1.評価?評定?
「体育の評価はどのようにすればいいのですか?」という質問をよくいただきます。その際、少し意地悪く「評価ですか? 評定ですか?」と聞き返します。その意味を調べると次のようにあります。
評価…ある事物や人物について、その意義・価値を認めること。
評定…一定の基準に従って、価値・価格・等級などを決めること。
似ているようですが違います。「一定の基準があるのか」という点。もう一点は、「決めるのか認めるのか」という点です。学校で言えば、学期末に出す成績表は、そこにAやB、◎や△などの判定を下すためのラインがあり、そのどこにあたるのかを決めます。これは評定です。一方、評価は、本来の意味で考えると、目標にむけてどの程度その子が到達したのかを認めることです。ある一定のラインはありません。
冒頭のように質問される方のほとんどが、評定をイメージしながらの質問だと思われます。しかし、学校現場において子どもたちの力を育んでいくためには、ある一定のラインへの到達だけをみとる評定(「できた・できない」「わかった・わからない」)だけでは不十分なのは、教師であれば肌で感じることができるでしょう。中間テスト、期末テストのみで評価するのではなく、授業における発言や行動、カード(ノート)への記述などから、個々の伸びや課題を日常的に評価していくことが大切です。「いまの言葉、○○くんの動きがよくわかるね」「次は、こんなところに気をつけてみたらどうだろう」「OK! 今の足がピンと伸びていて美しい!」など、刻々と変わりゆく状況の中で、形成的ともいえる評価をおこなっていくことで、子どもたちは方向性を見出し、次なる学習に向かうことができます。
2.評価のコツ!
しかし、個々の伸びや課題を日常的に、またその都度評価していくことは容易なことではありません。私は、単元を創造する際、また授業に向かう際、小さなラインをたくさんつくっておくことを心がけています。小さなラインは目標に向かう道筋での価値ある動きや言葉、思考です。先ほど、本来評価にラインはないと述べましたが、予めこの小さなラインをいくつも設定しておくのです。そして、授業ではそれぞれの子ども(グループ)の姿に応じて、その価値を認めていくのです。それは、技能のみならず態度面や思考面においても同様です。評定に用いる目盛り(ライン)の間に、より細かい目盛り(ライン)を入れるイメージです。AとB、BとCの間にある子どもの姿をたくさん思い描いておくことです。それぞれの子どもが、今どこにいて、何につまずいたり、悩んでいたりするのかを把握するための目盛りです。そう考えると評定は評価の一部であるとも言えます。
開脚前転の技能のBとCの間に、「遠くに手をつくことができる」や「膝を伸ばすことができる」などを思い描きます。ゴール型ゲームの思考のAとBの間には、「速攻にすぐ向かう動き」や「みんなが楽しめるルールを考える」などを思い描きます。大きなラインとたくさんの小さなラインをもつことで、子どもに対する声かけや対応が劇的に変わってきます。
また、小さなラインを準備することは、その子の「小さなできた」をたくさん発見することにつながります。「小さなできた」をたくさん認めてもらえた子どもは、見通しと意欲をもって、きっと次の学習に向かうことでしょう。この「小さなできた」を設定する力と発見する力が「評価する力(評価力)」です。重要な教師力の一つです。学習者にとっては次の方向性を示されるのと同時に、授業者にとっては授業を修正していく契機ともなるでしょう。
今月の授業根拠をもって自信ある評定をしよう!
学期末。通知表や指導要録などのために「評定」をつけなくてはならない時期です。日々の評価とは違い、総括的評価です。教師は頭を悩ませます。学期末になると、このために帰宅する時間がどんどん遅くなるといったこともよくあります。億劫な気持ちになる先生も多いのではないでしょうか。しっかり根拠をもって評定することで、気持ちの負担も軽減されます。そんな評定の方法をいくつか紹介します。
授業観察
オーソドックスな方法です。すべてを見取るのではく、何を中心に評価するのか、ある程度絞っておくことが大切です。その際「先生、今日はみんなの○○を頑張っている姿を見るからね」と伝えておくと子どもたちの意欲につながります。
ビデオ・ICレコーダー
動きをじっくり見たいときは、ビデオにとっておくのもいいですね。グループの話し合いの様子を聞きたいときは、ICレコーダーを持たせておくのもおすすめです。
学習カード
低学年は選択肢を中心に。高学年は図や文章で表現できる欄を設けると、子どもの思考や願いが表出しやすくなります。
ペーパーテスト
他教科や保健でおこなうことはあっても、体育ではあまり馴染みがないかもしれません。特に思考面を見たいときに行います。雨で体育ができない日などを利用してもよいですね。
口頭試問
1人ずつこちらの質問に答えてもらう方法です。観察や学習カードなどでは判断しにくいことを質問します。ボール運動におけるある場面での動き方や仲間の頑張りで見つけたことなどを質問します。
評定に限って言えば、小学校の教員は、中学校に比べて評定化することに抵抗を感じる教師が多いように感じます。特に、関心・意欲面や思考面においては、その傾向が強いです。高校進学のための調査書などを見通した評定に常日頃向かっている中学校教師と、向かっていない小学校教師との差なのかもしれません。しかし、せっかく多くの時間を費やすのですから、有意義な機会にしたいものです。単に子どもたちを区切る目的のみではなく、よりよい方向に導くという目的をしっかりもっておくことで、子どもたちにとっても、教師にとってもプラスの方向へと働くはずです。自信をもって評価、評定をしましょう。根本に子どもの伸びゆく姿がイメージされていれば恐れることはありません。
絶対成功のポイント
- 評価力は重要な教師力だ!
- 評価には「小さなできた」をいっぱい準備せよ!
- 評価と評定の先は子どもの伸び行く姿だ!
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- 東大阪市 香川
- 2016/3/12 21:17:17
「評価」と「評定」の違いや大切なことをわかりやすく示していただき、それぞれの子の「できる(小さなできた)」を認め合い、支え合い、学び合う授業づくりに大切なことがよく伝わると思います。具体的実践につなげるためには、日々の授業での子どもの姿を記録していくことだと思います。一人ひとりの課題は書き易いですが、個々の伸びやがんばり(「小さなできた」に対して)はなかなか全ての子の記録は難しいです。しかし、単元を通して続けて行くことで、どの子もの伸びやがんばりが記録されるようになります。そうした具体的な子どもの姿を見つめて行くことが垣内先生の書かれている「評価」・「評定」につながることだと思います。