著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
学力テストを手掛かりに、授業改善を目指す
京都大学大学院教育学研究科教授西岡 加名恵
2021/3/26 掲載
 今回は西岡加名恵先生に、新刊『学力テスト改革を読み解く! 「確かな学力」を保障するパフォーマンス評価』について伺いました。

西岡 加名恵にしおか かなえ

京都大学大学院教育学研究科教授。バーミンガム大学にてPh.D.(Ed.)を取得。鳴門教育大学講師を経て、現職。専門は教育方法学(カリキュラム論、教育評価論)。日本教育方法学会常任理事、日本カリキュラム学会理事、文部科学省「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」委員など。
『「逆向き設計」で確かな学力を保障する』(単著、明治図書、2008年)、 『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価』(編著、明治図書、2016年)、『Q&Aでよくわかる!「見方・考え方」を育てるパフォーマンス評価』 (編著、明治図書、2018年)など、著書・編著書多数。

―質問1 本書は大好評をいただいております『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価』『Q&Aでよくわかる!「見方・考え方」を育てるパフォーマンス評価』に続くシリーズ第3弾として、学力テスト改革を読み解き、確かな学力を保障する手だてについてご紹介いただいています。本書の読み方・おすすめポイントを教えて下さい。

 パフォーマンス評価とは、知識やスキルを使いこなすことを求めるような評価方法の総称です。具体的には、筆記テストにおける自由記述問題や、実技テスト、日常的な観察など様々な方法が含まれますが、第1弾・第2弾では、中でも複雑な課題であるパフォーマンス課題を扱ってきました。
 一方、本書では、パフォーマンス課題に取り組む際に必要となるような概念やプロセスに焦点を合わせたいと考えました。前半では、学力テストを読み解く理論的枠組みを整理しています。後半では、国語、社会、算数・数学、理科、英語の各教科について、学力テストを手掛かりに、保障すべき学力像を検討しています。
 

―質問2 本書の第1章では、「学力テストとどう向き合うか」として、日本における学力向上政策や学力テストの展開と評価リテラシーの重要性から高大接続改革、学力調査の特徴から結果の読み方、そこからの授業づくりの基本的な考え方について解説いただいています。まず、学力調査を正しく捉えるには、どのようなことが大切でしょうか。

 学力テストや学力調査の結果については、ややもすると、点数の高低のみが注目されがちです。しかしながら、学力テストや学力調査を検討する際には、学力水準だけでなく、調査やテストを設計する際にどのような構造で学力が捉えられているのか(学力構造)、子どもたちの学力の分布はどうか(学力格差)、子どもたちの意欲はどうか(学力意欲)という4つの視角*1を意識することが有効です。一言で学力テスト・学力調査といっても、その意図や特徴は様々です。それぞれの意図や特徴―裏を返せばその限界―を認識しておくことが重要だと思います。

―質問3 一連の高大接続改革が推進された背景には、いわゆる「大学全入時代」に突入したという状況がありますが、近年では「エリート選抜」と「マス選抜」の二重構造*2も指摘される中、学力水準を確保し、学習の意義を実感させるには、どのような取り組みが大切でしょうか

 今や、「テストのため、入試のために勉強しなさい」という言葉が届くのは、一定の層の子どもたちに限られています。学習することそのものに意義が感じられるような学びの機会を学校で提供していくことが重要だと感じています。
 パフォーマンス評価の背景には、「真正の評価」論があります。これは、現実世界において人が知識や能力を試される状況を模写したりシュミレーションしたりしつつ評価することを主張するものです。「本質的な問い」に対応するリアルな課題を提供することは、学ぶことそのものに楽しさややりがいを感じるような授業づくりに役立つと考えています。

―質問4 第2章では、5つの教科で実施されているPISA、TIMSS、全国学力・学習状況調査、大学入学共通テストなどの学力テストを分析し、授業改善の在り方をご提案いただいています。学力テストに過度に振り回されず、うまく活用して実践に活かすためには、どのようなことをおさえておくことが必要(大切)でしょうか。

 大規模な学力テストを実施すれば、そこに順位づけが生じ、テスト対策の授業が広がってしまう懸念があります。狭い意味でのテスト対策の授業をすれば、授業で行われるのはドリルだけ、という事態も生じかねません。
 しかしながら、現在、実施されているテスト問題を仔細に見ると、単なる知識の暗記・再生にとどまらない学力像が提示されていることがわかります。学力テストを手掛かりに、どういう概念を理解し、プロセスを使いこなせるようになることが重要なのかを明確にし、パフォーマンス課題と組み合わせて単元に位置づけることが重要だと考えています。

―質問5 最後に読者の先生方へ、メッセージをお願い致します。

 パフォーマンス評価に取り組み始めた先生方からは、「子どもたちの学習への構えが変わった」、「これまで授業で寝てばかりだった生徒が、起きて学習に取り組むようになった」、「想像もしていなかったような力を、子どもたちが発揮してくれた」といった声を聞きます。
 子どもたちに、生きてはたらく「確かな学力」を保障するためには、保障すべき学力像に対応する評価方法を明確にし、子どもも教師もゴールのイメージを共有しながら学習と指導に取り組んでいくことが、一つの有効なアプローチとなります。本書が、先生方にとって楽しくやりがいのある授業づくりの一助となることを願っています。

*1
田中耕治『教育評価』岩波書店、2008年参照。
*2
中村高康『大衆化とメリトクラシー』東京大学出版会、2011年参照。

(構成:及川)

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