教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
学級担任が知っておきたい「見通しをもつことに苦手のある子」への支援
鹿児島県曽於市公立小学校田中 繁富
2022/6/30 掲載

1 「生きる力を育てる」ことと「生きていける学級」づくり

見通しをもつことに苦手のある子どもたち


 見通しがもてなかったり、何かができなかったり、簡単なことがわからなかったり、家庭の準備力が不十分で提出物を出せなかったり。
 そうした子どもの背景には、多くの場合、本人の努力や気持ちに関わりがない原因が考えられます。その子どもたちにとって、できないことや失敗したことを自分の努力や精神力、あるいは親のしつけ等で非難されることはつらいことです。たとえ、1つのことができたとしても、できないことがあったときに非難されたり、孤独になったりすることは、大きなプレッシャーになります。そしていつも怯えて過ごさなければなりません。

「生きていける学級」づくりを優先


 弱いものに強くなれといったり、病弱の子どもに健康になれといったり。
 「生き抜く力」を求めることから、教師も子どもたちも解放されてもよいと思います。「弱いものでも生きていける社会」「弱いものが、弱いまま受け入れられる社会」が現代にマッチする考え方だと思います。弱いものに強くなることを求めるよりも、弱いものにとって弱いことが受け入れられる「学級」であってよいかと思います。それは、「頑張れ」「やればできる」という言葉をかけても、「頑張ってもできない子ども」が必ずいるからです。低学年のうちは、学習内容が易しくできることも多いです。しかし、高学年になるにつれて、難しくなり「わからない、できない」子どもが多くなります。できないままの自分を受け入れてくれる「学級」の方が長期的に安定し、個々のパフオーマンスも向上しやすいかと思います。

学級も社会と無縁ではない


 私は、眼が悪いです。
 ちょうちょう結びができません。まっすぐに走ることもできません。
 そんなことも子どもに話します。
 学級経営も社会と無縁ではありません。次の時代にとって、わからない、できないことがあっても受け入れられる社会であってほしいと思います。

2 気持ちを救うことを優先する〜言葉かけを例に 

「マシーンの性能向上」や「動物の調教」ではない                  


 具体的な指導は、子どもによって様々であり多岐に及びます。ある子どもに有効であったことが、別の子どもには、効果がなかったことなどは、多くの先生方が経験されていらっしゃることです。まずは、子どもの気持ちを大切にしたいと思います。
 何かの言葉かけや、指導をして「マシーンの性能向上」や「動物の調教」のようなことをするのではなく、気持ちを育むようにしたいと考えています。それは、何もしない、そのままでよいということではありません。理解ができなかったり、皆と同じことができなかったりする子どもで、そのままでよいと思っている子どもに出会ったことがありません。「みんなと同じようになりたい」「自分だけができないのがつらい」と思っているはずです。そうした思いをもった子どもに、「そのままでよい」「何もしなくてもよい」としてしまえば、成長する道を閉ざしてしまいます。それは学業だけでなく、社会性、経済活動の道をも閉ざします。重要なのは、全体での指導をしながらその子どものペースも考慮するということです。

自分が変わって成長する楽しさを大切に 


 簡単な言葉かけはつぎのようにします。

「わからない」「できない」ことがあっても、だいじょうぶ。
なぜかというと「わからない」ことが、だんだん わかってくるから うれしいのです。「できない」ことが だんだん できるようになるから 楽しいのです。

 他人との比較だけの喜びや楽しさだけでなく、自分が変わって成長する楽しさを大切にしたいです。
 そして、常に大切にしたいのは、孤独にならないようにすることです。孤独は人を傷つけます。自分を最も傷つけるのが、孤独である自分であることもあります。
私は

「わからないこともあるだろうし、できないこともあると思います。でも、先生は一緒にあなたと、学んでいこうと思います」

という言葉かけをしています。

田中 繁富たなか しげとみ

鹿児島県曽於市公立小学校教諭。
1985年〜1987年 全国自閉症児を守る会 京都府支部所属(ボランティアサークル)。
著書に『NGから学ぶ 本気の伝え方』(宮口幸治、田中繁富著、明石書店)。
遺伝子レベルでの教育のあり方を考えてもよいのではないかと考え、空想にふけっている。

コメントの一覧
9件あります。
    • 1
    • ごまちゃん
    • 2022/7/6 21:02:23
    「できないままの自分を受け入れてくれる「学級」の方が長期的に安定し、個々のパフオーマンスも向上しやすいかと思います。」などなど、読んで気持ちが和らぎました。受け入れてくれる学級(学校)だったら、「明日も学校に行くのが楽しみ」になると思います。
    • 2
    • じん
    • 2022/7/8 8:38:59
    幼いわが子らがアメリカの学校でも家庭でもよく順応してきたと親ながら感心しています。親である私が事情で「勉強」を教えようとすると、すぐにつまずきました。知らず公けの「要領」を教えようと子の自然な成長を見過ごす一方、科目の「修得」を自分勝手に急かしたのでしょう。上の考察にその「ずれ」を教わりました。納得できる究明だと思いました。
    • 3
    • 名無しさん
    • 2022/7/8 13:37:35
    できない子どもたちが、「みんなと同じようになりたい」「自分だけができないのがつらい」と思っているはず  まさにその通りだと思います。多様性の前に、我々が忘れてはいけない視点だと思います! 
    • 4
    • 名無しさん
    • 2022/7/9 11:51:19
    「先生は一緒にあなたと、学んでいこうと思います」いい言葉かけですね。子どもたちにより添って歩みたいという気持ちが伝わるだけで、子どもたちは安心できるのではないかと思います!
    • 5
    • みゅう
    • 2022/7/10 19:16:06
    「ケーキの切れない非行少年たち」の宮口さんと本を出してる方なんですね。びっくり。

    なるほどと思いました。
    • 6
    • アリーテ
    • 2022/7/19 23:04:39
    出来ない子どもに何かをさせようとする前に、その子の背景や気持ちに目を向けるそんな眼差しを持った先生の存在は、子どもにとってどんなに心強いことでしょう。「できない」「つらい」「みんなと同じようになりたい」そんな気持ちを分かってくれる大人がいると「一人ではない」と思え、頑張れるのだと。できないとき、孤独では到底生きていけません。まさに、生きる力を育むですよね。
    • 7
    • 名無しさん
    • 2022/7/25 9:15:53
    中学校教員ですが「学力」はあくまで個性の1つであり得意な子もいれば苦手な子もいると認識しています。なのにこれを絶対の価値として例えば「全国学力テスト」の平均点向上のために何回も何回も過去問を解かせるような教育が当然のようにまかり通る現状を憂うばかりです。こんな教育が「生きる力」を育むわけがない。
    一人ひとりに向き合うとはどういうことなのかをより多くの教員にもっと考えてほしい。そういう意味でもとてもよい提言だと感じました。


    • 8
    • 名無しさん
    • 2022/7/27 9:58:53
    もっと詳しく書かれている本を読みたいです。書いてください!
    • 9
    • 名無しさん
    • 2022/8/28 17:21:17
    田中先生の優しさあふれるお人柄が伝わってきました。読んでいるだけで、心があったかくなりました。私は、今小学校の特別支援学級で子どもたちに関わっています。なかなか自分の気持ちや思いを言葉で表現表出するのは難しいのですが、どの子も、『わかりたい』『できるようになりたい』という思いを持っています。子どもたちと一緒に、焦らず、一歩ずつ前に進んで行けるよう、私自身も学び続けていきたいと、改めて考える機会になりました。有難うございました。
コメントの受付は終了しました。