- 学級経営ガイドブック
- 学級経営
1 はじめに
日々の学級経営において、子どもたちの成長や変化を見つけることは、学級集団づくりの重要な要素です。そういった成長や変化への気付きを、私たちは何を根拠に決定づけ、子どもたちへ働きかけのきっかけにしているのでしょう。
私は、日々の心が動いた場面と感情を一日の終わりに書き留めるようにしています。これを時々読み返すことで、その時に見えた・感じたことをつなげ、取組や関わりを意味づけていくようにしています。本稿では、そういった記録を例に、子どもたちに向ける眼差しと、そこからの気付きについて考えていきます。
2 日々の記録を、一つのトピックでつないでみる
ある年、私の担任する学級では、クラス会議の「ハッピー・サンキュー・ナイス*」と題したコンプリメントの交換アクティビティを朝の会のプログラムに取り入れました。その取組の記録を取り出し、つなげて読み解いていきます。
4月11日
朝、輪になって「ハッピー・サンキュー・ナイス」をすると、半分以上の子が言ってから次の人へつないでいる。Aさん・Bさんのことが2回ずつ出ている。パスが少ないことをフィードバックする。
子どもたちは初めてのものには興味を示して取り組み始めます。しかし、変化や成長、ワクワクが実感できない中での継続は、トーンダウンしていくことがあります。
4月17日
「ハッピー・サンキュー・ナイス」にパスが多く出る。すぐパスするAさん・Cさん・Dさん。Eさん・Fさんが発言してくれる。教師がモデルを示しても発言が続くことが少ない。発言がないことを(担任が)不安に感じている。
取組を始めて数日が経った頃、漠然とした内容や同じ子ばかりの紹介、相次ぐパスに、早くもこの取組の撤退を私は考え始めました。
4月25日
朝のサークルでマンネリを感じていた「ハッピー・サンキュー・ナイス」を始めると、直前にやったGさんの読み聞かせを褒める、BさんがEさんのサッカーでのドリブルを褒める等、直近のエピソードや具体の様子を見て伝えている。
担任が感覚的に撤退を考えていたとしても、子どもたちが着実に積み重ねてきていたものがあり、その表現の質的な変化が起こった時でした。
その後も毎日続けていくことで、子どもたちの日常に浸透していったように感じます。
5月30日
今朝の「ハッピー・サンキュー・ナイス」は発言者が増えた。Bさんがトップで話し、多くの子が昨日・今日の様子を紹介する。パスの子が少なくなった。
お互いの何を捉え、伝えていくことが心地良いのか、子どもたち同士、その姿を見て学んでいるようでした。
6月27日
朝の「ハッピー・サンキュー・ナイス」、多くの子がスルッと言えるようになる。多くは直近の朝の歌やあいさつ。言える日と言えない日があるHさん・Iさん。AさんやBさんに注目している子が多い。
4月の導入から、およそ3ヶ月。日々の様子から、取組の上がり下がりを記録してきました。こうして読んでみると、状態の良し悪しを重ねながら取組が日常になっていく様子がわかります。状態の悪い時も乗り越え、子どもたちが取り組み続けていたことでお互いの成長を支え合う学級の日常になっていったようです。
3 記録をつなげると、何が見えるのか?
日々の出来事を振り返ると、その時の感情や意見が強く作用します。それは私たち教師の主観的な見え方で、よく見えていること(人)やそうでないこと(人)があることは否めません。しかし、その感情や意見も含めたその時の記録だからこそ克明にできるものでもあり、こうして書き出すことで、主観から一歩離れて事象をメタ認知することもできます。その出来事には必ず意味があり、担任として「気になっていた」ものが浮かび上がります。それは日によって学級集団や授業の様子であったり、児童生徒の誰かであったりと様々です。前述の事例は毎日同じトピックについて書いていたわけではありません。しかし、不定期ながらも同じトピックで書き、それを見返すことで、その日その時の事象という点が、線や面になって見えてきます。
では、具体的にどういったことが見えるのでしょうか。
(1)学級集団の変化
これは、上記のように一つの事象に注目して拾い読みすることで、その事象を変化や成長として見てとることができます。これは、記録による当時の生々しい情報の蓄積なので、記録の精密さによってかなりその時の様子が鮮明に残っています。これらの記録を繋げて読むことで、その変化を見とることができます。
(2)登場人物と登場回数
今回の取組の記録では、Aさん・Bさんが度々登場しています。二人は「ハッピー・サンキュー・ナイス」で紹介された人物として4月にも6月にも登場しています。これらの記録から、学級の中で注目されている児童であるということが推測できます。この推測が、担任の普段の感覚から見て、納得できるものであっても意外なものであっても、学級集団の捉えに意味をもつ情報になると考えられます。
(3)人物像
Bさんは、多くの子から紹介される人物であると同時に、他の子のことを的確に紹介できるようです。また、Bさんがトップで話すと次々と発言が繋がることから、Bさんの人物像が見えてきます。
これらは、ほんの一例であり、私のある年のある学級の事象でしかありません。しかし、学級担任がどこに注目して、何を記録していたかを並べ替えて繋げてみることで、学級集団を様々な角度で見つめ、その時に見えなかった変化や成長として捉え直すことができます。
4 おわりに
私たちは学級集団に日々、いろいろな方法で働きかけています。そして、それに対する子どもたちの反応を常に感じとっています。しかし、それは直感に近く、記録がなければ印象として記憶の中に埋れていってしまいます。印象を記録に書き留め、進みゆく日常を時に遡って繋げ、問い直していくことを大切にしてみませんか。
本稿では、教師の日々の記録を基に、その働きかけを様々な視点で見つめ直すことの一例をお示ししました。教師として私たちが学級集団と関わる方法や見つめ方を考える契機になれば幸いです。
*赤坂真二『赤坂版「クラス会議」完全マニュアル 人とつながって生きる子どもを育てる』ほんの森出版、2014年、pp.42-43