- 特集 子どもの生きづらさと共に歩む―教師の指導性
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今月のメッセージ
暴力から対話へ―ドイツで見た取り組みから
全生研常任委員 高橋 英児
2005年9月23日付の朝日新聞の一面に、「公立小の校内暴力 先生相手急増」という見出しで小学校での暴力問題が深刻化している事態が報じられていました。同新聞では、中高生の校内暴力が沈静化する傾向にあるのに対し、小学校の校内暴力の発生件数と対教師暴力が昨年よりも増加していることを指摘し、小学校の暴力に歯止めがかかっていないとまとめていました。この報道は、その前日に文科省が発表した「生徒指導上の諸問題について(概要)」(同省HPの「報道発表一覧」を参照のこと)に基づいているのですが、実際にその文科省の報告を見ると別の点も気になりました。詳しい件数は文科省の報告に譲りますが、特に、小・中・高のいずれの学校段階においても生徒間暴力の件数の方が対教師暴力や他の暴力に比べてもはるかに多いことです。報道では対教師暴力が特に問題視されていましたが、むしろ、この子どもの間の暴力の問題にこそもっと目を向ける必要があると私は感じました。
この報道がなされた頃、私は、外国では学校での子どもの暴力の問題をどのように解決しているかを調査するために、ドイツの南西部のバーデン・ビュルテンベルク州のルードヴィッヒスブルク近郊にあるいくつかの学校を訪問していました。特に、子どもたちのトラブルを彼ら自身に解決させる試みとして10年ほど前から始まり、州のかなり多くの学校種・学校段階にあるシュトライト・シュリヒターと呼ばれる制度に興味を持ち、実際に活動する子どもたちや先生たちに会って話を聞いてきました。
このシュトライト・シュリヒター(Streitschlichter)とは、紛争の調停者・仲介者という意味で、子どもたちのトラブルによる対立などの仲裁を仕事とする子どもたちのことを言います。相談内容には、教師―生徒のトラブルもあるそうです。「Faustlos」(ゲンコツがないという意味)というプロジェクトで特殊学校でのシュトライト・シュリヒターの指導に取り組んでいる先生は、この仕事は裁判官や警察官のような仕事ではなく、対立する二人をつなぐ「橋」の役割を果たすもので、対立する者が本当に納得する解決策を一緒に追求する仕事だと話してくれました。この仕事は、子どもたちの中から公募され、希望者の中から適任者が短期間のワークショップなどの研修を経た後に、学校に任命されます。任命された子どもたちの顔写真と名前・学年は校内に張り出され、学校の子どもたちに広く知らされます。
訪問先の基幹学校では、この話し合いの様子をロールプレイ形式で見せてもらいました。まず、トラブルで対立する当事者二人(グループの対立の場合は双方の代表者)が、シュトライト・シュリヒターに事前に予約をして、彼らのいる部屋を訪問します。あくまでも、対立する両者が解決を望む場合に自由意思で相談に行くとのことでした。次に、当事者二人に対して、必ず二人ペアのシュトライト・シュリヒターが向かい合って座り、トラブルの発生、その経過などを聞き取り、双方の主張や要求を聞きながら、両者が納得できる解決策を話し合っていきます。深刻な問題の場合は、何度も時間をかけて話し合います。最後に、その解決策に双方の合意が見られたら、書類に合意事項、合意した日付と場所を記入し、当事者とシュトライト・シュリヒターが署名を行い、解決に至るというものでした。この書類の呼び方は学校によって異なりますが、私が見た書類は、「契約」(Vertrag)や「調停の協定」(Schlichtungsvereinbarung)という名前でした。昨年は全体で十数件ほどを解決したそうです。この学校には、十二人程のシュトライト・シュリヒターがおり、毎週ワークショップ形式のミーティングも行っているそうです。彼らが実際に相談活動を行う部屋もあり、そこも見学させてもらいました。「問題は普通だ」「問題が問題なのである」「問題には歴史がある」―壁にあった張り紙がとても印象的でした。
ドイツでは、このように子どもたちの間で生じるトラブルを暴力ではなく、公平な立場の第三者を交えた対話を通して解決していく方法を学校生活に取り入れる試みがなされています。今回見せてもらった取り組みは、市民的公共性を学校で追求する一つのモデルとして大変興味深く感じました。
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