生活指導 2006年2月号
子どもの生きづらさと共に歩む―教師の指導性

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生活指導 2006年2月号子どもの生きづらさと共に歩む―教師の指導性

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ジャンル:
生活・生徒・進路指導
刊行:
2006年1月6日
対象:
小・中
仕様:
A5判 124頁
状態:
絶版
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目次

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特集 子どもの生きづらさと共に歩む―教師の指導性
子どもの生きづらさと共に歩む―教師の指導性
大和久 勝
実践・小学校
ユキコと母親の生きづらさに寄り添って
芳野 かおり
運動会で逆立ちをさせてください!~ADHDのゴンの願い~
桂川 萌木
実践・中学校
それぞれの旅たち~生徒と学び合った3年間
海山 里三
分析
教師の指導性を支える視点―三氏の実践を読んで
宮﨑 久雄
論文
子ども・若者の生きづらさとむきあう―かれらと〈共に〉歩むために―
照本 祥敬
第2特集 教育に臨時はない〈現場からの報告〉
いまこそ「教育に臨時はない」を職場、保護者、地域の合意に
波越 櫂
「特別支援教育アシスタント」として働くということ
梶岡 寛之
生活保護を受けながら教師として生きる
加藤 貞子
全生研があったからこそ続けてこれた
千葉 純一
今月のメッセージ
暴力から対話へ―ドイツで見た取り組みから
高橋 英児
初めての人のために やさしく解説する集団づくり入門 Q&A・小学校 (第11回)
係活動をさらにバージョンアップさせるには
篠崎 純子
初めての人のために やさしく解説する集団づくり入門 Q&A・中学校 (第11回)
3年生を送る会を作り出すために
本田 広行
実践の広場
私の教室
癒しの空間
山本 純
すぐ使える遊び
中学校の校則をすり抜け、かいくぐり、ついには改革に至る遊び
清水 湧三
授業のアイデア
みんなが活躍でき、運動量が増えるバスケットボール型ゲームのルール
伊藤 博文
楽しいイベント
「職員の出し物」で盛り上がろう!
倉持 利江子
部活動・クラブ活動の工夫
ものすごく けっこう いける クラブで始めたら…どう!?
暘谷 賢
子どもの文化事情
マスコミ文化から始めてみよう
田井 美月
手をつなぐ―親と教師
親とつくる障害児学級
武 三郎
心に残る子どもとの対話
伝わる「言葉」がある 伝わる気持ちがある
岸田 久惠
私のオフタイム
リフレッシュの秘訣は短い放浪の旅
白石 健一郎
案内板 集会・学習会のお知らせ
第47回全国大会報告
研究総括
折出 健二
~<共力>を育てる生活指導・集団づくりの展開がここに~
常任委報告
高原 史朗
~多様なつながりを模索した埼玉大会―まとめにかえて~
現地実行委報告
笠原 昭男
~埼玉全国大会を振り返る~
北から南から
各地の基調提案 岡山
岡生研基調提案作成委員会
~さまざまな発達課題を持つ子どもたちに開かれた集団づくり~
教育情報
教師にとっての人生後半期の生き方
浅野 誠
読者の声
12月号を読んで
長編実践記録 (第2回)
「学級崩壊」の危機をさまよって
山本 みのる
~広がる荒れと微かな光~
全生研の窓
編集室だより
編集後記
大和久 勝

今月のメッセージ

暴力から対話へ―ドイツで見た取り組みから

全生研常任委員 高橋 英児


 2005年9月23日付の朝日新聞の一面に、「公立小の校内暴力 先生相手急増」という見出しで小学校での暴力問題が深刻化している事態が報じられていました。同新聞では、中高生の校内暴力が沈静化する傾向にあるのに対し、小学校の校内暴力の発生件数と対教師暴力が昨年よりも増加していることを指摘し、小学校の暴力に歯止めがかかっていないとまとめていました。この報道は、その前日に文科省が発表した「生徒指導上の諸問題について(概要)」(同省HPの「報道発表一覧」を参照のこと)に基づいているのですが、実際にその文科省の報告を見ると別の点も気になりました。詳しい件数は文科省の報告に譲りますが、特に、小・中・高のいずれの学校段階においても生徒間暴力の件数の方が対教師暴力や他の暴力に比べてもはるかに多いことです。報道では対教師暴力が特に問題視されていましたが、むしろ、この子どもの間の暴力の問題にこそもっと目を向ける必要があると私は感じました。

 この報道がなされた頃、私は、外国では学校での子どもの暴力の問題をどのように解決しているかを調査するために、ドイツの南西部のバーデン・ビュルテンベルク州のルードヴィッヒスブルク近郊にあるいくつかの学校を訪問していました。特に、子どもたちのトラブルを彼ら自身に解決させる試みとして10年ほど前から始まり、州のかなり多くの学校種・学校段階にあるシュトライト・シュリヒターと呼ばれる制度に興味を持ち、実際に活動する子どもたちや先生たちに会って話を聞いてきました。

 このシュトライト・シュリヒター(Streitschlichter)とは、紛争の調停者・仲介者という意味で、子どもたちのトラブルによる対立などの仲裁を仕事とする子どもたちのことを言います。相談内容には、教師―生徒のトラブルもあるそうです。「Faustlos」(ゲンコツがないという意味)というプロジェクトで特殊学校でのシュトライト・シュリヒターの指導に取り組んでいる先生は、この仕事は裁判官や警察官のような仕事ではなく、対立する二人をつなぐ「橋」の役割を果たすもので、対立する者が本当に納得する解決策を一緒に追求する仕事だと話してくれました。この仕事は、子どもたちの中から公募され、希望者の中から適任者が短期間のワークショップなどの研修を経た後に、学校に任命されます。任命された子どもたちの顔写真と名前・学年は校内に張り出され、学校の子どもたちに広く知らされます。

 訪問先の基幹学校では、この話し合いの様子をロールプレイ形式で見せてもらいました。まず、トラブルで対立する当事者二人(グループの対立の場合は双方の代表者)が、シュトライト・シュリヒターに事前に予約をして、彼らのいる部屋を訪問します。あくまでも、対立する両者が解決を望む場合に自由意思で相談に行くとのことでした。次に、当事者二人に対して、必ず二人ペアのシュトライト・シュリヒターが向かい合って座り、トラブルの発生、その経過などを聞き取り、双方の主張や要求を聞きながら、両者が納得できる解決策を話し合っていきます。深刻な問題の場合は、何度も時間をかけて話し合います。最後に、その解決策に双方の合意が見られたら、書類に合意事項、合意した日付と場所を記入し、当事者とシュトライト・シュリヒターが署名を行い、解決に至るというものでした。この書類の呼び方は学校によって異なりますが、私が見た書類は、「契約」(Vertrag)や「調停の協定」(Schlichtungsvereinbarung)という名前でした。昨年は全体で十数件ほどを解決したそうです。この学校には、十二人程のシュトライト・シュリヒターがおり、毎週ワークショップ形式のミーティングも行っているそうです。彼らが実際に相談活動を行う部屋もあり、そこも見学させてもらいました。「問題は普通だ」「問題が問題なのである」「問題には歴史がある」―壁にあった張り紙がとても印象的でした。

 ドイツでは、このように子どもたちの間で生じるトラブルを暴力ではなく、公平な立場の第三者を交えた対話を通して解決していく方法を学校生活に取り入れる試みがなされています。今回見せてもらった取り組みは、市民的公共性を学校で追求する一つのモデルとして大変興味深く感じました。

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