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『SCHOOL SHIFT 2』刊行特別インタビュー(3)
教師と生徒が、「学びの場」を創り出すこと
慶応義塾大学名誉教授/PEN言語教育研究所代表田中 茂範
2024/8/9 掲載
新刊『SCHOOL SHIFT 2(スクール・シフト2)』の刊行を記念した特別インタビュー。第3回(最終回)は、著者の一人である慶応義塾大学名誉教授/PEN言語教育研究所代表 田中茂範氏にお話を伺いました。

田中 茂範たなか しげのり

1980年代初頭に米国コロンビア大学で教育学博士号を取得しました。専攻は応用言語学でしたが、同時に教育学にも強い関心を抱きました。帰国後すぐに茨城大学で職を得て、5年間勤務しました。そして1990年に慶應大学SFCが開設されると、そちらに移り、約30年間を過ごしました。英語教育、認知意味論、言語コミュニケーション論、映画分析、意味空間分析などの授業を担当しました。この間、研究・教育活動の成果を100冊を超える書籍や多数の論文として発表しました。最新刊として、私の教育に関する考えをまとめた『生徒ひとりひとりのSDGs社会論』(2023年、コスモピア出版)があります。また、学外ではJICA(国際協力機構)の語学研修にも長年にわたりアドバイザーとして関わってきました。現在は、PEN言語教育サービス(penlanguage.com)を立ち上げ、学校における探究学習と英語学習の支援に従事しています。

―田中先生は、前作『SCHOOL SHIFT』に続けてのご執筆です。前作の内容も踏まえ、今作ではどのような視点でご執筆くださったのでしょうか。

 前作『SCHOOL SHIFT』では、PBLをディスカッション・リサーチ・プレゼンテーションの相互活動であると定義し、PBLこそがSCHOOL SHIFTの鍵であるという主張を行いました。『SCHOOL SHIFT 2』では、生成AIはDXを達成する決定打になるかということについての立場を示します。結論としては、認知的にも情意的にも生成AIの可能性は限定的であるということです。このことを踏まえた上で、筆者は、教師と生徒が学びの場(シチュエーション)を創り出すことが教育の本丸であると考えています。学びの場を創出するとは、人と人が関り合い、アイデアと思いが飛び交う中で、たえざる情況編成が行われるということです。授業をイメージとして捉えると、「協働学習」ということになります。生成AIは協働学習の中に位置づけることで教育効果を生むと考えます。

―今作の中では、「三つの協働学習の型」を示されています。これらの型を理解したうえで、実践へとつなげていくためのアドバイスはありますか。

 「協働学習」といっても、種類によってその活動のありようは異なります。本稿では、

  • 立場表明型の協働
  • 問題解決型の協働
  • 意味創造型の協働

の3つを主要な型として提示します。
 協働は、本来、生産的で創造的な話し合いを含む活動です。協働を通して立場、解決策、意味(アイデア)が生まれるのです。教師がこれらを実践する上で大切なのは、それぞれの協働の前提と手続きを意識するということです。そうでなければ、どんなに魅力的なアイデアも教育メソッドにはなりえません。
 ぼくがこだわるのは、メソッドとしての協働です。メソッドには理論的な前提と具体的な手続きが含まれます。例えば、問題解決型の協働の場合、あらゆる問題解決には問題発見が含まれるという前提があります。そのうえで、「何であるか」「何ができるか」「何をすべきか」そして「それをどう実行するか」の4つの問いが協働活動の流れをナビゲートします。「何であるか」という現状把握の問いによって、問題の捉え方が異なってくるからです。
 同じく、意味創造型の協働の場合、「人はコトバを操りつつ、コトバに縛られる存在である」という前提があります。意味の創造のためには、「コトバに縛られる」とはどういうことかを理解した上で、「コトバを自由に操る」ことで、新しいアイデアを生み出すという協働が必要になります。そのためにどうすればよいか、ここに協働の手続きが出てきます。
 立場表明型の協働についていうと、個人の立場もあれば、グループとしての立場というものもあり、両者はかならずしも一致しないということがあります。そこで、ディベート的な要素とディスカッションの要素を含む合意形成の過程に注目する必要があるわけです。その際に大切なのは、アイデア(立場・意見)の創造、アイデアの言語化、アイデアの共有、アイデアの検討の4つです。アイデアを言語化しなければ、共有もできないし、検討もできません。だとすると、言語化するためにどうするか、それを共有するにはどうすればよいか、その手続きを明確にする必要があります。この明確化を通して、立場表明型の協働をメソッドにすることができるのです。
 教室内での協働の実践においては、前提ややり方(手続き)を生徒と共有することが大事です。そのために、本書で示したようなチェックリストの利用が考えられます。

  • 生成AIが作成した解答はだれのもの?
  • デジタルデトックスについてどう考えるか?
  • 地球温暖化の中、快適に暮らす方法は何か?
  • まちづくりにおける開発と保存のせめぎあいにどう対処すべきか?

等々について問題解決、立場表明、意味創造の観点からチェックリストを利用して議論をするということです。

―学びのさらなる「シフト」に向けて、読者の先生方にいま、改めて伝えたいことは何でしょうか。

 「マインドセット」という言い方があります。物事の見方の「傾向性(くせ)」のようなもので、固定観念、思い込み、信念に近い概念です。このマインドセットを変えることがさらなるシフトの動因になると考えます。
 「うちの生徒は英語ができない」というのもマインドセットのひとつです。「できない」ではなく、「できて当たり前」「だれでもできる」という捉え方をすると、期待感が激変します。
 同様に、「生徒にはこれは無理」という教師の思い込みもシフトする必要があるのではないでしょうか。意味あるものと感じ、自分事として取り組めることであれば、教師が設定した閾値をはるかに超え出ることができるのが生徒の力です。協働学習においては、「教える(指導)」から「場を創り出す(場づくり)」へのシフトが重要だと思います。

(構成:大江)
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