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1 学校にはびこる「先入観」
こんにちは。鈴木茂義と申します。小学校や大学の非常勤講師をしながら、LGBTQにかかわる活動をしています。私自身もLGBTQのG(ゲイ)であります。学校でもある程度そのことをオープンにして働いています。
プライドハウス東京レガシーで活動する私(レインボーぬいぐるみと共に)
自分のセクシュアリティをオープンにして働く日が来るとは、夢にも思っていませんでした。数年前までは、自分がゲイであることを周りに言えませんでした。同僚からは「シゲ先生、彼女は?結婚は?」と聞かれていましたし、子どもから「シゲ先生、男のくせにピンクのポロシャツを着てる。変なの!」「シゲ先生、自分のことワタシって言った!」と言われたこともありました。学校や社会には「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という先入観が、根強く残っていると感じます。
2 カミングアウトについて
6年前は、小学校の正規の教員で持ち上がりの6年生を担任していました。ことあるごとに子どもたちに「素直に生きよう」「誠実であろう」と話していましたが、自分のセクシュアリティをひた隠しにしていることに大きな矛盾を感じていました。子どもに伝えていることと、自分の在り方に隔たりがありました。それが私のカミングアウトのきっかけでした。
学校の研修会や講演会で、先生方から「LGBTQの子どもたちをサポートしたいけど、どうしたらカミングアウトしてもらえますか?」という質問を受けることがよくあります。LGBTQの子どもも大人も「いないのではなく、見えていない」だけなのです。しかし私たちは「同性のことを好きかもしれない」「自分の性別に違和感がある」という子どものカミングアウトを前提にすることなく、指導と支援をする必要があります。私は自分の専門が特別支援教育なので、そのことと比較しながら学校と多様な子どもたちについて考えることがあります。例えば発達に凸凹のある子どもたちが、「しげ先生、私は発達障害なので助けてください」とカミングアウトする場面に私は出会ったことがありません。子どもからのカミングアウトがあってもなくても、私たちはこれまでも学びづらさや生きにくさに対応してきたと思います。困っている子がいれば、個別にサポートする。周りの友達に協力してもらう。正しい知識を全ての子に伝える。そういったことを、これまで取り組んできたのではないでしょうか。
3 環境づくりと意識づくり
少し話題が逸れるかもしれませんが、以前友人から「人権って思いやりとやさしさだけじゃないからね」と言われたことがあります。私は最初、何を言われているのかさっぱりわかりませんでした。これまで学校生活や授業のありとあらゆる場面で、「人にも自分にも優しく」「思いやりを持って行動」と伝えてきたからです。しかし色々な活動に取り組む中で、「カミングアウトしたら自分の人生がバラ色になると思っていたけど、そうでもないなあ」「周りに思いやりのある人がたくさんいるのに社会には変わるべきことがあるなあ」とずっと感じていました。最近になってようやく気づいたのです。全ての人たちが豊かに生きる社会や学校をつくるには、思いやりとやさしさ(意識づくり)だけではなく、ルールや制度、枠組み(環境)が必要であるということに。
学校で言えば、見えても見えなくても、どんなちがいをもった人に対しても思いやりとやさしさをもって行動する意識づくりの側面が必要です。そして、心理的安全性が保障された人間関係、柔軟な校則、多様な選択肢があるという環境の側面が必要です。教室の学級文庫の中に、多様な人々が登場する絵本や書籍があれば、それも環境の一部かもしれません。安心してチャレンジして失敗できる集団づくりも大切です。マイノリティについての話題を、自分事として捉えさせるような授業の機会が存在することも環境だと私は思います。学校のルール作りに、子どもたちを参画させる取り組みも始まってきました。
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LGBTQについて考えること、それは居心地のよい学校づくりの入り口でしかありません。子どもにとっても教職員にとってもより居心地のよい学校を目指すために、私たちが子どもと一緒に取り組んできたことは何でしょうか。そしてこれから何に取り組んでいけばよいでしょうか。私も引き続き、考えていきたいと思います。