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今月のメッセージ
今こそ、生活指導の原点に立って
愛知教育大学 折 出 健 二
「教育には、人格の完成を目指すという目的の下、個人の能力を伸張し、自立した人間を育てるという役割敢と、国家や社会の構成員として有為な国民を育成するという役割柑があり、これらはこれからの時代において変わらないものと考える」(傍線は引用者)
この文章は、昨年十一月に公表された中教審の教育基本見直し「中間報告」の一節です。教育基本法の第一条「教育の目的」を連想させながら、現行の基本的な精神は受け継ぐのだという趣旨です。すんなりと入りやすい文章であるだけに、意図は巧妙です。そのからくりは、こうです。
敢個人の能力を伸張し、自立した人間を育てる
「人格の完成」
柑国家や社会の構成員として有為な国民を育成する
一人ひとりの人格形成を、このように二つの次元に分けてとらえ、しかも、同報告の後では、敢に対応する形で、「個人の自己実現、創造性の涵養」「感性、自然・環境との関わり」、柑に対応する形で、「社会形成に主体的に参画する『公共』の精神、道徳心、自律心」「日本人としてのアイデンティティ」としているのです。
現行の教育基本法第一条は、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」とされています。
これを読めば、
「人格の完成」――「平和的な国家・社会の形成者」=「真理と正義を愛し……国民」と、一体のこととして人格形成をとらえているのは明白です。
先の「中間報告」は、人格形成を、「個人にとって」と、「国家・社会のために」という二つの機能に分けて、これを統合して国家の面から方向づけ、 世紀の教育理念にしていくというのです。もともと分割不可能な独自な存在である個人をこのように二分してとらえるのは、「国家のために」という教育目的の妥当性を押さえるためとしか考えられません。その上、「平和的な」の形容句がどこにも出てこないのも「中間報告」の特徴です。国家の教育がここまで露骨に本性を現してきていると見るべきでしょう。
わたくしたち全生研は、発足当初から、「憲法と教育基本法の主旨である平和と民主主義をめざす」として、子ども一人ひとりの人格が民主的な資質をそなえたものに成長・発達していくのを導き、たすける営みとして生活指導をとらえ、追究してきています。全生研指標の第二項は次のように述べています。
「わたくしたちは、一人ひとりの子どもを具体的な生活者としてとらえ、かれらが自己の環境との能動的なとりくみをとおして、人間としての権利をとうとび、科学的真実を愛し、民主的社会の成員としての諸能力をもった人間にまで成長することに責任をもつ。」
七O年代以降は、こういう内実をさらに自治能力等の視点からふかめつつ、そのトータルな人格のあり方を「民主的人格の形成」ととらえて、生活指導運動を切り開いてきています。こうしたわたくしたちの歩みからも、いま「人格の完成」を都合よく機能的に二分して国家の人材育成の論拠にしようとする「見直し」の動きには十分に警戒を払い、そうした巧妙な教育理念のあやうさを打破していく必要があります。
そのためにも、子ども・父母と共同して、全国各地での子ども集団づくり・学校づくりの実践と運動をいっそう深め、平和・民主主義を基盤とする市民教育をつくりだしていこうではありませんか。
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