- 著者インタビュー
- 指導方法・授業研究
田中先生:簡単に説明すると、盛り上がった算数の授業のあと、そのまま板書を残しておいて、それを見ながら国語の時間に算数授業追想記を書かせる試みです。算数の授業そのものを作文の題材とするわけです。授業の終わり5分程度の算数日記ではなく、しっかりと45分間使って書き浸らせます。その具体的なノウハウと子どもの変容の事実が、本シリーズにはたくさん詰まっています。
尾ア先生:子どもが問題を解きたくて解きたくてたまらなくなるしかけを授業のどこかにつくることが大切です。そのために意識していることは、“ズレが生まれる”展開づくりです。例えば、自分の考えとは違う考えに出会うと、子どもは急に不安になります。これは「友だちの考えとのズレ」です。このズレを、クラス全員に意識させます。ズレを意識した子どもは、本当の答えを知りたくなり、放っておいても動き出します。このように、ズレ(友だちの考えとのズレ、予想とのズレ、感覚とのズレ、既習とのズレ)が生まれるしかけをつくることで、子どもたちが作文に再現したくなるような授業が構成できます。
小松先生:算数の授業では、数学的な見方・考え方をはぐくむことが重視されています。子どもの数学的な見方・考え方は、問題を解決する過程で表出、表現されます。教師は授業の中で子どもの表現等を見とり、最大限に称賛することで、数学的な見方・考え方の定着を図ります。しかし、そういった教師の意図にもかかわらず、子どもたちにはまったく定着していないことも多くあります。“算数作文”では、このような数学的な見方・考え方を子どもたちが本当に自分の内面に落とし込んでいるかどうかを見とることができます。また、“算数作文”は授業のねらいとリンクしたものなので、教師自身の授業評価にもなります。
熊谷先生:“算数作文”を始めた初期の段階では、黒板全体を大きく3つに区切り、
@左の部分には「本時の問題」それにかかわる「めあて」や「見通し」
A中央部分には「子どもの考えた解き方の例」
B右の部分には「本時のまとめ」や「練習問題」
を配置すると、作文が書きやすくなります。しかし慣れてくると、一番左の「本時の問題」や「めあて」、一番右の「まとめ」を見るだけで、授業の大まかな構成がわかってしまうという弊害が出てきます。
そこで、わざと大切な部分を板書に残さないという実践を行ってみます。すると、黒板に書かれないことも自主的にメモする必要感が生まれ、それと同時に友だちの発言を集中して聴くなど、新しい授業の雰囲気が醸成され始めます。
田中先生:まずは、盛り上がる算数の授業を実現することが必要です。楽しくない算数授業では子どもも書くことが浮かびません。その上で、時間をしっかりとって書き浸らせるのですが、思考力を育成する“算数作文”では、考えた結果を書くことよりも、「書きながら考える」「書きながら考えが変わっていく」ことが大事であるということを子どもたちに教えてあげてください。また、段落構成などの形式に最初から入り込まないことです。話型指導の問題点と同じで、形式の約束が多いほど子どもは表現しにくくなります。