「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方
個別最適な学びと一体的に充実させていくために、協働的な学びを、その定義や効果、学習環境など、様々な視点から掘り下げていきます。
「協働的な学び」を実現する算数授業のつくり方(11)
子どもに学びを委ねる勇気、子どもから学びを戻す勇気
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2023/4/25 掲載

 「個別最適な学び」や「協働的な学び」というと、イコール「個別学習」「自由進度学習」というイメージがあるのではないでしょうか。「個別学習」や「自由進度学習」を行っているときは、子どもに学びを委ねている状態です。「個別最適な学び」や「協働的な学び」を行うには、「子どもに学びを委ねる勇気」が必要です。「個別学習や自由進度学習をしていても、子どもは理解できない」と、いつまでも学びの主導権を教師が握っていては、子どもが自ら学び続ける力を養うことはできません。一方で、「子どもが自分で学ぶことが一番」と考え、学習が理解できていないことに気づいているのに、いつまでも子どもに学びを委ね続けては逆効果です。「子どもに学びを委ねる勇気」とともに、「子どもから学びを戻す勇気」も必要なのです。

2つの「勇気」の必要性

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」について考える際、子どもに学びを委ねることを避けては通れません。「うちのクラスの子どもたちは学習が苦手だから、個別学習や自由進度学習はできない」という言葉をよく耳にします。また、「一斉授業こそ、みんなでつくり上げる授業になっているから協働的な学びであって、いろいろな子どもが困っていることを、みんなで解決していくというよさがある」という言葉もよく耳にします。どちらの言葉も事実でしょうし、子どもをよく見取っているからこその言葉だと思います。私も同じことを思っていました。
 しかし、一度子どもに学びを委ねてみると、自分が想像していたのとは違う子どもの姿を見ることになりました。それは、予想を上回る有能な学び手としての子どもの姿と、予想していたよりも困難を抱える子どもの姿、両方でした。だからこそ、教師が「個別最適な学び」と「協働的な学び」を考える際は、「子どもに学びを委ねる勇気」とともに、「子どもから学びを戻す勇気」をもち合わせる必要があると考えたのです。

「子どもに学びを委ねる勇気」をもつための教師の意識改革

 まず、「子どもに学びを委ねる勇気」をもつために必要なことは、「子どもに『学び方』を学ばせる」ことです。教科教育においては、「教科の特質に応じた見方・考え方を働かせる学び方」ということになります。算数で言えば、数学的な見方・考え方を働かせた学び方ということになります。
 「子どもに『学び方』を学ばせる」ということについては、本連載で何度も触れてきましたし、拙著でも多く触れてきましたので、ここでは、今まで触れてこなかった、教師の意識変革について述べていきます。

@「一斉授業が多くの子どもの理解を促す」という意識からの脱却

 教師の性であり、よいところでもあるのですが、ついつい「授業はすべての子どもが理解できるようにしなければならない」という意識が強くなり過ぎてしまっているのではないかと感じています。例えば、個別学習の話をすると「できない子どもは何をしてよいかわからなくなってしまう」という言葉をよく聞きます。確かに、そういった危険性はあると思います。しかし、「では、今までやってきた一斉授業で、できない子どもは理解できたのですか?」と問い直してみると、答えが返ってこなくなることが多いです。これはちょっと意地悪な問いです。しかし、「今までのやり方では理解できない子どもが多いから変えていきましょう」というのが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を考える際に必要な、教師の意識改革の第一歩になるのです。
 個別学習を取り入れれば、一斉授業で他の子どもの発言を聞いているだけ、黒板に書かれている字を写しているだけだった傍観者の子どもを、主体的な学習者にできる可能性が高くなります。個別学習は、子どもが自ら問題を解き、まわりの子どもたちと交流しなければ学習は進みません。一斉授業のように、先生や理解できた子どもが黒板の前に立って説明してはくれません。ですから、自分で考え、わからなければまわりの人に聞きながら、自ら学習を進めていかなければならないのです。個別学習を続けていけば、少しずつ自ら学び続ける力が身についていきます。
 しかし、教師が「この子どもたちにはできない」と思ってしまえば、自ら学び続ける力は身につき難くなります。「言われたからやったけれど、やっぱりうちのクラスの子どもには難しい」といって、1回や2回で止めてしまっては、自ら学び続ける力は身につきません。最初からできる子どもはいません。辛抱強く待ってみましょう。できる範囲で続けていけば、3か月もすると、子どもに変化が見られるようになると思います。

