<日本学級経営学会発>学級経営ガイドブック
日本学級経営学会のメンバーによる、読み切り学級経営ガイド。明日の学級づくりに役立つ実践的な内容が満載です。
学級経営ガイドブック(3)
Classroom Portfolioのススメ
「学級の形成状態」を確かめよう
上越教育大学准教授岡田 広示
2019/8/25 掲載

1 はじめに

 日本の学校教育において、学級経営は子どもの居場所であったり、ともに課題を解決することを目的とした学習集団であったりします。学級経営の重要性は理解されながらも教員養成段階において必修科目ではありません。そのため若手の教師は勤務校のベテラン教師の勘と経験によって得た学級経営を見て学ぶことが多くなります。すなわち、大学を卒業し初めて学級を担任する教師は素人のまま学級を運営しているのです。しかし、ベテラン教師の減少や多種多様な要求にこたえなければならない学校現場はOJTの機能を失いつつあり、その時間を確保することが難しくなっています。子どもとともに学級をつくり上げていく過程で、教師の技量も高まり成長していくといえば美しいですが、若い教師でも望ましい学級経営ができることが望ましいのはいうまでもありません。
 学級の高まりを感覚的に感じるだけではなく、しっかりとした根拠のもとに学級の状態を把握して適切な指導ができるようにしていくことで、望ましい子どもと教師の成長の近道になっていきます。

2 「学級の形成状態」を確かめる

 「学級経営状態の評価は難しい」といわれています。学級全体を評価するにはQ-Uテストやアセスなどの学級診断テストが存在しますが、学級の大まかな状態は測れても個々の子どもの変容は明らかにしにくいのです。学級は子どもと教師からなる、とても有機的な空間です。ちょっとした出来事で変わってきます。そこで、量的な評価方法と質的な評価方法といった複数の評価方法を用いて行うことが必要になります。

(1)学級全体をみる評価
 学級経営を評価する方法は、その目的で変わってきます。例えば学級が「まとまっているのか」「荒れの兆候が見えるのか」などの学級全体の形成状態を評価するなら、Q-Uテストやアセスといった学級診断テストなどを活用すればよいでしょう。これらのテストを用いれば「子ども全員が学級生活に満足していて、とても安定している」や「荒れの兆候が見られる。早めの手立てが必要である」といった学級の現状がフォーマットとして表されます。それを参考に今後の指導の方針を決めることができます。

(2)個をみる評価
 子ども一人一人をみる評価方法として、教師の行動観察とエピソード記録があげられます。確かに、学級診断テストは学級全体の現状を客観的にみることができます。しかし、座標の点の後ろには「一人の子ども」がいることを忘れてはいけません。一人の子どもをみていくには教師の鑑識眼、行動観察しかありません。例えば、私は7.5mm×7.5mmの付箋紙をいつも持ち歩き、子どもの「いいな」「素敵だな」と思える行動をメモしていました。それを放課後に、その子の記録のページに貼っていました。観点を決めておくことで記録も取りやすくなるだけではなく、「子どものよさ」に目を向けることができるようになります。悪い点は黙っていても目に入ります。教師の子どもをみる眼を鍛えることにもなります。
 さらに、子どもの自己評価による記録も大変有効な資料になります。教師による外部評価と子どもの内部評価を照らし合わせることで、評価の「ずれ」を小さくすることになります。

3 クラスルームポートフォリオの作成

 クラスの成長をみていくにはポートフォリオ評価が一番です。私は、クラスルームポートフォリオに「学級の日々のできごと」を綴っていました。具体的には次のような方法で綴っていました。

@ トレイくらいの箱を用意する。
A 子どもから「これはクラスの成長だ」と思える出来事が出てきたら、日付を入れて箱に入れる。
B 1か月に1度、時系列に並べてクラス全員で振り返り、ポートフォリオに綴る。
C Bのときに見直しが出たものは綴らない。
D 写真もあれば綴る。

 こうして綴っていったポートフォリオは教室に置いておきます。子どもは見たいときに見ることができ、クラスの成長とともに自分の成長も感じていきます。

【綴っていくもの】
・みんながうれしかったこと、達成感・満足感を感じたこと(感想や写真など)
・みんなで作ったもの
・教師のみとりの中で「育ったな」と思うもの
・「1週間の振り返り」の時間に「学級の振り返り」を入れる
・成長と達成の過程がわかるもの

 「この出来事を入れよう」と子どもから提案が出てきます。それは必ず全員の賛成が得られたときにだけ入れます。賛成が得られなかったことは、クラスの課題として取り組みます。これを繰り返していくと「全員で成長していこう」という意識も高まっていきます。

4 評価は一つの方法に縛られない

 学級の状態を評価するのであれば「何を目的として評価するのか」を明確にしなければなりません。それによって一番適していると思われる評価方法を選択します。しかし一つの学級には多くの子どもが生活しています。一つの方法だけで学級を評価するのではなく、複数の評価方法(量的な評価方法と質的な評価方法の両方があることが望ましい)のバッテリーが有効です。

岡田 広示おかだ こうじ

1973年兵庫県生まれ。上越教育大学教職大学院准教授。元小学校教諭。小学校教諭時代は教育評価を軸に実践を重ねた。2019年4月から現職。小学校教諭時代の経験を基に「いかに子どもを正しくみとるか」「教師自身が自らの成長をどのように捉えるか」について研究を進めている。主な著書・共著書に、『観点別でよく分かる!小学校各教科「評価・評定」のすべて』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 3年』(いずれも明治図書)などがある。

(構成:及川)

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