1 「英語落語」への注目
「英語落語」のテーマは中学校用の検定版英語教科書に、旧版(2020年度まで)では全6社のうち4社に取り上げられ、新版(2021年度から)では全6社のうち3社で取り上げられています。いずれも<日本文化の海外発信>という狙いの中で、その典型例としての採録です。それぞれ、「英語落語」に関する説明と英語落語家へのインタビューが掲載されています。具体的には、大島希巳江氏(三省堂 NEW CROWN)、ダイアン吉日師(東京書籍 NEW HORIZON)、桂かい枝師(教育出版 ONE WORLD)といずれも国内外で「英語落語」の公演を行なっているプロの方々です。
<日本文化の海外発信>としての「英語落語」を理解するのは大切なのですが、そのまま鑑賞するだけの取り扱いではとても残念です。本稿では英語の技能(特に「話す」分野)をアップさせる方法としての「落語音読」の活用を提案します。
2 「落語音読」で発音が上達し、リアリティのある英語に
ご承知の通り、落語は一人芝居の一種で、座布団に座る一人の演者が左右に頭を振りながら(上下、かみしもと呼ぶ)複数の登場人物の発話を表現するものです。英語の説明では英語圏によく見られる “Stand-up Comedy”ならぬ “Sit-down Comedy”と表現されることが多いです。座布団に座ったままの芸能であるからでしょう。
「落語音読」は落語の語りの手法を用いてダイアローグの役割練習を一人で行う音読パターンです。題材として、オチのある小咄を使えれば言う事はありませんが、オチを意識して作られていない教科書のダイアローグにも当てはめる事は可能です。現在教室で行われているダイアローグの音読はあまりにも機械的なものに留まっている場合が多いのではないでしょうか。「落語音読」では左右に頭を振り、別の人物のセリフであることを意識し、それぞれの立場(心情)でセリフを発する ことになります。この動作を入れることでリアリティを込めてその英文を発する音読練習ができます。
3 「英語落語」の演出を考える
以下、2つの小咄の例を考えてみたいと思います。小咄として面白くするためにはどのような演出をすると楽しくなる(笑ってもらえる)でしょうか、考えてみてください。
<小咄1>「遅刻」:AとBの会話
A: Oh, I’m late. Hey, where is my bag?
B: It’s by the TV.
A: OK. Where is my smartphone?
B: It’s on the desk.
A: OK. Where is my hat?
B: It’s on your head.
A: Oh!
まずAとBがどういう人物(性別、年齢、お互いの関係)なのかを考えて自分なりに設定しましょう。標準的には中学生の男の子Aとその母親Bの会話でしょうか。遅刻しそうな状況で自分の持ち物を探すAの慌てぶりとそれを見守り、それぞれのありかを冷静に示すBの落ちつきぶりを対照的に表現したいです。そして最後のAのセリフ “Oh!”では、探している帽子は自分がかぶっていることに指摘されて初めて気づくような、何らかの動作(仕草)をつけることが望ましいですし、そこをはっきりさせることで小咄のオチが表現できます。
<小咄2>「図書館にて」:Aは「guest (客)」、Bは「librarian (図書館員)」
A: Excuse me. A hamburger and an orange juice, please. <1>
B: Excuse me?
A: A hamburger and an orange juice, please. <2>
B: Hey, this is a library here.
A: Oh, I’m sorry. A hamburger and an orange juice, please. <3>
B: Oh, no!
(*出典:桂かい枝 Youtubeチャンネル【英語で笑って英語が身につく!】英語落語チャンネルより。一部改変)
https://www.youtube.com/watch?v=7HBRUQyyQqo
この少しナンセンスな小咄でAは<1><2><3>と同じセリフを3回繰り返していますが、全てを同じ調子で言えばよいのでしょうか。特に<3>をどのように発話するのかがポイントです。<1>は普通にハンバーガーと飲み物の注文(図書館とハンバーガー店を勘違いすることは現実的にはあり得ませんが)、<2>は聞き返されたことに対して、よりはっきりとした注文の発話、<3>はここがハンバーガー店ではなく図書館であることに気づき、「静粛さ」を大切にして、小声(ささやき声)で発話し、それでも注文は続けるナンセンスを表現したいです。そしてあきれ顔のBをうまく表現するとさらに笑いは大きくなります。
教室で音読練習をするにあたり、ただ同じ調子で発話を棒読みで繰り返すだけになっていないでしょうか。発話の強弱、発話するときの表情、対話でのやりとりの<間>までを考えた音読練習 がこれからは必要になります。新学習指導要領の「話す」に加えられた「やりとり」の領域はここに関連しています。
4 教室で「英語落語」をやってみよう
そこでお勧めです。教室で「英語小咄発表会」をやってみませんか。教科書に掲載されている小咄、あるいは市販の英語落語本(大島希巳江、桂かい枝、桂三輝、桂あさ吉など各氏のもの)を探せば小咄のスクリプトは手に入ります。教室内で生徒全員の参加による小咄の予選をして優秀者(クラス代表)を選び、学年で合同発表会を行うと盛り上がります(クラスごとに異なる小咄に取り組むのもアイデアです)。英語が上手なことも重要ですが、面白さ(ウケる)という観点も重要なので、そこまでを含む「ルーブリック」を作成し評価をしてください。意外な生徒の活躍する機会になるかもしれません。
「英語落語」は今話題の「パフォーマンス評価」につながる素材としても活用できます。教科書会社が用意したプロ落語家が演じる「英語落語」の動画を見て(見せて)終わりにしない工夫が教室の現場に生まれることを願っています。
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- じん
- 2022/7/26 6:31:19
これはおもしろいですね。アメリカに住んで30年以上経ちますが、コメディアンの話すコメディをおもしろいと思ったことがありません。英語力がないせいでしょう。上の間のとり方が自然にじわっと笑いの源になります。笑いって何だ?と考えていくと新しい語学対象になりそうです。