A全員が取り組むべきことと、取り組まなくてもよいことの線引き

 2つ目に必要なことは「全員が同じことをしないといけない」という教師の意識を改革することです。教師は、授業では全員が同じことをやっていないといけないのではないかという意識が強いのではないでしょうか。もちろん、解き方や考え方の多様性は認めてはいると思いますが、取り組んでいる問題については、全員が同じことをやっていないと、学力差が生じてしまうという恐れをもっているのではないでしょうか。
 取り組む問題が違えば、学力差が生じることはあるでしょう。しかし、取り組む問題が同じであれば、学力差は生じないのでしょうか。今まで、一斉授業で同じ問題に取り組んでいた子どもたちに、学力差が生じないのであれば、クラスの中の子どもたちの学力が均一になっているはずです。そうでないことは、だれの目にも明らかでしょう。ですから、一人ひとりの学習状況や興味・関心に応じた学習に取り組むことによって、主体的に学習に取り組む態度を養い、「生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続ける人」を育てるための礎を築いていくことが重要なのです。
 しかし、「子どもがやりたいことをやればよい」ということでは、身につけるべき知識・技能、そして、思考力や「学び方」も身につきません。そこで、「ここまでは全員が取り組むべきこと」という線引きを明確にする必要があります。その一例ですが、算数であれば、個別学習の際は、最初の1問目は教師が提示した問題を全員が取り組み、その後は、解決した問題を発展させたり、自分が興味・関心をもったことについて調べたりする活動をするとよいでしょう。この「最初の1問目」が「全員が取り組むべきこと」になります。この線引きは、「授業のねらい」に依存します。「繰り上がりのあるたし算の計算の仕方を考える」というねらいであれば、例えば、9+3という問題を提示して、全員が9+3の計算の仕方を考えるのです。そして、自分なりの解き方を考えた後は、まわりの人たちと交流しながら、被加数分解や加数分解の方法を共有し、繰り上がりのあるたし算の計算の仕方を共有していくのです。
 「ここまでは全員が取り組むべきこと」と線引きをしたら、個別学習において、教師は理解が難しい子どもの横について一緒に考えることができます。これは、一斉授業では時間的になかなかできないことでしたが、時には、解き方を教師が教えてあげることも必要でしょう。
 「全員が取り組むべきこと」が終わった後は、子どもが自分で考えた問題を解いたり、興味・関心をもったことに取り組んだりするのです。まわりの人と一緒に問題をつくりたい子どももいれば、興味があることを考えたり調べたりしたい子どももいます。そこから先は、無理に全員で共有することなく、自分で学びを進める楽しさを味わわせる時間と考えればよいのです。そう考えると、教師も気が楽になり、子どもの学びをおもしろがる余裕も出てきます。

「子どもから学びを戻す勇気」をもつために必要なこと

 「個別最適な学び」と「協働的な学び」について考える際、「子どもに学びを委ねる勇気」を意識することが多くなると思います。それは必要なことです。これまでの教育観や学習観をよりよく変えていくための教師の意識改革として、「子どもに学びを委ねる勇気」は大切です。
 しかし、それが行き過ぎると、単なる学習形態の話題になってしまう危険性があります。「個別学習をしていることがすばらしい」「自由進度学習をしている子どもは自ら学びを進めている」といった評価がなされ、子どもが間違って理解していることを教師が気づいているのに、個別学習や自由進度学習を止められなくなってしまうのです。私は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」のあり方についていろいろと述べてきたからこそ、この警鐘をしっかり鳴らしたいと考えています。
 もし「個別学習」や「自由進度学習」をしていて、「このままでは、子どもが間違った理解をして終わってしまう」と判断した場合は、一斉授業に戻すことをおすすめします。まさに、「子どもから学習を戻す勇気」をもつ瞬間です。
 しかし、その場合も、「やっぱり、うちのクラスの子どもには無理だった」と考えるのではなく、「次の時間に自分で学習を進められるようにするためには何をすればよいか」と考えて、学習を戻すことが大切です。
 下のノートは、3年生で「2桁以上の数どうしの筆算の仕方を考える」という学習を個別学習で行った際に、ある子どもが書いたノートです。

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 私から提示した「最初の1問目」は23×12でしたが、この子どもは、23×12を解決できたので、「3桁×3桁でもできるかな?」と考えて、上記の問題をつくって解いたのです。見るとわかると思いますが、被乗数と乗数のそれぞれの位の数どうしをかけて、最後に合わせるという方法で考えています。この方法でもできなくはないですが、桁数が増えると複雑になります。この子どもも、どこまで計算したのかわからなくなってしまい、間違えていました。
 この子どもに限らず、桁数を増やした問題に取り組んでいる子どもが上記の方法でやっていて、筆算の仕方が理解できていない状態でした。この状態では、この後の学習に支障が出るのは明らかでした。そこで、次の時間は一斉授業に戻し、筆算の仕方を全員で共有することにしました。
 下の写真が、次時の板書です。

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 左の筆算が、一般的な方法です。右の筆算が、前時で多くの子どもがやろうとしてわからなくなってしまった方法です。2つの筆算を見比べて、どちらのやり方がわかりやすいのかを考えさせました。そのうえで、次時は個別学習に戻しました。
 下は、先の筆算を書いた子どものノートです。3桁×3桁の筆算の解き方が変わり、正確に筆算ができるようになっています。ただ筆算の仕方を覚えているだけでなく、言葉で筆算の仕方を書いています。右ページでは、4桁×4桁の筆算にも自ら取り組んでいます。

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子どもが自ら学び続ける力を身につけられる授業を目指す

 「子どもに学びを委ねる勇気」と「子どもから学びを戻す勇気」は、どちらも必要です。ただし、忘れてはいけないことは、「生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続ける人」を育てるために、目の前の授業で何をしていくかを考えることです。そのためには、一斉授業でも、個別学習でも、自由進度学習でも、その先の学習において、子どもが自ら学び続ける力を身につけるために、目の前の授業はどうすべきなのかを考えることです。

【参考・引用文献】
・加固希支男(2023)『小学校算数 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実』(明治図書)pp.27-46,127-144

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。2023年3月明星大学通信制大学院にて修士(教育学)の学位を取得。

(構成:矢口)
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