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パフォーマンス評価とは、知識やスキルを使いこなすことを求めるような評価方法の総称です。具体的には、筆記テストにおける自由記述問題や、実技テスト、日常的な観察など様々な方法が含まれますが、第1弾・第2弾では、中でも複雑な課題であるパフォーマンス課題を扱ってきました。
一方、本書では、パフォーマンス課題に取り組む際に必要となるような概念やプロセスに焦点を合わせたいと考えました。前半では、学力テストを読み解く理論的枠組みを整理しています。後半では、国語、社会、算数・数学、理科、英語の各教科について、学力テストを手掛かりに、保障すべき学力像を検討しています。
学力テストや学力調査の結果については、ややもすると、点数の高低のみが注目されがちです。しかしながら、学力テストや学力調査を検討する際には、学力水準だけでなく、調査やテストを設計する際にどのような構造で学力が捉えられているのか(学力構造)、子どもたちの学力の分布はどうか(学力格差)、子どもたちの意欲はどうか(学力意欲)という4つの視角*1を意識することが有効です。一言で学力テスト・学力調査といっても、その意図や特徴は様々です。それぞれの意図や特徴―裏を返せばその限界―を認識しておくことが重要だと思います。
今や、「テストのため、入試のために勉強しなさい」という言葉が届くのは、一定の層の子どもたちに限られています。学習することそのものに意義が感じられるような学びの機会を学校で提供していくことが重要だと感じています。
パフォーマンス評価の背景には、「真正の評価」論があります。これは、現実世界において人が知識や能力を試される状況を模写したりシュミレーションしたりしつつ評価することを主張するものです。「本質的な問い」に対応するリアルな課題を提供することは、学ぶことそのものに楽しさややりがいを感じるような授業づくりに役立つと考えています。
大規模な学力テストを実施すれば、そこに順位づけが生じ、テスト対策の授業が広がってしまう懸念があります。狭い意味でのテスト対策の授業をすれば、授業で行われるのはドリルだけ、という事態も生じかねません。
しかしながら、現在、実施されているテスト問題を仔細に見ると、単なる知識の暗記・再生にとどまらない学力像が提示されていることがわかります。学力テストを手掛かりに、どういう概念を理解し、プロセスを使いこなせるようになることが重要なのかを明確にし、パフォーマンス課題と組み合わせて単元に位置づけることが重要だと考えています。
パフォーマンス評価に取り組み始めた先生方からは、「子どもたちの学習への構えが変わった」、「これまで授業で寝てばかりだった生徒が、起きて学習に取り組むようになった」、「想像もしていなかったような力を、子どもたちが発揮してくれた」といった声を聞きます。
子どもたちに、生きてはたらく「確かな学力」を保障するためには、保障すべき学力像に対応する評価方法を明確にし、子どもも教師もゴールのイメージを共有しながら学習と指導に取り組んでいくことが、一つの有効なアプローチとなります。本書が、先生方にとって楽しくやりがいのある授業づくりの一助となることを願っています。
*1
田中耕治『教育評価』岩波書店、2008年参照。
*2
中村高康『大衆化とメリトクラシー』東京大学出版会、2011年参照。