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歴史と芸術が同時に味わえる! 「まぼろしの薩摩切子」展
kyoikujin
2009/5/1 掲載

 3月28日から六本木のサントリー美術館で開催されている「一瞬のきらめき まぼろしの薩摩切子」展。
 薩摩切子といえば、昨年の大河ドラマ「篤姫」に登場したことで随分認知度が上がった。その名のとおり「薩摩で生まれたガラス細工」というのは分かるが、いったいどんな特徴があるのか。この機会にご紹介しよう。

■ルーツはなんと薬瓶!

 第27代薩摩藩主、島津斉興によって薩摩切子の歴史は始まるが、当初は、斉興が創設した製薬館・医薬館における薬品の保存や精錬等に耐えうる容器として製造されるようになった。今回の展示の中にも斉興が収集したという板ガラスがあり、早くからガラスに目をつけていたことが分かる。また、薬事業の中で使われたであろうガラス器具なども展示されている。
 その後第28代藩主斉彬の時代に、当初の実用的なものから芸術品としての薩摩切子へと発展する。展示会に出品されている将軍家・大名家の所蔵品の中でも、篤姫所用の「雛道具」は必見! 雛道具とだけあって、小さいものは指先ほどのサイズなのだが、グラスからお重に至るまでどれも非常に精巧。小さいけれど、カットの柄は大きなものに引けをとらない。さすが篤姫だけあって、雛道具の数もまた圧巻だ。

■薩摩切子と江戸切子、違いは製造場所だけ?

 斉興は、江戸から職人を呼び寄せて本格的なガラス製造を始めた。ということは、薩摩切子と江戸切子の違いって単に作っている場所が違うだけ? いえいえ、薩摩切子ならではの技法があるのだ。その名は「色被(いろき)せガラス」。これは、無色の透明ガラスの上に色つきガラスを被せ、ガラスでグラデーションの美しさを出すもの。この「ぼかし」という技法は、明治期以降には江戸切子にも取り入れられる。
 鹿児島県にある薩摩ガラス工芸では、復元した「色被せ」技法の工程が無料で見学できるそうだ。

■なぜ伝統工芸品になれないの?

 江戸切子は伝統工芸品として認定されているのに、薩摩切子は残念ながら伝統工芸品ではない。なぜだろう?
 そもそも国の伝統工芸品として認定されるためには、

1 主として日常生活で使われるもの
2 製造過程の主要部分が手作り
3 伝統的技術または技法によって製造
4 伝統的に使用されてきた原材料
5 一定の地域で産地を形成

というのが必要な条件。しかし薩摩切子の場合、3や4にある「伝統的」という部分でひっかかってしまうのだ。
 薩摩切子は、繁栄に導いた斉彬が亡くなり、薩英戦争によってガラス工場が破壊されると、その後いっきに途絶えてしまう。「伝統的」とは「100年以上の継続」を意味するため、たとえ現在復刻されていても、国の伝統工芸品として認定されないのだ。

 見ているだけで涼しめる上に、その歴史に技法にと、背景もなかなか味わい深い薩摩切子。ゴールデンウィークに出かけてみてはいかが。
 「まぼろしの薩摩切子」は5月17日まで開催。その後、6月からは神戸市立博物館に巡回する。

この記事は、『きょういくじん会議』の記事を移転して掲載しているため、文中に『きょういくじん会議』への掲載を前提とした表現が含まれている場合があります。あらかじめご了承ください。
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