教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
GW明けは注意!教師のメンタルヘルスの実例と対策
東京都教職員互助会三楽病院精神神経科部長真金 薫子
2019/5/15 掲載

 連休明けから1週間が経ち仕事の忙しさに追われる中、すでに休みの日々は記憶の彼方…、という人も多いのではないでしょうか。それとも、休み明け後もまだ仕事の感覚が戻ってこない、という人もいるかも知れません。
 多くの学校で運動会に向けた調整が始まるこの時期はまた、いわゆる「五月病」に陥りやすいタイミングでもあります。ここでは、比較的若手が見舞われやすいメンタル不調発症の状況を通して、ご自身の不調予防や悪化防止、同僚への支援などに役立てていただければと思います。

● 初めての異動

 A先生は、教員5年目。大学を卒業してすぐに勤め始めた初任校では、年々キャリアを順調に積み重ね、中堅として活躍するまでに成長していました。
 2校目に着任した現校では、当初から勝手の違うことばかりでしたが、初任校で先輩方の行き届いた配慮の下スムーズに職場に溶け込んだA先生には、そのことがよく理解できませんでした。初任校でのやり方や地域性がどの学校にも共通のものではないことに、気づいていなかったのです。何かかみ合わない思いを抱きつつも、以前同様のやり方を続けたA先生は、連休明けのある出来事ではっきり、自分が生徒から受け入れられていないこと、所属学年の同僚からも浮いていることを思い知りました。まだ1年が始まったばかりの大事な時期の大きなつまずきに、A先生は途方に暮れるばかりでした。

 異動は、どの年代にもストレスになりうる出来事ですが、特に初めての異動では、異動に伴うリスクが実感としてわからず、「気づいた時には困った状況に陥っていた」ことになりがちです。学校の仕事はどこでも同じ内容をやっているようでいて、学校が変わればやり方が変わります。通常の異動は「半分転職」、異校種異動ならば「全くの転職」くらいに思った方が、良いかもしれません。同僚としては、異動してきた人は「分からないことが分かっていない可能性」があることを念頭に、少し丁寧に目配りをし、十分なコミュニケーションをとった方が良いと思われます。管理職は、異動1年目の教員に重責を担わせないよう留意し、新しい職場で孤立化せず早く溶け込めるよう、率先して声かけをしましょう。

● 産休明け

 B先生は、第1子に引き続いて第2子を出産。育休が明け、約4年ぶりに職場復帰しました。もともと仕事熱心なB先生は、独身時代も同業者の夫と結婚してからも、仕事に打ち込む姿勢は変わりませんでした。幸い夫の理解もあり、家事はその時できる人がやる方式で、二人とも忙しいときは思い切って手を抜いても、何も困りませんでした。
 しかし、今回の復帰後は、違いました。
 家事育児でやるべきことは以前と比較にならないくらい、山ほどありました。子どもが病気になった時の対応など、復職前には具体的にイメージできなかった様々な問題も起こりました。育児時短をとっていたB先生は、学校にいる間は寸暇を惜しんで仕事をこなしましたが、それでも仕事を終えられずに帰る日々が続きました。保育園に預けた子どもが熱を出すと、すぐに早退しなければなりません。復職後、納得のいく仕事ができなくなったB先生は、だんだん自信を失いました。人より早く帰るB先生には、同僚と話す時間もほとんどなく、必要な情報が得られないこともしばしばあり、孤立感を深めていきました。連休になったら少しでも学校に行ってたまった仕事をするつもりでしたが、実際休みになると、どうしても学校に足が向かなくなっていました。休み明けが近づくと、またあの日々が始まる、と強い不安に襲われました。そして、休みが明けてもB先生は、学校に行けないままでした。

 この例は女性ですが、男性の場合もあります。いずれも、本人もしくは配偶者が育休から復帰した年が、ハイリスクです。また、類似のケースとして、急に始まった親の介護などがきっかけとなる場合もあります。本人や家族の対策としては、起こりうる様々な事態を想定して家族でよく話し合い、対処法を準備しておくこと公私とも十分にこなせなくてもある程度は割り切ることです。また、同僚の立場では、時短等であまり職場にいられない当事者に対して、「私的事情で職場に迷惑をかけている」と反感を持たず必要な情報をきちんと伝えること、打ち合わせの時間効率を上げるなど業務の効率化を工夫することが望まれます。また、管理職の立場では、当の教員に対して過重とならない配置をするとともに、その影響を受ける周囲の教員に対しても、負荷への配慮が必要です。もし、管理職の判断による業務の思い切った効率化が図れれば、育児や介護を抱えた教員のみならず、学校全体の働き方改革の面からも大変有意義なことでしょう。

 この他にも、指導困難な学級担任を持ち上がった5月や、4月当初の学級の掌握がうまくいかなかった場合など、この頃に不調に陥りやすいパターンはいくつかあります。そして、児童生徒の指導上の悩みに加えて職場の人間関係が希薄もしくは不良な場合、職場に加えてプライベートの面でも何らかの悩みや負担がある場合など、複合するストレスがあるとメンタル不調が悪化しやすいといえます。この時期、いくつもストレスを抱えた人は周囲にSOSを発信する、そうした同僚がいる場合は進んで声かけをするなど、気づいたら一歩踏み出し、さらなる悪化を食い止めて欲しいと願っています。

真金 薫子まがね かおるこ

東京医科歯科大学医学部卒業。大学病院、民間精神科病院等での勤務を経て、平成10年より東京都教職員互助会三楽病院精神神経科勤務。平成19年より同部長。平成23年〜24年、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会議」委員。平成28年より東京都教職員総合健康センター・センター長。東京医科歯科大学臨床教授。
〈主な著書等〉
・『月曜日がつらい先生たちへ』(時事通信社)
・『教員のためのメンタルヘルスDVD1〜3』(監修、日本経済新聞社)など。

コメントの受付は終了しました。