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- 著者インタビュー
- 教師力・仕事術
私が教師になった四半世紀前は、まだ携帯電話はなく、教育現場にようやくワードプロセッサが使われ始めたころです。パソコンなどは、ごく限られた教師が研究を試みていた頃です。当時は、生活科が導入されるなど、教育改革が叫ばれてはいましたが、基本は、それまでと同じ方法で仕事をしていれば、まず大丈夫でした。ベテランの先生もたくさんいて、若い教師は、色々教えてもらうこともできました。気持ち的にも時間的にも、ゆとりを持って仕事に取り組むことができていたように思います。
現在は、様々な情報を瞬時に手に入れることができるようになりました。その便利さが、逆に多忙を生み出していると言われています。学校現場も例外ではないことを、管理職になって、身をもって感じています。文部科学省や教育委員会に提出する文章やアンケートなどが、毎日のように電子メールでやってきます。
また、世間や保護者が、学校・教師を見る目が変化しています。学校に求めることが多様かつ多量になっていることも、多忙の原因です。管理職をしていると、様々な保護者に対応しなければなりませんが、対応に多くの時間を費やさなくてはならない案件が、年を追って増えています。
教師には、義務教育特別手当が保証されていて、定刻に退勤しても、何時間も残って仕事をしても、金銭面の損得は生じません。ですから、教師には「残業」という概念がありません。それは、仕事をする時間に上限が無いことを意味します。教師になるような人は、真面目で誠実な人が多いので、「子どものために」と思えば、労力を費やすことを惜しみません。やる気があって誠実な教師ほど、「あれもやりたい。これもやっておきたい」と、どんどん仕事を抱え込む傾向があります。
しかし、どんな人にも限界があります。あまりにも無計画に仕事を抱え込んでいくと、本当に「重要で必要な仕事」が何なのか、分からなくなってしまいます。教師という仕事の本筋を見失ってしまったり、軽重を見誤って大失敗したりする危険があります。また、抱え込んだ仕事が自分のキャパシティーを超えると、心身を患ってしまうこともあります。
仕事は、人生を充実させるうえで、とても大切なものです。「仕事は人生充実のツールとして活用する」ということを忘れてはいけないと思います。仕事に自身の人生を利用されてはいけないのです。不要なものは、思い切って捨ててしまわなければ、本当に必要な仕事も分からないし、仕事をする意義も感じられなくなってしまうと思います。そのことを、リーダーである管理職が身をもって示す必要があると思っています。
捨てることが、もっとも簡単で、もっとも難しいものがあります。分かりますか?
それは、「プライド」です。この場合のプライドとは、本当に自分が守るべきプライドではなく、年齢や肩書、見栄などからくる「虚栄心」とでも言えばいいのでしょうか。とにかく「おかしなプライド」です。
教頭職になったころ、子どもと接する機会が少なくなり、施設管理や文章管理と言えば恰好いいのですが、庶務・雑務的な仕事に関わるようになり、「なぜ、オレが、こんな仕事を!?」と、不満を抱いていました。教頭の仕事は何から何まで初めてで、何が分からないのかさえ分からない状態であるにも関わらず、「オレは、30年近くも教師をしてきたプロだぞ」というおかしなプライドが、仕事の質と効率を落としていた時期がありました。へんなプライドがあると、分からないのに、「分からないことは恥ずかしいこと」と、分かったふりを装う。教えてほしいのに、「教えてください」と、人に頼むことができなくなる。実に非効率的だと思いませんか?
本当の意味でのプライドです。子どもを教える者として恥じない行動をする、人として誠実に行動する、自身の責任から逃れない……。お天道様に恥じない自分でいたいと思います。そのためのプライドは、絶対に捨てたくありません。
現在の先生方は、実質的に多忙である以上に、相当な「多忙感」を抱いています。管理職ができることは、先生方の多忙感を少しでも取り除いてあげることだと思います。たとえば、同じ仕事をしていても、「がんばってるね。でも無理しないでね」と思ってくれる管理職の下で働くのと、「もっとうまくできないの? 能力を上げなさい」としか思ってくれない管理職の下で働くのとでは、負担が随分異なります。
「好きこそものの上手なれ」と言われるように、楽しい職場、やり甲斐ある職場の中でこそ、効率的で質の高い仕事ができます。その環境を整えてあげるのが、管理職の役割ではないでしょうか。全国のスクールリーダーのみなさん、「学校はブラック」と言われないように、共にがんばりましょう!