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「大好きだった果物が食べられなくなった…。」
ある日突然、食事中に口が腫れてかゆみが出てきたらどうされますか?学童期以降に食物アレルギーを発症する子どもが増加傾向にあります。学校の給食の時間に初めて症状を訴えることもあるようです。
食物アレルギーは、食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が起こる現象と定義されています。食中毒も食べ物に対して不利益な症状を起こしますが、微生物や毒素が原因で免疫の作用ではないので食物アレルギーではありません。また、原因となる食物を直接口にするだけでなく、手に触れたり、鼻から吸入したりすることでも症状を誘発することもあります。さらに激しい運動や、ストレス、体力低下などの体調不良がきっかけで症状がもたらされることも少なくありません。
事例
小学校4年生女子。数年前から瞼が時々腫れることがあり、眼科でアレルギー結膜炎という診断されていました。ある日、給食を食べて昼休みに校庭で遊んだ後、30分くらいして瞼が腫れ、顔から全身に蕁麻疹が起きました。すぐに近くの皮膚科に行って手当を受けました。その半年後、給食を食べて昼休みに鬼ごっこをしていたところ、喉の痛みと顔の腫れ、全身の発赤と呼吸困難、意識レベルの低下が起こり、近くの小児科で処置がなされました。さらに1ヶ月後、同様の症状が起きて小児科を再受診となりました。小児科の先生から専門病院で診てもらうことを勧められて詳しい検査をした結果、食物アレルギーの特殊型である食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)と診断されました。原因は給食に出された果物だったのです。
FDEIAは特定の食物摂取後の運動負荷によってアナフィラキシー症状(全身の複数の臓器にアレルギーが起こる)が誘発される疾患です。発症のピークは10〜20歳代で活発に運動する年代に多く認めるものです。
本人は、これまで食物アレルギーと診断されたことはなく、3度の症状誘発でようやく食物アレルギーが疑われるほど予兆はみられませんでした。初期の症状は目の周囲のかゆみにとどまっていたので、学童で罹患率が高い結膜炎と診断され、家族も疑問に思うことはなかったのです。原因となった果物はこれまで普通に食べており、このような重篤な症状を起こしたことはもちろんありません。家庭で果物を食べてから汗をかくような激しい運動をする機会がこれまでなかったと考えられます。
小学校高学年になると、活発に活動する機会も増えてきます。食物アレルギーの発症予知は難しいですが、「もし事故が起きたらどうするか?」というリスクマネージメントについては、学校関係者の共通理解と体制整備が必要であると思われます。
「食物アレルギーはよくわからない」「食物アレルギーは怖い」というお話をお聞きしますが一番不安に思っているのは患者である子どもたちです。僻地勤務の養護教諭の先生が、子どもの症状を見て「もしかしたら食物アレルギーかも」と早めに対処されたおかげで、ドクターヘリを呼び専門病院での処置ができた事例もあります。頭の隅に意識しておき、関係者全体で子どもを見守っていくことが、重大な健康被害を防ぐことに繋がります。
文部科学省のホームページでは、学校給食における食物アレルギー対応に関する解説が掲載されています。また医療関係者以外にもわかりやすい東京都の食物アレルギー緊急時対応マニュアルの他、厚生労働科学研究班による食物アレルギーと食事に関する手引きも公開されています。是非ご一読頂き、理解を深めて頂けますと幸いです。
文部科学省「学校給食における食物アレルギー対応について」
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/1355536.htm
東京都福祉保健局「食物アレルギー緊急時対応マニュアル」
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/allergy/pdf/zenbun1.pdf
厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017」
http://foodallergy.jp/wp-content/themes/foodallergy/pdf/nutritionalmanual2017.p...