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- 学級経営
本書は、小学校5年生のクラスのある日の出来事を描写するところから、はじまります。このクラスには、不登校の子、きれてしまう子、発達障害がある子、攻撃性を発散する子、アームカットしている子などがいます。担任の目にはみんな元気に見えるのですが、見えないいじめがひもとかれていきます。本書は、担任といっしょにこのクラスの子どもたちの感情の発達と相互作用についての理解を深めていく物語の形で構成されています。
いじめや不登校について、Q&Aの形で対応の仕方を学ぶ学び方もありますが、本書では「物語」という形式を用いました。物語として学級の事例を書くことを通して、相互作用を生み出すコンテクスト(文脈)と密着した形でのいじめ問題や不登校その他の問題を描いてみました。それにより、いじめや不登校に関する断片的な知識の集積ではなく、「いじめってこういうことなんだ」「子どもが学校にこれなくなるというのはこういうことなんだ」という体感的な理解をしていただけることを期待しています。体感的な理解はすぐにご自分の教室での子どもたちとの関わりに生かされていくことでしょう。
常識的に私たち大人は、感情をコントロールできない子どもに、「感情をコントロールしなさい」と指導することをもって、感情を育てようとしてきたところがあります。ところが、いまの子どもたちに起こっていることは、「感情をコントロールしなさい」と言われれば言われるほど、逆にコントロールできない状態におちいってしまっているということです。
本書の第2章では、この理由を解説しました。第2章は、私が講演会などでお話していることをそのままのせてみましたので、読みやすいものになっていると思います。
そのような常識的な発想が、逆に子どもたちの感情の育ちの妨げになっています。感情をうけとめることとしつけることは矛盾するものではありません。不快感情をしっかりと受けとめるプロセスがなければ、しつけ(規範の枠組み)は内在化されません。本書を読んでいただけると、その理由をご理解いただけることと思います。恐怖を与えて従順にさせるしつけは、他律的な子どもを育て、叱られなければ何もできない子どもを育てるだけなのです。
自分の身体からわきあがってくる不快感情を適切に処理する力が育っていない子どもは、不快感情をいじめという形で発散して処理しようとします。子どもの感情を育てるということは、不快感情を適切に処理できる力を育てるということです。子どもの感情を育てるという視点は、子どもたちのいじめ問題を根本的なレベルで考えていく視点になります。そして、子どもの感情を育てる支援をしていく上での教師の役割はきわめて大きいと言えるでしょう。
本書をお読みいただくことで、子どもたちの心を育てることはたくさんある、そしてできるんだという元気を得ていただけたらうれしく思います。