- 著者インタビュー
- 学級経営
学校における教育の営みは、日々が真剣勝負です。構えもせずにのんびりやっていると、とんでもない目に遭うことがあります。きちんと構え、どう対応するかをある程度あらかじめ考えておく必要があるのです。しかし、とっさの対応であっても、常に根本にきちんとした考えがあれば、ピンチをチャンスに変えることができます。どのスポーツにおいても「カウンター」の威力は絶大であるのと同じです。
「切り返し」の技術とは、受け身の技術ではありません。むしろ、攻めです。本書のタイトルにある「切り返し」は、「防御にして攻撃」という意味合いを込めています。あらゆる場面を想定してあらかじめ対応策を立てておき、即時に対応できるようにするものです。医療にたとえるなら、病気を治す「治療医学」ではなく、病気にならないための「予防医学」です。
本書の中では「学級づくり」「子どもへの個別トラブル対応」「授業づくり」「行事指導」「保護者・同僚」という、教師の仕事をする上で特に重要だと思われる5つの場合について、それぞれの切り返しの仕方を提案しています。知っていることで、あらゆる場面で安心して前に進むことができるのが「切り返し」の技術なのです。
何においても「絶対にこれが正しい」と思い込みすぎないことです。自分と相手の状況に応じて選択肢は無数にあるからです。
一方で、「これは大失敗する」ということは、大抵の場合において当てはまります。成功事例に比べ、失敗事例ははるかに汎用性が高いといえます。そして、失敗は知っていれば防げます。わざわざ大失敗を体験しなくてもいいのです。だから、本書のすべての項目にある「失敗事例」を多く知っておくことは、若手の先生にとって大変有益になることを確信しています。
もう、数が多すぎて選べませんね(笑)。
ただ、今でも強く心に残っているのは、暴力行為のすごい男の子との日々です。特に機嫌が悪いときだと、目が合っただけで周りの子どもと殴り合いのケンカを始めることもあり、かなり手こずりました。毎日トラブルとピンチの連続でした。
しかし、私にとっては、ある意味チャンスの連続だったとも言えます。その都度、かなり厳しく叱りましたが、必ず最後に付け加えたのが「でも、信じている」の一言です。この言葉は、荒んでいた彼の心によく心に沁みこんだようです。徐々に心が穏やかになり、いつしか、掃除を誰より真面目にやる子どもに変身していました。冷や汗もかきましたが、温かい気持ちにもなれる思い出深い出来事です。
保護者対応というのは、切り返しの中でも特に難しいものの一つです。特に、若い先生方は、その若さがマイナスに受け取られることもしばしばです。若いがゆえに、保護者からすれば要求もしやすいようです。
とはいえ、基本的には、「わかりました。一緒に協力していきましょう。」というスタンスをとるのが定石です。「わかりました。」でまずは相手の気持ちを受け止め、さらに、「一緒に」と加えることが重要です。子どもを成長させたいという思いは教師も保護者も同じです。だからこそ、要求に何でも一人で応えようとしないことが大切です。
根底には、「担任と保護者は、同じ願いを持った仲間である」という認識があります。こういった根拠に基づいた切り返しをすることが大切です。
最近の若い先生方は、本当に熱心だと思います。私の勤務している小学校のある千葉大学の学生を見ても、本当に子どもが大好きで、「いい先生になろう」「先生になったらすばらしい学級をつくろう」という意欲にあふれています。
教育実習を見ると、意欲が空回りしていることもあります。でも、それでいいのです。失敗は高みにある成功への1ステップです。熱心な先生を、子どもたちは温かい目で見ています。
しかし、ただ熱心なだけでは、ピンチに陥りそうになってしまうこともあります。そのときに対応の術を知っているかどうかは、今後の教員人生を大きく左右することになろうかと思います。
せっかく教師になったのだから、子どもたちと最高のクラスをつくりたい。全国のそういう志のある先生に「切り返し」の力が加われば、より楽しい教師生活が実現でき、それが結果的に日本中の子どもたちを幸せにすると思うのです。本書が、志ある若い先生方の、そして子どもたちのすばらしい未来につながる一助になれば幸いです。