教育オピニオン
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無理やり覚えさせられて嫌だった公式も、本質がわかると楽しい
数学YouTuber鈴木貫太郎
2020/3/20 掲載

 高校に入ってからまったく勉強をしなかった。成績は456位/456人と約分すれば1位という元祖ビリギャルで、高校卒業時には加法定理を覚えていなかったのではなく、加法定理の存在すら知らなかったような有様でした。そんな高校時代数学0点、大学文系の私がこのたび『中学の知識でオイラーの公式がわかる』(光文社、2020)などという本を出版してしまいました。

1 オイラーの公式を理解しようと思ったきっかけ

 オイラーの公式を理解しようと思ったのは45歳のとき、きっかけは妻の在外勤務でロンドンに在住していたときでした(あ、私専業主夫です)。息子の通う米国系のインターナショナルスクールのママ友ランチに出席していると、私が元塾講師であることがバレてしまい、3人の日本人高校生の数学の家庭教師をやることになりました。その学校では(アメリカの教育システムに沿っているので米国本土もきっと同じ)、高1から高2になる頃には、合成関数・指数関数・対数関数・三角関数の微分・積分、e(これらはすべて日本では数3の学習範囲)、さらに、空間ベクトルの外積(内積は当然)、ド・モアブルの定理、3行3列の行列式(2行2列でいうところのad-bc)と、日本の高校では未習の分野まで扱っていました(現在はド・モアブルの定理は習います)。教え子に周りの生徒の様子を聞くと、まったくわかっていないけど、解き方だけ覚えて対処しているとのこと。私の最も嫌いな数学の問題の解き方でした。
 「数学は解法パターンの暗記だ」という言葉には賛同しますが、それはあくまで自分で定理・公式を導き証明できてからの話です。二次方程式の解の公式を自分で導けない人には、残念ながら高校の二次関数はできません。
 したがって、どうしてそうなるのかを教えなければならないのですが、私の出身高校は全員数3必修だったとはいえ、上記分野については真っ白な状態。そのため、急遽いろいろな本を買いあさったところ、その中に吉田武先生著の『オイラーの贈物―人類の至宝e^iπ=−1を学ぶ』がありました。しかしそのときの私は、オイラーの公式の存在そのものは知っていましたが、凡人には理解できないものと決めつけていました。こんな人類の至宝とやらよりも、まずは教えるためにeの本質などを理解しなければならないと考えました。そこで、日本でおそらく一番使われている参考書を見てみると、eについては1行書かれているのみで、後は例題・類題があるだけでした(現在はもう少し詳しく書かれています)。それは解くだけなら解けるけど、日本の高校生はたったこれだけの説明で、eの本質を理解して使っているのかはなはだ疑問に思いました。
 その後私は、買いあさった本や便利なネット検索で自分なりにeの本質や、上記分野の基本定理がようやくわかってきて、その過程で、e^iπ=−1も理解できるのではないかなという気になり勉強を始めてみました。オイラーの公式はやはり難解で、わかるまでに相当な時間はかかりましたが、それでもなんとか理解することができました。

2 動画投稿を通して学んだこと

 帰国後に、せっかく理解できたのだからその過程を映像で保管する目的で「中学生の知識でオイラーの公式を理解しよう」という10本の動画にしてYouTubeに投稿しました。このときはまだチャンネル登録というシステムも知らず、投稿後半年ほどはほったらかしにしていました。すると、数人がチャンネル登録をしてくれていました。そこで初めてチャンネル登録や、そもそものYouTubeの仕組みについて調べてみました。
 YouTubeは再生回数に応じて収益が得られるという基本的なことすら知らず、トップYouTuberは年収数億円ということも初めて知りました。もちろん私にできることは、数学ネタの動画をつくることぐらいで、そんな動画が何万何十万回と再生されるわけもなく、莫大な収益がもたらされることなどないことはわかっていました。それでも、分野を絞って動画の投稿頻度を上げてサムネイルを工夫すればチャンネル登録者・再生数は伸びると書いてあったので、「0!はなぜ1か」とか「弧度法を使う理由」「積分で面積が出る理由」など動画にしてみたい数学小ネタを頻度を上げて投稿していくと、再生回数もチャンネル登録者も増え、コメントもいただくようになりました。
 人間誰でも自分の発表したものに対して反応があれば嬉しいし、それが多ければさらに創作意欲が湧くもので、2018年4月1日からは毎日最低1本は投稿すると決め、現在(2020年2月下旬)まで約700日連続投稿してきました。その甲斐あってチャンネル登録者も10万人となり、出版社から執筆依頼まできました。

3 本質に触れる授業を

 私の動画がこうしてある程度受け入れられたのは、常に「なぜそうなるのか?」ということにこだわり、公式もできる限りその場で導きながら用いるようにしてきたからだと思います。Youtubeでは、投稿者には視聴者の年齢層がわかる仕組みになっています。私のチャンネルは数学の大学入試問題を中心に扱っているのにもかかわらず、視聴者の半分以上は30代以上です。そして、そういった方々からいただくコメントは「学生時代に無理やり覚えさせられて嫌だったことも、仕組み・本質がわかると楽しい」という声です。
 YouTubeの数学動画でも実際の学校・塾の現場でも解き方の手順だけを示し、それを覚えさせる方法で人気を博している先生が数多くいることも知っているし、実際その方が目先のテストでいい点数を取りたい生徒のニーズに合っているのかもしれません。しかし本質は、何も歳をとってからではなく、初めて習うときからわかっていた方がいいに決まっています。私は100%やり方・手順だけを教えている先生に実際に何人も遭遇したことがあるので、少なからずそういった先生は存在しているはずです。もし、そのような授業をしている先生がこの記事を読んだなら、やり方・手順だけでなく、時には本質に触れる授業をしていただけたら幸いです。

鈴木 貫太郎すずき かんたろう

1966年2月18日埼玉県北本市生まれ。
田舎の中学から、受験直前期は1日12時間以上の猛勉強で、県立浦和高校に進学。
勉強は高校受験で燃え尽きて高校時代は完全落ちこぼれ。
2浪して早稲田大学社会科学部入学。
在学中に何気なく塾講師のアルバイトを始めそのまま正社員になり、大学は中退。
第二子の育児休業が終わり、妻が職場復帰したのを期に退職して専業主夫に(2001年)。
2010年妻の転勤で家族でロンドン。その後スロベニア。
帰国後暇になりYouTube投稿を始める。現在チャンネル登録者10万人。総再生回数は2500万回。

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