- 特集 軸になる活動をつくる〜9月からのスタート〜
- 特集のことば
- 軸になる活動をつくる〜9月からのスタート〜
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- 提案
- <小>どーんとかまえた指導を
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- <中>豊かに多様に、つながれる時間を―2学期のスタートにあたって
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- 実践報告
- [小]Let's Talk!―話してみなけりゃわからない
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- [小]小一プロブレムを乗りきる―活動の中で子どもたちをつないでいこう
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- [中]9月―あらためて出会いを創る行事を
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- [中]創ろう!新しい文化祭を!―全校で取り組んだ巨大壁画
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- コラム/2学期制〜私はこう思う
- 〈小学校〉2期制と3期制はこんなに違う?―一年間の実践を大きく左右する?
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- 〈中学校〉2学期制の課題―子どもにとって良いシステムかどうかが大切
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- 第2特集 同僚とのトラブルを考える
- 報告
- <小>違和感をもった幾つかのこと
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- <小>「先輩教師のいじわるに悩む若い教師」と関わって
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- <中>「私…眠れないんです」
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- <中>違いをトラブルにしない「学年教師集団づくり」
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- 解説論文
- 同僚との「トラブル」を起こす者の哀しさを読む ―「創造」と「変革」の文脈へ―
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- 今月のメッセージ
- 2学期に、多様な物語をつくりだそう
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- 私の授業づくり (第30回)
- 小学校〈道徳〉/道徳の授業づくり(2年)
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- 〜低学年で初めに押さえておくこと〜
- 中学校〈道徳〉/「LOVE」と「LIKE」
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- 〜行為、行動を問う〜
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- 手をつなぐ―教師・親・地域の人々
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- 〜変化し発展してきた地域子どもづくり「ひまわり学校」〜
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- 『緊急解説!福島第一原発事故と放射線』ほか
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- 〜子どもたちとつくる「裁判」の授業―私塾の実践記録・小学校5年生の授業―〜
- 「東日本大震災」全生研MLその後
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- 編集室だより
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- 編集後記
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今月のメッセージ 2学期に、多様な物語をつくりだそう
愛知教育大学 山田 綾
子どもたちは、夏休みをどのように過ごしているだろうか。
夏休みに、子どもは学校以外の生活に浸ることになるが、その子その子の事情は、東日本大震災以降、さらに多様であろう。被災した人とそうでない人、東日本と西日本、そして被災した人の間でも、経験や状況が異なり、感じ方の違いが生じていると誰もが実感しているのではないだろうか。
大震災と原発は、分断の境界線を幾重にも刻みつつある。鷲田清一氏は、「永田町の泥仕合」や「東北復興構想」に象徴されるように、生じた<隔たり>が増幅され「復興」が外から語られてしまう現状に対し、臨床哲学の立場から、被災地の人が自分という存在の<語りなおし>を迫られるなかで、傍らにいつづけること、想像力を鍛えることの大切さを提言している(朝日新聞、二〇一一年6月11日)。
教育実践をつくるというしごとにおいて、そのことが問われ続けてきたように思う。一九八九年に低所得者向け団地の調査を行った久冨善之氏が、ソーシャルワーカーや教師が、「ヴェール1枚」向こうにある生活現実を想像できていないことがある、と語られていたことを思いだす。
夏休み明けの教室、その子その子の事情が、より鮮明に浮き出される。2学期に軸になる実践を立ち上げていくとき、子どもたちの多様な物語が立ち上がり、語りなおされていく学びや活動を考えたい。
5年生のある学級の2学期、幸太が「もう疲れた」と言っていると聞き、タイキのことが頭をよぎった。前年度の夏休み明けに皆が「モチモチの木」や「トマト学習」に打ち込むなかで、授業に集中できないタイキは、火遊びをして反省し、自分を語りなおすことなく一年を終えたように思えた。
幸太は、1学期、手を挙げ続けたが、どこか不自然な感じがした。両親の離婚で4月に転校してきた彼は、「ボス」を返上して生まれ変わろうと、懸命に「よい子」を演じていたのだ。前年度にいじめを経験した子どもたちは、幸太に寄りつかなかった。2学期に教科ごとの多彩なグループや趣味グループを立ち上げつつあったが、孤立しがちな幸太は、喫煙事件を起こす。数日後、休み時間に真っ先に運動場に飛び出していく幸太が、一人残って漢字ドリルをしていた。院生が理由を尋ねるが、「疲れてるから」とぼそぼそ言うだけ。夕方の打ち合わせ会で謎が解けた。担任との個人面談で、母親がリストラされ、幸太がしっかり勉強し家計を支えられるよう頑張ることになったという。胸が痛んだ。
一週間後、労働と格差を考える社会科の授業で「見学した自動車工場で、働く人たちは何を考えて働いていたと思いますか?」と聞かれ、子どもたちは緊迫感が漂っていたラインを思い出し、「買う人が安全に乗れるように」「プライドや責任をもって」と発言した。が、幸太は「ちょっと違うんだけど、少しでもミスをしたら……、あの、クビになる可能性があるから、それでなんかあの……、家がそれで金が入らなくて……、家が大変になって……、なんかそれで食べ物が食べられなくなって、死んじゃう可能性があるから」と、とつとつと絞りだすように語りきった。「よい子」を演じ発言してきた幸太の「声」を初めて聴いた気がした。子どもの意見や疑問から、家庭科で、解雇や賃金格差の背後にある性別役割分業や男女の差別と区別、インターセックス、単親家庭政策、子ども手当を取り上げ、意味を議論していった。傍にいてくれる仲間もできた幸太は、椅子取りゲームへの参戦としての勉強ではなく、学びのなかで語りながら、自分の苦しみの根源がどこにあるのか、気づいていったのではないだろうか。鷲田氏は、「語りなおす」とは、自分の苦しみへの関係を変えようとすることであり、当事者自らが語りきらなければならないと指摘する。学びはそれをうみだす場をつくるように思う。
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