著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
WHYを大切に、本質的な保育力をアップさせよう!
武蔵野大学客員教授網野 武博ほか
2016/2/10 掲載
 今回は網野武博先生と阿部和子先生に、新刊『2歳児のすべてがわかる!保育力がグーンとアップする生活・遊び・環境づくりの完全ナビ』について伺いました。

網野 武博あみの たけひろ

東京大学教育学部教育心理学科卒業。厚生省児童家庭局児童福祉専門官、日本総合保育研究所第5部長・調査研究企画部長、東京経済大学教授、上智大学教授、東京家政大学教授を経て、現在武蔵野大学客員教授。日本保育士養成協議会副会長。日本福祉心理学会常任理事、公益社団法人全国保育サービス協会会長、東京都児童福祉審議会委員長。

阿部 和子あべ かずこ

大妻女子大学家政学部児童学科・同大学院併任教授、家政学部長。
自らの子育ての経験から、保育所保育に特に興味を持って研究を続けてきました。私の子育ては、乳児を保育所に預けて働くのは親のエゴではないかと非難される「3歳児神話」の只中にありました。私の問題意識は、誰も犠牲にならない家庭生活を実現することでした。自らの子どもと保育所で生活する乳児の「自発的な行動」に注目しました。そのなかで、親子関係、保育者―子どもの関係の成立は、かかわりの量ではなくその質にあることに確信を持ちました。これからも子どもの最善の利益を追求していきたいと思います。

―本書では、「自己意識」や「自我の芽生え」という語がよく出てきますね。2歳児の保育者として、1歳児までの保育とは違う新たに心がけるべきことがありましたら、ぜひ教えてください。

 私たちの意識や行動は、殆どが他者との関わりを前提になされていますね。自我(ego)という私自身の主体的な心の働きは、他者からみられている自己(self)を意識し、その意識が発達することによって自己意識つまり自分自身を見つめる心も育くんでいきます。周囲の人々や他者との関わり方に関心を示して、この自己意識がグングン育つ時期ですので、自らの心とともに他者の心にも心を配ることができるように配慮することがとても大切であると思います。

―3歳児からの本格的な集団生活に向けて、2歳児の保育者が意識しておくべきことなどありますでしょうか。

 このような自己意識の発達を丁寧に配慮して環境調整していくと、“他者”への思いとともに、様々な“他者”で構成されている”集団”への思いを深め、高めることができます。心ゆくまでみんなとともに生活、遊びを体験する機会を求めることが多くなりますので、それをサポートし、私の大切さ、〇〇ちゃんの大切さ、クラスの大切さを学んで行けるとよいと思います。一見、集団になじみにくい子どもであっても、他者や集団への関心は高まっていますので、その心の働きを尊ぶようにしたいものです。

―本書の刊行で、0〜2歳児までの全3巻が揃いました。シリーズを通じて、読者の皆さんにお伝えしたかったことを教えてください。

 このシリーズを通して、どのような保育力がアップするのでしょうか。それは、決してQ&A的にノウハウが向上するだけではなく、つまりHOW(どうしたらよいか?)ではなく、本質的な保育の質としてのWHY(どうしてそれが大事なのか)を大切にする力を身につけていくことに役立つのではないかと考えています。保育者が”育てよう”とする心のみに傾かず、子どもの”育とう”とする心を尊重し、寄り添い、子どもを信じ、見守り、ここぞと言うときにしっかりと関わる力、そういう保育力が身につくことを期待しています。

―最近は、潜在保育士の増加や待遇面も含め、保育士の仕事に対する見方が変わりつつあるように思います。現場の先生方にはどのような専門性が求められているのでしょうか。

 保育の専門性において重要なことは、その子どもが成長すること、自己実現することを手助けするということです。日々の保育においては、自然の欲求のママに生きようとする子どもと、社会が要求するルールや価値観などを伝える保育者との間にはズレが生じます。このズレをどのように捉え、解消しようとするのかということがそのまま保育内容になります。そのズレに折り合いをつけた保育のヒントになることが本書に書き込まれています。
 自らの保育実践を意識的に行うこと、それを保護者や社会に向けて表現していくことが保育の専門性が評価されることにつながり、保育という仕事にさらに誇りが持てるようになると思います。

―最後に、2歳児クラスを受け持つことになった保育者の先生方へ向け、メッセージをお願いします。

 2歳児は「テリブル・ツー」と言われるほど、難しい時代と言われます。このテリブルな状況を、子どもの気持ちに添ってみていくと、それまでと違ったけなげな世界が見えてくるはずです。芽生え始めた私(という感情)が、自らの力で何とかしようとするのが2歳児です。それを見守っていると、全神経と持っている力を全部使って試行錯誤していることが理解できます。なんと美しく人間らしい姿かと感動すら覚えます(結果は無残で癇癪を起したりしますが、その失敗を繰り返してできるようになるのだと思います)。時間をたっぷりととって、子どもとともにその世界を実感してみませんか。保育(生きること)が楽しく豊かになるはずです。

(構成:木村)

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