「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方
個別最適な学びと一体的に充実させていくために、協働的な学びを、その定義や効果、学習環境など、様々な視点から掘り下げていきます。
「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方(10)
数学的活動のAとDの局面を重視した学習のあり方A(個別学習編)
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2023/3/25 掲載

 前回は、数学的活動のAとDの局面を重視した一斉授業のあり方について述べました。3年生の分数の加法の学習において、「〜を1とする」という数学的な見方を働かせることによって、既習である整数の加法にすることができることを発見した子どもたちは、「減法、乗法、除法も同様にできるのではないか?」と予想しました。そこまでが、前回で紹介した内容でした。
 今回は、「〜を1とする」という数学的な見方を働かせて、減法、乗法、除法と問題を発展させていった子どもたちの姿を紹介していきます。一斉授業において数学的活動のAとDの局面を意識させることによって、個別学習において、どのような子どもの姿が見られたのかをご覧ください。

個別学習における1回転目の数学的活動

 個別学習の導入では、私から「2/7+3/7」「5/9+2/9」「4/5−2/5」「5/6−3/6」という4つの計算を提示しました。これは、「前時の2/10+3/10という分数の加法で働かせた『〜を1とする』という数学的な見方が、他の数値でも同様に働かせることができるのか?」「分数の加法で働かせた『〜を1とする』という数学的な見方が、分数の減法でも同様に働かせることができるのか?」ということを考えるための問題です。
 下の板書は、前時の板書の一部ですが、「たしざんできるなら、ひきざんやりたい!!」という言葉が板書されているように、前時に「『〜を1とする』という数学的な見方が分数のたし算で使えるならば、分数のひき算でもできそうだ」ということを話し合っていました。前時にAの局面は行っており、「何のために分数のひき算をやるのか?」という問題の意識化はできている状態で本時を迎えているのです。

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 下のノートは、本時の学習中に子どもが書いたものです。数字が変わったり、減法になったりしても、「〜を1とする」という数学的な見方を使えば、同様のやり方で計算ができることを発見しています。分数の加法と減法の共通点を見つけて、統合的に考察しており、Dの局面を行っている子どもの姿と言えるでしょう。

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個別学習における二回転目の数学的活動

 最初に私から提示した問題を解決することを通して、分数の加法と減法で共通して働かせた「〜を1とする」という数学的な見方を統合した後、子どもたちは数学的活動をさらに回転させていきました。子どもたちの思考は「たし算とひき算ができるならば、かけ算とわり算もできるのではないか?」と進んでいきました。統合的に考察した後に、発展的に考察しているDの局面であり、「加法・減法で働かせた『〜を1とする』という数学的な見方が、乗法・除法でも使えるのか?」という「問題の意識化」を行ったAの局面でもあります。
 先に紹介したノートを書いた子どもが発展させて解いた問題が以下の2つです。

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 「〜を1とする」という数学的な見方を働かせることで、分数×整数と分数÷整数ができることを発見しました。他の多くの子どもたちも、分数×整数と分数÷整数の計算方法まで考えることができていました。これは「〜を1とする」という数学的な見方を、加法・減法・乗法・除法において統合した場面であり、Dの局面と言えるでしょう。

さらにその先へ

 子どもたちの思考はさらに進んで行きました。分数÷整数の場合、「〜を1とする」という数学的な見方を働かせるだけでは解けない問題が出てきたのです。例えば「7/8÷2」という問題です。この計算の仕方を考えた子どものノートが以下のものです。

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 これは、「1/8を1とする」と考えて7÷2=3あまり1と計算し、「あまり1は1/8が1つ」と考えることで、「3/8あまり1/8」と答えを出しています。本来であれば、7/8を同値分数の14/16にすることで、2でわりきれるようにするのですが、これは3年生にとっては思いつかない方法です。それでも、「〜を1とする」という数学的な見方がどこまで使えるのか考えようとする姿は、まさに「学習の個性化」を体現していると言えるでしょう。

他にこんな姿も

 「〜を1とする」という数学的な見方が、分数×整数や分数÷整数にも使えるのではないかと予想して、学習を発展させた子どもが多かったのですが、中には「分母が違えば『〜を1とする』という考え方は使えないのではないか?」と考えた子どももいました。「〜を1とする」という数学的な見方の限界を探ろうとする姿であり、これもAの局面と言えます。こうやって考えた子どもは、異分母分数どうしの加法について考え始めました。異分母分数どうしの加法について考えた子どものノートが下のものです。

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 最初、かなり複雑な数値でやろうとしていたので、私から「もっと簡単な数でやるといいよ」とアドバイスして、1/3+3/6という数値で考えることにしました。それでもわからない様子だったので「図をかくとわかるかもしれないよ」と言って、図をかくところまで一緒に行いました。すると、隣の子どもと一緒に考え始め、上記のように、「1/6を1とする」と考えることで計算ができることを発見したのです。

数学的活動を個別学習でも行うことができる子どもに育てるために

 ご覧いただいたように、個別学習においても、子どもたちは解決した問題を基に、「前の学習と同じようにできるかな?」「前の学習と同じようにできるなら、こんなこともできるかな?」と考えて、自ら学習を進めることができるのです。これは、「問題の意識化」を行うAの局面と、「学習の体系化」を行うDの局面を意識できているからに他なりません。算数科の特質に応じた「学び方」である数学的活動を自ら行うことができているのです。
 個別学習において、子どもが数学的活動を行えるようになるためには、一斉授業において、AとDの局面を意識した「学び方」を何度も学ぶ必要があります。そのうえで、個別学習においても数学的活動を行うことで、自ら学習を進める経験を何度も積み重ねていく必要があるのです。AとDの局面を意識した「学び方」を学び続けることによって、少しずつ、算数の学習の主導権を子どもに譲渡していくのです。
 「数学的活動は、数学を学ぶための方法であるとともに、数学的活動をすること自体を学ぶという意味で内容でもある。また、その後の学習や日常生活などにおいて、数学的活動を生かすことができるようにすることを目指しているという意味で、数学的活動は数学を学ぶ目標でもある」(文部科学省、2017)と述べられているように、算数科における数学的活動は、方法であり、内容であり、目標でもあります。子どもが自分で数学的活動を行えるようになることが、算数科で育てるべき子ども像でもあるのです。そのために重要となるのが、AとDの局面を意識した一斉授業であり、個別学習なのです。

【参考・引用文献】
・文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 算数編』(日本文教出版社)p.72

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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