GIGAスクール構想で変える!1人1台端末の授業づくり
1人1台端末導入で、授業が確実に変わります。そして、仕事術も確実に変わります。具体的な実践のヒント・授業のノウハウを伝授!
1人1台端末の授業づくり(17)
タブレット端末時代の課題づくりC
香里ヌヴェール学院小学校樋口 万太郎
2022/10/10 掲載
  • 1人1台端末の授業づくり
  • 授業全般

 この夏も全国各地で講師に呼んでいただきました。ありがとうございます。今年度は昨年度とは違い、「タブレット端末の使い方」のテーマが大幅に減り、「問い」や「深い学び」がテーマになることが多くなりました。つまり、そういうことです。タブレット端末の使い方に慣れ、次の段階へと入ったのです。

1 タブレット端末の実践をしやすい単元? 2年生「三角形と四角形」

 昨年度、研究授業の講師として呼んでいただくことも多くありました。2年生で参観する算数科研究授業のときは、「三角形と四角形」がほとんどでした。
【2年算数】【タブレット端末】【研究授業】というとこの単元を選択される方がとても多いように感じます。おそらく、タブレット端末の実践をしやすい、他者にみせやすいと思うのでしょう。実際に1ヶ月で3、4本の研究授業を参観しました。
 単元「三角形と四角形」でも、

  • 導入場面(直線で囲む活動)
  • 三角形と四角形に1本直線を書くと、どのような形にわかれるのか

のどちらかの授業に分かれました。
 今回は、「三角形と四角形に1本直線を書くと、どのような形にわかれるのか」の授業について進めていきます。

2 本時のねらい

 この授業のねらいは、

  • 四角形、三角形を分割し、三角形や四角形を作る。
  • 2つの三角形・三角形と四角形・2つの四角形が作れるときのきまりに気づく。

です。
 この授業は、

 三角形や四角形に直線を1本ひいて、2つの形にわけよう

という課題を提示し、以下のような三角形をまず考え、その後四角形の場合について考えていくという展開が一般的です。

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 子どもたちはこういった活動が大好きです。実際に授業を参観しているとき、子どもたちはとてもアクティブでした。その様子をみて、こちらも笑顔になりました。
 これまでは上記の三角形や四角形を紙のワークシートで配布し、取り組んでいましたが、タブレット端末が導入されて以来、タブレット端末上でデータを送信し、子どもたちもタブレット端末上で行うという展開を多くみかけるようになってきました。
 参観した授業の授業後の板書を3つ再現してみました。結論からいえば、子どもたちはとてもアクティブでした。子どもたちも動き出していました。そういった意味では、課題2.0のようにみえます。しかし、学びが深まったかといえば、「うーん?」と思える内容でした。いくら子どもたちが動き出していようが、学びが深まっていなければ課題1.0と言わざるをえません。

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 この板書の授業では、大型モニター上で子どもたちがどのようにできたかを発表していきました。図形に直線が引かれたものが発表されていきました。そして、どのようなかたちにわかれたのかを黒板に先生が書いていきました。ただ、子どもたちの表現物を発表して、終わった授業でした。

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 この板書の授業では、全体で発表をするときには、紙を使って、発表をしていきました。
子どもたちが紙にかき、何と何の図形にわかれるということを言い、黒板に貼っていきます。そして、先生は整理をして貼っていきました。黒板が、そういった発表した子どもたちの表現物で溢れている授業でした。ただ、子どもたちの表現物を発表して、終わった授業でした。

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 この板書の授業では、大型モニター上で子どもたちがどのようにできたかを発表していきました。ただ、子どもたちの表現物を発表して、終わった授業でした。
この3つの板書の授業の協議会で話をさせてもらったことは、共通していましたか。さぁ、それはなんでしょうか。
黒板上に何も書いていないから、ダメと言いたいわけではありません。黒板に何も書いていなくても、子どもたちの学びが深まっていれば、何も問題はありません。余談になりますが、

黒板をしっかりかけている=良い授業

という考えからは脱却しないといけません。板書をかいている、かいていないことよりも大切なことがあります。
 思い出してみてください。この授業のねらいは、

  • 四角形、三角形を分割し、三角形や四角形を作る。
  • 2つの三角形・三角形と四角形・2つの四角形が作れるときのきまりに気づく。

です。
 2つ目のねらいの話題になることなく、構成要素についても触れられることなく、子どもたちが作った形の発表会で終わっている
ことがこの3つの板書の授業では共通しており、私が協議会で共通で話をしたことです。
 また、この授業のままでは、

デジタルでなくても、紙で取り組んだ方がいいのではないか

という話もしたのです。
 このような話をすることを意外に思われる方もいるかもしれません。タブレット端末の本を出している私です。どちらかといえば、どんどんデジタルでしていこうよという立場の人です。これまで、デジタルでしていこうよと言ってきたものの、心の中では、正直アナログでもいいよな…と思っているときもありました。そんなときに出会ったのが、SAMRモデルでした。このモデルに会い、自分のモヤモヤがすっきりしたのです。

3 SAMRモデル

 三井ほか(2020)はSAMRモデルを使い、ICT活用事例の分類・整理を試みました。

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 先程の3つの授業では、
これまで紙で行ってきたことをタブレット端末上に【代替】しただけのものです。これでは

【代替】の段階ではデジタルではなく紙で取り組んでもいいんじゃないのか

という論争になってしまいます。
 発表の場も紙で発表したものをデジタルを使っての発表へと【代替】しているということになります。
 こういった論争をなくすには、【拡大】【変形】といった段階へといかないといけません。
 この授業においても、これまで紙で行ってきたことを【代替】ではなく「拡大」を、
発表の場が【代替】ではなく「拡大」といった授業については次回の連載で紹介します。
タブレット端末は◯◯の【代替】といった実践事例はもうお腹がいっぱいです。

4 そもそもの問題

 なぜどの授業も、2つ目のねらいの話題になることなく、構成要素についても触れられることなく、子どもたちが作った形の発表会で終わってしまったのでしょうか。
 1つは、

子どもたちの発表したい!ということを優先した

ということが考えられます。授業者としては、子どもたちの発表したい!という様子をみると嬉しくなるものです。子どもたちから「あてて!」「もっとあるよ!」「言いたい!」といった声が聞こえたり、子どもたちが前に出てきて話をしたりするといったアクティブな姿がたくさんありました。
 もう1つ考えられることは、

そもそも2つ目のねらいを意識していなかった

ということです。これはタブレット端末がある・なし関係なしのことです。教科書をただただこなしていく先生にとっては、このようなことを意識しないといけません。
 課題の話であろうが、タブレット端末であろうが、結局は授業としてのねらいをしっかり持っておかないといけません。

 ということで、今回はここまで。次回は2年生「三角形と四角形」の私の実践を紹介します。

【参考・引用文献】
・三井一希、戸田真志、松葉龍一、鈴木克明(2020)『小学校におけるタブレット端末を活用した授業実践のSAMRモデルを用いた分析』教育システム情報学会誌 37(4):348 – 353

樋口 万太郎ひぐち まんたろう

1983年大阪府生まれ。大阪府公立小学校、大阪教育大学附属池田小学校を経て、2016年より京都教育大学附属桃山小学校教諭。「子どもが楽しむ・教師も楽しむ」「子どもに力がつくならなんでもいい!」をモットーに日々の算数授業を行っている。著書に、『子どもたちの学びが深まるシン課題づくり』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の算数授業づくり』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の授業づくり』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の授業づくり2』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の国語授業づくり 物語文編』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の国語授業づくり 説明文編』『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の学級づくり』(明治図書出版)などがある。

(構成:及川)

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