる一人一人の現場の人間が学び続ける姿勢をもち、[教職]は魅力的な職業であることを実体験をもとに発信していくことが重要だと思った。そのためにも、[学校]という孤立しがちなコミュニティーだけでなく、様々なチャンスを掴み、広くかかわりをもつことができるよう励んでいく。
私は教師を目指す者として教壇に立つ前に身につけるべき教師力を養い、資質向上のための自己研鑽を行わなければいけないと強く感じた。
また、謙虚に学ぶ心をもち、先輩教員からの優れた指導技術を学ぶ姿勢を持ち続ける教師であることが資質向上には不可欠だと捉えた。
現場のマンパワー 行政からの理解 支援 これらの不足が否めないのが現状である中 1人でも多くの力になれる賛同者が必要ではないだろうか 公教育の未来の為 的確なアプローチ 呼びかけはこれからも筆者を筆頭に継続しなければならないと考える
日本の若い先生方も志をもっています。育つための時間の猶予をあげたいものです。
本稿で鋭く指摘された危機意識はwebを通して広く共有されるべきである。
教えて下さる体制の大切さというものはどこの業種でも変わりないのですね。
私自身当たり前ですが学生時代、先生に育てられましたが、先生を育てる側の筆者の先生のこのような情熱に、そしてその存在に、とても感動致しました。
当時はよく気付かずに感謝を表すこともままならず、ただ卒業してしまいましたが、勉学にも愛情の上でもあたたかく気持ちをこめて育てて下さった先生方の顔を思い出します。今そんな先生の卵の方々が、方法がわからないばかりに、大変さに押しつぶされてしまうことは、悲しい気持ちになります。
是非、先生方の働く喜びが失われないサポート体制を築きいてほしいです。
10年、20年後▪▪先を見通した取組の必要性を感じます。働き方改革と相まって。
1、「メンター制の導入」をお薦めします。退職した経験豊かな教師には教育現場での指導、 経営者からはマネジメントや子供を引き付けるコツなど指導やアドバイスを貰う。
2、「アルバイト・インターンシップの活用」教職課程の学生ではなく、一般の大学生などのアルバイトを入れて教師のアシスタントをさせる。教育現場のアルバイトなら人が集まり、教師の道を考えるキッカケとなる。
3、マネジメントが苦手な日本人。釼持先生が構築・指導されている「学級運営」、マネジメント教育は絶対不可欠。教職大学及び大学院では必須科目にしたらどうか。
実際に教職課程を履修したが、学びの過程と現場に大きく差があるように思う。学びの過程、ここでは教師になるまでの過程を指すが、どこか勉学・座学に捕らわれ、一方方向の学びが特徴であるように思う。
今現在、アクティブラーニングという授業があるように学びの過程において、現場と齟齬が生じぬよう策を講じる必要があるのではないかと思う。そして小学校と大学間の連携等から現場との差を埋め、実践的に養成していくような教育方法等互いに改めて行かなければならないのではないか。
教育現場が改革をするならば、共に養成する大学側も改革し、なりたい願望からなるという意思決意の確立までを過程で育てていくべきではないか。
その果てに、今までの経験を通し教壇に立つ時には自信を持って、子どもたちと向き合える一大人となるのではないかと考える。
子供の成長を近くで見守れる喜びは教師でなければ感じることができません。仕事のやりがい、喜びを多くの方に伝えていければと思います。
こうした事態は、教員の質の低下や学校の教育力の低下、教員養成系大学・学部の凋落、さらには日本国力の衰退につながる。学生が適当に過ごしても教員になれるようであれば、大学教員も教員養成への気概も失うことだろう。こうした澱んだ教員育成現場になれば、大学入学の段階で教育人材を失いかねない。
学校教員は、養成・採用(行政・大学)だけで「よい教員」は作れない。年齢構成の異なる教員相互のコミュニケーション(研修会)の機会はもとより、採用の前後の期間(学生段階から現職教員までの時空間)の垣根をなくした研修会の設定等、切磋琢磨できる仕組みつくりも「できる教員」を育てる土壌となって持続可能な教員育成を担保する一方策であろう。
特に、学級経営・学級運営の件は、私にとって「教師になりたいと思えない」1番の原因だと思っています。
「音楽を教えたい」「音楽を通していろいろなことを教えたい」という気持ちは強くあり、そのような活動は積極的に行っていますが、学校という場を選ぶともれなく学級が「ついてきてしまう」と考えてしまいます。
また大学の授業でも、なかなか学級経営・学級運営については触れられず、教育実習で初体験となりました。
上手く学級で立ち回れず、ちょっとした恐怖心すら持って実習を終えたのを覚えています。
私の立場としては、学級経営・学級運営に対する教育の場をもっと強化していくべきだと感じました。
また、筆者の「人材育成に待ったなし」の項目に記載された内容が1番重要であると感じました。
1つは、大学生である今のうちに教員に着く用意を進めていかなくてはいけないということである。教職に着けばクラスを任される可能性が非常に高い以上かなりの用意が必要だと考える。現段階でも用意出来ることはやるべきだと判断する。
もう1つは、教職を目指す自覚を教職のデメリットも知った上で持つことである。やりがいや、達成感などのメリットだけに目を向けた上で教職に着くようではすぐに挫折、後悔をしてしまうと推測できる。つまり、デメリットを予め知った状態でも教職を目指す自覚・覚悟を持つことで少なくとも挫折、後悔をすることは減っていくであろうと考える。
ブラックと言われる教職に、マイナスな考えを持つのではなく、プラスな考えに転換していくことが教師自身のモチベーションを上げるとは考えていたが、さらに次世代への人材の確保に繋がることがわかった。
教員はやりがいがある仕事だと思うが、やりがいがあるからこそその積み重ねとしての準備がとても大変である事に目を向けていきたい。
4月からの学級運営など即戦力的な力が必要だと感じた。
教職に対する問題点や解決策を早いうちに知ることで、教師になるための準備の質はより高まるのではないかと考える。
今回、この記事を読み、『教師一人一人が仕事の楽しさやよさを話すことができる力量をもつこと、その連続と継続が次世代の人材を確保することになる。』という筆者の意見に賛同しました。私がそうだったように、教師の魅力などを聞き、教師を目指そうと志してくれる人が少しでも増えれば職場の雰囲気も良くなると考えています。私はまだまだ勉強不足で、学級経営や生徒指導など様々なことを学ばなければならないですが、教師となる頃には、それらを理解した上でたくさんの人に“教師の魅力”を伝えられるような人材でありたいと考えています。
そこで、必要なのが力をもった教員を育てる「人財育成」こそ、今の現場の学校・行政・大学で取り組まなければならない喫緊の課題であると考える。
学校現場にいる私は、少数の中間層であるミドルリーダーをまとめ、これまで以上に先の見通しをもち組織的で計画的な人財育成を学校経営の中核にしなければならないと考える。またこの人財育成を成功させることが子供に「生きる力」を付けさす不可欠のものであると考える。
この論文から、「人を育てる教員の質の向上を図ること」がひしひしと伝わってくる。今後とも、微力ながらできることを見つけて実践していきたい。